第2話

「も、もしもし」


『君、詐欺の仕方を教えてほしいんだって?』


 電話越しに聞こえた声は男性で、声の感じから成人年齢は越えていると思われた。少年は言葉を選ぶように、丁寧に返事をする。


「は、はい。自分で詐欺の手口を考えたりするんですけど、一人だとバレないよう実行するのが難しくて……。プロの詐欺師さんなら、バレない詐欺の仕方を詳しく教えてもらえるんじゃないかと思ったんです」


 はっきりとした口調で言う少年に、男は『ふうん……』と言ったきり少し黙る。少年はその緊張感に唾を飲み込んだ。


『どうして詐欺を教えてもらいたいの?』


 再び質問を投げかけた男に、少年は迷いなく答える。


「どうしてもお金が欲しいからです。僕はまだ中学生で自分じゃお金を稼げなくて……」


 語尾を弱めた少年に、それを近くで見ていた青髪の青年が鼻をすする。少年の境遇が可哀想なものだと勝手に想像し感動したのだろう。その様子を赤髪の青年との黄髪の青年は苦笑いで見ていた。

 電話先の男は微塵も動揺せず、『分かった。ちょっと待っていて』と一旦少年との会話を止める。近くにいる別の人物と何か話しかけているようだが、話の内容はよく聞こえない。少年の処遇について相談をしているのだろうか。少年は自分の心拍数の速さを感じながら、男が電話に戻ってくるのを待った。


『君、今、自分で考えた詐欺の手口、言える?』


 数秒後に聞こえた男の声に、少年は心の中でほくそ笑んだ。


 ――ここまでくれば、もうこちらのペースだ。


 少年は確認するように、ポケットにいれた紙を触る。


「僕の考えた手口を見てもらえたらなと思って、紙に書いてきました。口頭での説明は分かりにくくなると思うので、実際にその紙を見てもらいたいんですが……」


 少年の言葉に、男は再び電話の先にいる人物と話をする。返事を待っている間、少年の心の中にもう不安はなかった。

 少年の想像通り、男は先ほどよりも短い時間で電話口に戻ってきた。


『分かった。ソラシタ公園のトイレの裏に、その手口を書いた紙を持って来て。後のことはその内容次第だ』


 少年は男の返答に、満面の笑みを浮かべる。その様子に話がうまくいったことを感じたのか、青髪の青年が嬉しそうな顔をした。一方、赤髪と黄髪の青年はどこかホッとしたような顔をしている。よほど彼のことを不安に思っていたようだ。


 それから、少年は男と話を終え、電話を切って青髪の青年にスマートフォンを返す。そして、「面接みたいなものに行ってきます。色々と、ありがとうございました」と元気よく頭を下げると、ソラシタ公園へと走って向かった。

 青髪の青年は「頑張れよ」と手を振っていたが、残りの信号ブラザーズは互いに顔を見合わせ、大きくため息を吐いたのだった。


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