第5話
高校にについた俺はまず案内に従って自分のクラスを確認しに来ていた。
(えーっと、相馬……相馬……お、あった、3組か)
周りで友達同士であろうグループが同じだったとか違ったとか一喜一憂している中、知り合いがいない俺は自分の名前を見つけてすぐにその場を離れる。
昇降口を抜け自分のクラスへと入ると既に何人かが集まって騒いでいるところだった。黒板には席順が描いてあり、自分の出席番号を探す……おっ、窓際2列目の一番後ろか……。
幸いまだ周囲の生徒は登校していないらしく、ガランとスペースが空いている。さて、早くに登校したためにまだ時間があるので考えていた作戦を実行することにした。
まずはスマホを取り出すと母さんと美央に無事についたとメッセージを送っておく。そのままイヤホンを取り付けてミュージックプレイヤーをタップし、話しかけられても聞こえていませんよとアピールをしておく。さらにさらに、文庫本を開いていれば完璧だろう。今日という日の為にいかにして関わられないようにするのか考えつくした方法だ……これでも話しかけてくる奴がいるとは到底思えない。
徐々に登校してくる生徒が増えていき、それぞれが集まりながら話し込んでいくのを横目で見ながら、思っていた通り中学からのグループがそのまま上がってきているな……と緩みそうになる口元を必死にごまかし、手元の文庫本へと視線を落とす。
ちらちらと俺を見る視線を感じなくはないが今の俺に話しかけてくる奴なんて居ないし、ただ見慣れない生徒がいるくらいの認識だろう。期待通りの周りの反応に安堵しつつも早く時間が過ぎるの祈っていると、にわかに周りが騒ぎ出した様子なのに気が付いた。
なにやら女子がキャーキャーと黄色い声を上げて騒いでいるので視線だけそちらに向けてみると、絵にかいたようなイケメンがそこには居た。
すらりとした背にチャラくなりすぎない程度に着崩した制服、整った顔つきで人懐っこそうな笑顔を見せつつもその目には意思の強さが見える……ただ一目見ただけだが間違いなくモテる男の代表と言ったところだろう。
そんな奴が同じクラスだと知り俺は自分の表情が緩むのを自覚した……だってそうだろ、あいつは間違いなくクラス、あるいは学年でもトップカーストだ。それも周りに集まる人だかりを見るに中学からなのは間違いないだろう。それこそ俺以外のクラスメートが全員集まっていると言っても過言じゃない。
(あいつがいてくれれば間違いなく目立たなくて済むな……)
そんなヒーローに出会ったかのような印象を抱きつつも、すぐに興味を無くして視線を元に戻した。だが彼は俺の想像をはるかに超えたイケメンだったらしい……。
ふっと目の前に人の気配を感じて顔を上げたらそこには彼がいた……それも前の席に座りこっちを見て。俺と目が合ったのを確認してイヤホンを外すようにジェスチャーを交えて告げてくる。流石にこの状態で無視することが出来るわけもなく、渋々といった表情を露骨に作りながら応えた。
「……何か用?」
ほっといてくれ、興味はないという感情を思いっきり込めて一言告げる。だが、そんなことはお構いなしに話しかけてくる。
「僕は芹澤 春翔(せりざわ はると)よろしく。中学から上がってきた……って感じじゃないよね?」
「相馬 夏希……外部だ、よろしく」
「あぁ、やっぱりね。見たことが無いって思ったんだ、同じクラスで席も前後だし仲良くしてくれると嬉しいよ」
そう言いにっこりと笑う芹澤は手を差し出してくる……前後だと!?冗談じゃない、そうなるとこの一角がたまり場になるのは明らかじゃないか! ……とはいえ放置すると後が怖そうだし(特に女子が)軽く握手で応えておく。
「……うるさいのは嫌いなんだ、ほどほどにしてくれると助かる……よろしくな芹澤」
「ははっ、わかった。僕の事は春翔と呼んでくれればいいよ。夏希は何処から来たんだい?」
……そのまま話し込まれるかと危惧して頬が引きつるのを感じたが、二言三言交わした後、他のクラスメートに呼ばれた芹澤は「また後で」と望んでもいない台詞を残して立ち去って行った。あいつが前の席……早いところ席替えがしたいと思ったのは仕方が無いだろう。
まぁ改めて周りを見ると、芹澤以外のクラスメートはまだ距離を測りきれていない様子なので適当に相手をしておけばそれほど目立つことも無いだろうな。
全く、俺みたいなモブにまで声をかけてくるわ、あっさりと名前呼びにするわで流石はイケメンってところだろうか……。
芹澤という嵐が去ったので、改めてイヤホンを付けようとするがふと見た時計はそろそろ移動をしなくてはいけない時間に差し掛かっていた。この後入学式を経てSHRになるはずだ……。
既に移動を始めているクラスメートも出始めたので、俺も行くかと片づけを始める……と、不意に廊下を走ってくる足音が響いてきた。
「もー!明莉(あかり)のせいでぎりぎりだよー!ほらっ急いでー!」
そんな声と共に教室に駆け込んできたのは目を見張るような美少女だった。
赤みがかったショートボブはその子の活発なイメージそのままで、見た感じ背は160無いくらいだろうか。中学生にも見えそうだが、発育はそれなり……っと見ている場合じゃなかったな。
移動を始めるクラスメートも見て焦っているのか、クルクルと変わる表情を微笑ましく思いながらも気を引き締めて席を立つ。
「ごめんね孔美(くみ)……間に合ってよか……」
もう一人の声が聞こえたのでふとそちらに目をやった直後、そこに居る女の子を見て思わず立ち止まってしまった……な ん で こ こ に ?
遅れてきたのは背中まで伸ばした綺麗な黒髪の女の子。先に来た子よりも少し背が高く、走ってきたのだろう少し肩で息をしている。
教室に入って来て孔美と呼ばれた子に声をかけている途中で、ちらっとこちらを見たとたんに目を見開いて固まってしまったようだ……その姿から視線を外すことが出来ない……。
なにせ同じクラスだなんて思いもしなかったし、もう会う事も無いだろうとすら思っていた彼女が目の前に居るのだから。
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