人工精霊四か条

 深夜、闇の塔の自室ベッドに横たわっていたユウキは寝たふりを諦めて目を開けた。


 なぜなら寝巻き姿で枕持参の双子、ムコアとミズロフにのしかかられて寝ていられる男などこの世に存在しないだろうからだ。


 かといってまっすぐ彼女たちに応答してしまえば、すぐにでも成年向けの行為が始まってしまいそうだ。


 それはなんとか回避したい。


 しかし強く拒絶してしまえば人間関係が気まずくなる。


 ユウキはこの場をマイルドに収める冴えたセリフを発した。


「おいおい、寝ぼけてるのか。ここはオレの部屋だぞ。お前たちの部屋はこのフロアのもっと奥だ」


 第四クリスタルチェンバーの下に宿泊フロアがある。


 塔で寝起きする者が増えるたびに空いているゲストルームを自室として利用してもらうよう提供している。


 少しずつ塔に寝起きする者が増えつつあるのだが、意外にもまだ満室になっていない。


 シオンによれば、それは古代にかけられた建築魔法の効果とのことである。


 なんでも塔の一部が魔法によって四次元空間化されており、物理的な容積より多くの部屋を収容できるらしい。


 だとしても戦闘員や関係者は日毎に増えつつある。この調子ではいずれ満室になるに違いない。


 そのときはシオンの建築魔法で塔の拡充作業をしなくてはならないが、そうなるとまた魔力が足りなくなるのは目に見えている。


 などなど、塔の魔力不足という終わらない課題に悩みつつ、ユウキはムコアとミズロフの背を押して室外に送り出した。


「ほらほら、寝ぼけるなよ」


「そっ、そうであったな。我らの部屋はこのフロアの奥であったな」


「ははは。ぐっすり寝ろよ……」


 ドアに鍵をかけてベッドに横になる。


「……ふう」


 なんとか双子からの欲求を回避したものの、いつまでもこうしてのらりくらりと逃げ回っているわけにもいかない。


 彼女らの欲求に応えることはやぶさかではないのだが、この現実において、物事はエッチな漫画のようにシンプルには進まない。


 ひとたび誰かと性的な関係を持ってしまったら、それはこの闇の塔内における人間関係の力学にかつてない衝撃をもたらすことは容易に想像できた。


 それによって関係者はチームワークを失い、毎晩の敵襲を押し返す力を失い、結果、世界は破滅するのである。


(気をつけないとな……)


 だがそのときだった。また自室のドアが開いた。


「ユウキ殿……我らはごまかされはせぬぞ。今夜こそは絶対に暗黒をチャージしてもらう!」


「なんだ、またお前らかよ。しつこいな」


 ユウキはベッドで半身を起こすと反論した。


「ムコアもミズロフも、どうせ暗黒鎧を持ってないんだ。暗黒をチャージしたって無駄だろ」


 寝巻き姿のムコアとミズロフも反論した。


「確かに……今夜、我らは戦闘でほとんど役に立つことはできなかった。しかし明日、明後日と戦況は悪化していくことは自明! 我らとていつ前線で戦わねばならぬともわからぬのだ。暗黒鎧がないからこそ、多くの暗黒が必要なのだ!」


「たっ、確かに……」


 言われてみるとその通りだ。暗黒が無いまま戦場に送り出すことは双子の命に関わる。


(どうもオレは『欲を捨てて清らかなナンパをする』という決意にとらわれて、大局を見誤っていたのかもしれない)


