少年は、嘘を吐く
猫屋 寝子
第1話
「詐欺の仕方、教えてください!」
一人の少年が、カラフルな髪色をした集団に頭を下げている。中学生くらいだろうか。まだ幼さが残る顔立ちをしているが、妖艶な雰囲気をまとったその容姿は美少年という言葉がふさわしいものだった。
頭を下げられている集団は、どこか困惑した表情を浮かべている。
「いや、詐欺の仕方を教えてくださいって言われても……」
「俺ら、詐欺なんかしてないし?」
「そうそう。見た目で詐欺しているって思ったんなら、そいつは偏見だぜ?」
集団の真ん中にいる青年三人がそれぞれ言葉を発する。恐らく彼らがその集団の中で一番偉いのだろう。その他大勢は頷くだけで、彼らに同意を示していた。
少年は頭を上げて、改めてその三人を見る。彼らの髪色は右から赤・黄・青で、少年は三人のことを心の中で信号ブラザーズと呼ぶことにした。もちろん、そんな失礼なことを口にしないように気を付ける。下手なことを言ってリンチにでも遭ったら災難だ。
少年はそんな内心を隠し、赤髪の青年を見る。
「でも、僕、さっきあなたが電話で『オレオレ詐欺』をしているのを聞きました」
赤髪の青年は目を見開くと、慌てたように首を横に振る。
「あれは、自分のおばあちゃんに電話をかけていただけだよ」
少年はその返答に首を傾げた。
「あれ? 電話先の相手に名乗っていた名前とさっきお仲間に呼ばれていた名前が違っていたから、てっきり詐欺をしているのかと思ったんですけど……。話の内容もお金が欲しいってことでしたし……」
「そ、それは……」
少年の言葉に赤髪の青年は顔を強張らせる。
そんなやりとりを聞いていた青髪の青年が、愉快そうに口角を上げた。
「へぇ。お前、ガキのくせに観察力あるな。良いぜ。気に入った。上に掛け合ってやるよ」
青髪の青年の言葉に、黄髪と赤髪の青年が慌てた様子を見せる。
「ちょっと待てよ。勝手にそんなことして……」
「そうだよ。詐欺の仕方を教えてください、なんてやばい奴だって」
少年の存在を懸念する二人を、青髪の青年は鼻で笑った。
「フン。こいつは俺達が詐欺しているのを明らかにするくらい頭が回る。しかも、こいつは自ら詐欺をしたいと言っている。つまり、俺たちの仲間だ。仲間に頭が良い奴が入るのは良いことだろ。ボスだって喜んでくれるさ」
赤髪と黄髪の二人は顔を見合わせると、諦めたようにため息を吐いた。こうなると、青髪の青年は引かないことが分かっているのかもしれない。二人は頷くことで、青髪の青年に同意を示した。
青髪の青年はそれを見ると、満足そうな表情を浮かべる。そして、スマートフォンを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
少年はその様子を、嬉しそうな顔で見ている。黄髪の青年はそんな少年に不安そうな瞳を向けていたが、青髪の青年が電話先の相手と話を始めたことでそちらへと視線を移した。
「突然すみません。『詐欺の仕方を教えてくれ』というガキが来たんですが、どうしましょうか。このガキ、頭が回るらしく、俺達が詐欺をしていることも見抜きました。……ええ。……はい。分かりました。今替わりますね」
青髪の青年はそう言うと、怪しく笑い、少年にスマートフォンを渡す。
「俺らに指令を出してくれる人だ。お前と話がしたいって」
少年は頷くと、緊張した顔つきでスマートフォンを受け取る。
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