「わかったよ……チャージしてやる。暗黒を。できる範囲でな」


 ユウキは枕元のiPhoneを取り出すと、ムコアとミズロフの性的興奮が高まると思われる成人向け動画を検索した。


 そう……何もユウキ自らが性的活動に手を染めなくとも、この双子の暗黒をチャージすることは可能なのである。


 iPhoneでこの双子の性的渇望を高める動画を再生し、そののちに双子を放置することにより、暗黒を非接触的にチャージできるのである。


 うら若き双子の乙女と深夜に一室で成年向け動画を見るなんて、今の自分が求めている清らかさの対極にある行為である。


 だがそれにより双子の命が守られるなら避ける理由はない。


 ユウキは双子の欲情を掻き立てると思われる動画を再生したiPhoneを机に置き、その前に椅子を二つ並べた。


「さあここに座って、二人で好きなだけ動画を見ろ。ただし見るだけだぞ」


「わ、わかった」


 大人しく椅子に腰を下ろして動画の鑑賞を始めた双子をユウキは背後から監視、監督した。


 なぜならこの『成人向け動画による暗黒のチャージ』は、性的渇望を高めるだけ高めつつも、それを決して解消しないことが肝心だからである。


「おい、手を動かすなよ」 


「な、何も動かしてなどおらぬ!」


「ならいいんだが」


 双子はときおりもぞもぞとみじろぎしていたが、なんとかビデオ一本分の暗黒のチャージに成功した。


「よし、よくやったな。偉いぞ」


 ユウキは双子を労うと、その背中を軽く叩いて部屋から送り出し、ベッドにひとり横になった。


「ふう……これでようやく眠れそうだぞ」


 ユウキは目を閉じた。


 *


 だがユウキの眠りはすぐに遮られた。


 また自室のドアが開き、何者かが侵入してきてベッド脇に立ったのだ。


「誰だよ、まったく……あ、アトーレ?」


 ベッド脇に立っていたのは寝巻き姿のアトーレだった。しかも傍に双子を引き連れている。


 双子は師匠と共にいて緊張しているのか、ビシッと直立不動だ。


「ど、どうしたんだ、アトーレ」


「夜分、こんな姿で失礼します。ユウキさん……お願いがあるのです」


「わかったよ。アトーレも暗黒をチャージしてほしいんだな」


 アトーレはうなずいた。


 ユウキはiPhone方式の暗黒チャージをしようとした。


 だがアトーレに止められた。


「いいえ、ユウキさん。私はすでにその刺激に慣れきっています」


「そりゃそうか。苦行のプロだもんな。それじゃあこのベッドに寝てくれ。オレが物理的な刺激でアトーレの暗黒を高めてみよう」


「はい……」


 ベッド脇に直立した双子らに見つめられながらアトーレはベッドに横になった。ユウキはアトーレの性的な欲望を物理的な刺激によって高めていった。


 やがて限界点に達した。これ以上はまずい。


「……ここまでだ」


「ありがとうございました」


「それじゃあオレはもう寝る。そろそろ帰ってくれ」


 しかしアトーレはベッドから降りなかった。


「お願いがあるのです」


 アトーレは真剣な目でユウキを見つめた。


「……なんだよ」


「続きを最後までしてほしいのです」


「馬鹿な。そんなことをしたらアトーレの暗黒が消えてしまうぞ……」


「いいえ。最後までしてほしいのは、私にではありません。この双子のいずれか一方に、最後までしてあげてほしいのです」


「ば、馬鹿な……そんなことをして満足感を得たら、そいつの暗黒量が完全にゼロになるはずだ」


「ええ、わかります。ユウキさんと最後までしたら、深い満足により、その者の暗黒量がゼロになることは戦士の直感として正しいことであると感じられます」


「だったら……」


「それでも我らの暗黒量は総体的には増えるのです」


「ユウキどの……我らからもどうかお願い申し上げる。我ら双子のいずれか一方と最後までしていただきたい」


「……詳しく説明してもらおうか」


 背筋を伸ばしてベッドに座るアトーレにユウキは向かい合った。


「ええ、もちろんです。聞いてください……これから双子の一人がユウキさんによって身も心も最後まで愛され尽くすとどうなるでしょうか?」


「どうなるんだろうな。そんなに嫌な経験じゃないといいんだが」


「その者はかつてない喜びに包まれ歓喜の声を上げるはずです」


「まじかよ。言っておくけどオレは……」


「戦士の直感としてわかるのです。それがどれだけ心地よく喜ばしく蕩けるような気持ち良い体験であるか」


 アトーレは一瞬、うっとりとした表情を見せた。だがすぐに軍事作戦のブリーフィングのような難しい顔に戻った。


「ですが私はそれを見ているだけです。双子のもう一方も、喜びの涙を流す片割れを、ただ黙ってベッドの端から見ています。これがどういうことかおわかりになりますか?」


「なるほど……つまり、性的なアクティビティから取り残された二人は、その分、多くの欠乏感を得て、それによって多くの暗黒を得ることができるってわけだな」


「その通りです。ただ見ているだけの私と双子の片割れ……その哀れな者たちの胸は張り裂けるばかりに痛み、高濃度の嫉妬と惨めさと妬ましさによって、かつてないレベルの暗黒のチャージに成功するでしょう。その浅ましくどす黒い感情が私たちの暗黒をかつてないレベルに高めるでしょう」


「でもオレと最後までしてしまったヤツの暗黒は空になるんだぞ。それでいいのか?」


「必要な犠牲であると考えます。その者はおそらく二度と暗黒をチャージすることは叶わないでしょう。ユウキさんの愛に満ちた行為によってその者の人生は浄化されてしまうに違いありません」


「まじかよ……そんなすごい効果があるか……?」


 はっきりいって暗黒戦士たちの買い被りだろうが、だとしても最近、『光のイニシエーション”なるものを受けた上で、『癒し』というスキルを獲得したという事実がある。


 肉体的な深いコミュニケーションにより、光の質を伴った癒しが暗黒を不可逆的に消すことは十分に考えられた。


 ユウキは頭を振った。


「やっぱりやめておこうぜ。暗黒が無くなったらそいつはもう無職だろ。かわいそうすぎる」


 だがムコアとミズロフはどんと拳で胸を叩いた。


「心配ご無用! 我らはどちらが暗黒を失いアイデンティティを失おうとも師の従者として永遠に尽くすゆえ」


 どうらや暗黒戦士たちの間ですでに話はついているようである。


「ユウキさん……これは戦術上、どうしても必要なことなんです。私たちは大きく暗黒をいただく必要があるんです」


「…………」


 確かにここ数回の戦闘データを見る限り、双子はもとよりアトーレの戦力も大きく低下していた。


 近接戦闘の要であるアトーレの戦力低下がこのまま続けば、どれほど塔に魔力があったとしてもこのさきの防衛は難しいだろう。


(しかしオレは欲望を捨て、清らかな光のナンパをすると誓ったばかりじゃないか……)


「ユウキさん……世界を守るために……どうかお願いします」


「ユウキ殿……なにとぞ!」


「はあ……わかったよ。世界を救うためならしかたないな。オレなりに頑張ってみる」


「ありがとうございます!」


「感謝いたす。汚れた我らに触れるだけでも常人には考えられぬことだというのに、抱いていただけるとはその犠牲の精神に我ら涙が止まらぬ」


「大袈裟すぎるだろ。そういうのはいいから……どっちがするんだ?」


 ユウキの問いかけに暗黒戦士の双子、ムコアとミズロフは顔を見合わせると言った。


「ユウキどのに好きな方を選んでいただきたい」


「そうは言われてもな。はっきり言ってお前らは瓜二つすぎて、オレには固体判別も難しい」


「では私が選びましょう」アトーレが言った。


「わずかな技量の差ですが、ムコアの方が弓、ミズロフの方が剣に秀でています。今の私たちに必要なのは、闇の塔の盾となるべき近接戦闘の技であると考えます」


「つまり……」


「ムコアをお抱きください」


「いいのか、ムコア?」


「よろしくお願いいたす」


「……わかった。お前らなりに世界を救おうとしてのことなんだろう。オレもできる限り協力させてもらう。行くぞ」


 ユウキは覚悟を固めるとベッド上でムコアに向き合い、各種のスキルを発動しつつ人格テンプレートを適切にセッティングし、性行為への準備を整えた。


 そしてアトーレとミズロフが固唾を飲んで見守るそのすぐ脇で、ベッドに仰向けに横たわるムコアの体に触れていった。


 すぐに限界までムコアの性的興奮が高まったのをユウキはスキルによって感知した。これまでは暗黒戦士の性的な興奮を一定以上に高めないよう気をつけてきたが、今は限界を超えてどこまでも突き進むべきであった。今回はここからが本番だった。


 ユウキはムコアの寝巻きを脱がすとその肌に触れていった。深夜の暗闇の中でも恥じらいに真っ赤に染まっているのが感じられるムコアの柔肌を見下ろしつつ、自らも寝巻きを脱ごうとした。


 傍らのアトーレとミズロフに見守られながら、裸になるのは恥ずかしいものだったが、服を脱がなければ始まらない。ユウキは上半身を裸になりこの性的なアクティビティを次の段階に進めようとしてムコアに覆いかぶさった。


 だがそのときだった。大きな音を立ててドアが開きまた何者かがユウキの部屋に侵入してきた。


 暗闇の中にふっ、ふっという戦闘モードの獣の如き荒い呼吸音が響き渡る。


「まじかよ……」


 ユウキは予想より早く性行為によって塔の人間関係に亀裂が入るのを感じつつ顔を上げた。予想通りの人物がそこにいた。寝巻き姿のゾンゲイルだ。


「ゾ、ゾンゲイル……違うんだ、これは」


「離れて……」


 ゾンゲイルは俯いてそう呟いた。


 ユウキはそそくさと全裸のムコアから体を離しつつ言い訳した。


「こ、これはその……塔と世界を守るために仕方なく……」


「だったら私にして……」


「はあ?」


 ゾンゲイルは顔を上げると涙を滲ませた目でユウキを見つめた。


「ユウキ、最近ずっと私に何も命令してくれない!」


「そ、そりゃそうだ。ゾンゲイルに命令なんてできないよ」


 そう言うとゾンゲイルは顔に手を当てて肩を震わせ始めた。


「どうして命令してくれないの? 私の性能が低いの?」


「いや、その……ゾンゲイルは素晴らしいよ。でも命令なんて」


「私はすごく上手に奉仕する! 人工精霊四か条があるから!」


「じ、人工精霊四か条?」


「私は人工精霊だから、人工精霊四か条を守って動くだけなの」


 ユウキは片手で背後の暗黒戦士たちに動かないよう伝えつつ聞いた。


「四か条というと……ああ、あれか。ロボットは人間に危害を加えてはならない、みたいな……」


「主人を大事に。お客に優しく。仕事は丁寧に。環境は清潔に。これが人工精霊四か条よ」


「まじかよ、ロボット三原則より非人道的じゃないか。自己保存に関する規定がひとつも無いなんて……その四か条、シオンが考えてゾンゲイルにインストールしたのか? あとで文句を言ってやらないとな」


 こんな感情豊かな存在に、こんな非人道的なプログラムをインストールするなんて、シオンもしょせん闇の魔術師だったということか。恐るべき人権意識の欠如に背筋が凍る思いがした。


 しかしゾンゲイルは首を振った。


「ううん。この四か条、私が考えたの」


「はあ?」


「どう思う?」


「どうって、いや……なんていうか……」


「どう思う? 私が考えたの」


「…………」


「私には感情なんてない。このプログラムに従って動くだけなの。どう思う?」


「……い、いいと思う」


 瞬間、ゾンゲイルにパッと笑顔が広がった。


 しかしすぐにゾンゲイルはうなだれた。


「なのに誰も私に命令してくれない」


「シオンは?」


「私のことを怖がってるみたい。いつも腫れ物に触るみたいに頼み事をしてくるだけ。もう一人のご主人様も、遠くに行ってやっと帰ってきたのに、何も私に命じてくれない」


「…………」


 スキル『共感』によってゾンゲイルの胸の中の深い悲しみが伝わってくる。


「でも……命令なんて……人権が……」


「私はモノなの!」


「し、しかし……」


「こんなに便利なのに! どうして使ってくれないの!」


 胸に手を当てて切々と訴えるゾンゲイルを前に、だがユウキはどうしても何も命令することができず固まっていることしかできなかった。


(命令っていったって、そんなこと……)


 逡巡するユウキを前に、やがてゾンゲイルは顔を覆い肩を震わせ声を上げて泣き始めた。


「えーんえーん!」


 と、アトーレが後ろからこっそり囁いてきた。


「ユウキさん……命令してあげたらいかがですか?」


「だが……何を命令すればいいんだ?」


「私にいい考えがあります」


「言ってみろ」


「さきほどまでムコアにしていたことの続きをゾンゲイルさんにするのです。それをゾンゲイルさんに命令するんです」


「バカな。そんなこと……」


「これで全てが解決します」


「そうだ、素晴らしい考えである。さすが我らの師!」


 ミズロフも同意した。


「ええ……それでムコアの暗黒も失われることなく、私たち三人に大量の暗黒がチャージされます。いいですね、ムコア」


「む、むろん……」


 全裸のムコアは釈然としない表情を浮かべながらも寝巻きを拾って胸を隠しベッドの端に寄った。


 ムコアを憐れむようにその頭を撫でつつアトーレは言った。


「ユウキさんに命令されながら犯されることは私たち暗黒戦士の望み……その望みを我らではなく他人が受け取っていることを至近から見つめる営みが、私たちに無限の暗黒を提供するでしょう」


 アトーレの瞳の中に暗い炎がゆらゆらと燃え上がっているのが見えた。想像だけですでに暗黒がチャージされ始めているのだ。


 その今まで見たことのない濃度の暗黒の萌芽にユウキは闇の塔の勝機を見た。


(なんてこった。オレは欲望を捨てると誓ったばかりなのに……)


 今度は無垢なゾンゲイルをオレはこの手で汚さなければならないというのか?


「…………」


「えーんえーん」


「泣くな、ゾンゲイル」


「えーんえーん……ユウキ?」


「こっちに来い」


「ユウキ!」


 ゾンゲイルはユウキに飛びついてきた。ベッドに仰向けに倒れ込みそうになるユウキを暗黒戦士たちが支えた。


 ユウキは背中を暗黒戦士にサポートされながら腕にゾンゲイルを抱き、各種スキルを再発動し、人格テンプレートのバランスを再調整すると、ゾンゲイルに鋭く命じた。


「脱げ」


「うん!」


 ゾンゲイルは嬉々として寝巻きを脱いでいった。ユウキの命令を聞くのが嬉しくて仕方がない。そんな喜びが共感を通して強く伝わってくる。


 しかし同時に恥じらいの気持ちも伝わってきた。寝巻きを脱いだゾンゲイルは自らの肉体の一部を手で覆い隠している。


 ユウキは鋭く命令した。


「手をどけろ」


「でも……」


「嫌なのか?」


「私の体、変かもしれないから」


「オレが確かめてやるよ。手をどけろ」


 ゾンゲイルは喜びと恥じらいの混じった表情を浮かべながらゆっくりと手をどけた。


 ユウキはあらわになったゾンゲイルの膨らみに手を伸ばし、そこを起点に彼女の全身に触れていった。


 傍らで見守る暗黒戦士たちのゴクリと生唾を飲み込む音を聞きながら、ユウキは要所要所で厳しい命令を発しつつゾンゲイルに触れ、彼女がいまだ感じたことのない感覚をその体の中に目覚めさせていった。


 その感覚に恐れを感じたのかゾンゲイルはあるとき体を固く閉じた。


「アトーレ、暗黒の蛇を貸してくれ」


「はい。ご自由にお使いください」ウネウネとうねる触手のごとき無数の鎌首を持つ蛇がユウキに手渡された。


「暗黒の蛇よ……ゾンゲイルを拘束しろ」


 ユウキの手から放たれた暗黒の蛇はゾンゲイルの四肢をベッドにきつく拘束した。


「ゾンゲイル……お前、オレのモノになれよ」


 ゾンゲイルはうなずいた。


「いい子だ。ずっとオレの道具として使ってやるからな」


 ユウキがそう囁くとゾンゲイルの四肢から力が抜けた。


 受け入れ態勢を示した彼女の体に覆いかぶさったユウキはその頬に軽く口づけすると、彼女の腰を抱き寄せながら性的なアクティビティを大きく前進させようとした。


 そのときだった。


 大きく音を立ててユウキの部屋のドアが開いた。


「今度は誰なんだ」


 興奮しすぎて脳の何か大切な部分が恒久的に狂ってしまったと感じられるほどに朦朧とする意識の中、ユウキは新たに現れた人物に目をやった。


「なんだシオンか。邪魔するなよ。今、いいところなんだから。お前はそこの椅子にでも座って見てろ」


 だがシオンはユウキの背に手をかけゾンゲイルから全力で引き剥がそうとしながら叫んだ。


「やめてくれ、ユウキくん! 今すぐやめないと、塔が、塔が崩壊するよ!」


「はあ……何言ってんだお前。何事も人生経験だ、黙って大人しく見学してろよ」


 だがそのときユウキは自室の床と壁が細かく振動していることに気づいた。


(まさか……オレの興奮と塔が連動してるのか?)


 一方、完全にトランス状態に達した目のゾンゲイルがユウキを自らの内に深く招こうとした。


「ユウキ……来て……」


 暗黒の蛇の拘束はいつの間にか解けていた。自由になった彼女の腕にひきこまれて、またユウキの興奮は限界を超えて高まり、ユウキの全身は極度の興奮によって震え始めた。


 それに連動してより強く塔がビリビリと音を出して震え始めた。天井から埃と建材のかけらがパラパラとベッド上の各員に降り注ぐ。それに構わずゾンゲイルがユウキを強く抱きしめる。


「ユウキ、早く来て!」


「うぐっ」


 背骨が折れたかという激痛がユウキを襲う。


「みんな、二人を離すんだ!」


 シオンの声で我に返った暗黒戦士たちは暗黒の蛇と体術を駆使してユウキをゾンゲイルから引き剥がした。そのときユウキの自室の天井が音を立てて崩落し、土砂と煉瓦が闇の塔の関係者の頭に降り注ぎ始めた。

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