第85話 探索者(エクスプローラー)

 仕事の後に品川駅前を歩いていたユウキは敵にターゲッティングされ死に瀕していた。


 敵……出刃包丁を装備した中年男性の致命の攻撃が近づいてくる。すでにその間合いから逃れることは叶わない。


 死を覚悟したユウキは、その上で次善の策を探った。


 あと数秒で死ぬ。


 となれば死後の身の振り方について視野に入れておく必要がある。


『死後の身の振り方』への具体的な手引きとして、ユウキは『チベットの死者の書』を思い出した。


 以前、収入に悩んでいたユウキはオカルトにフォーカスしたアフィリエイトサイトを作って一儲けしようとした。その際の資料として読んだのが『チベットの死者の書』である。


『エジプトの死者の書』というものもあったが、どちらかといえばチベットの方が読みやすかった。というのも『チベットの死者の書』は仏教思想をベースとして書かれた文書だからである。もともと『お彼岸』だの『四十九日』だのといった仏教的概念に馴染みのある国で生きているユウキには、その世界観は理解しやすかった。


 さて……『チベットの死者の書』によれば人は死後、『解脱』のチャンスが与えられる。死後、なんとかして心を清浄に保っていれば、なんらかの作用によって輪廻転生から解脱できるそうである。


 だがはっきり言って解脱などという一種のゲームクリアを達成できる自信はない。なぜなら生きることに未練がありまくりだからである。


 だが解脱できず輪廻転生のサイクルに留まる奴にも次の選択肢が与えられる。それは、次なる生の舞台……すなわちどの世界に生まれるかを選べるというものだ。


 これはかなり重要な選択である。よって今のうちに前もって考えておきたい。


(死んだらどこに転生するか……)


 この現世には多くの未練がある。この現世は科学技術が発展しており、よい国に生まれればそれなりに安楽な生活が過ごせそうである。


 この現世の百年後ぐらいに転生するのも良い。そうすれば働かなくてもお金が入ってくるベーシックインカム制度や、自分の代わりに働いてくれるAIロボの助けによって毎日遊んで暮らせるだろう。その百年後の世界でオレは、今生で果たせなかった夢……ナンパの成功を求めて街に出るのだ。


 この将来のヴィジョンはユウキの胸をときめかせた。


 だが、この現世ではない、異世界に転生するという選択肢も考えられた。


 まもなく出刃包丁に腹部を刺し貫かれて絶命するという生命の危機……その中で超高速回転するユウキの脳はさまざまなリミッターから解き放たれていた。


 その結果として一時的に得た超感覚的知覚によって、ユウキは認識した。あまた存在する『異世界』……その中でも特に馴染み深いあの世界を。


 その世界にはアーケロンなる平原があり、その世界の片隅には闇の塔があった。


 半ば崩壊した闇の塔の最上階、その破れた天井の下に設けられた祭壇では、魔術師の少年が額に汗をかきながら加持祈祷のごとき呪術的行為を行なっていた。


 少年は額に汗を浮かべながら、目の前の祭壇で護摩壇のごとく燃え盛る炉に、謎の古代文字がびっしりと書かれた香木を投げ入れながら口の中で呪文を唱えている。


 その行為が一段落したところで少年はわめいた。


「どうか繋がってくれ! なんとかしてこの緊急情報をユウキ君に伝えなくちゃいけないんだ!」


 ユウキはカジュアルに話しかけた。


「おい、なんなんだ、緊急情報って?」

 

「ゆ、ユウキ君、そこにいるのかい?」シオンは目を丸くして何もない宙を見つめた。


「いるっていうか、なんていうか……まあとにかくお前の姿は見えてるぞ」


「僕からは君の姿は見えない。だけど君の声だけは確かにはっきりと僕の心の耳に届いているよ!」


「そりゃよかったな。で、何してんだ、シオン。そんな近くで火を燃やして暑くないのか? ローブに燃え移らないよう気をつけろよ」


「暑いよ! だけど敵の攻撃で第七クリスタルチェンバーが半壊した今、こんな原始的な祭壇の儀式以外では君に超次元通信する手段がなかったんだよ!」


「なるほど。つまりお前、オレと話したかったのか。そういうことなら、積もる話もあるだろうからゆっくり話そうぜ。最近何か面白いことあったか?」


「面白いことなんて……君がいなくなってゾンゲイルは鬱病になってしまったよ。人工精霊でも鬱病になるという知見が得られたことが最近の面白いことかな。は、ははは……」


 シオンは自暴自棄な響きの笑い声を上げた。他の者の現状も聞いてみたが、どうやら闇の塔の関係者は皆、メンタル的に弱っているらしい。


「シオン、お前は一応その塔の責任者なわけだから、お前がどっしりしてないとだめだぞ」


「わかってるよ! でもね、毎日、いつ終わるともしれない闇の眷属どもの猛攻に晒されて、最近は寝る間もないんだよ!」


「そりゃそうかもしれないが、頑張れよ」


「わかってる。眠いけど、睡眠欲を浄化する魔法もあるんだ。僕は戦うよ!」


 ヘロヘロになっているがモチベーションは高いようだ。燃え尽きる前の炎の輝きを感じてユウキは若干、引き気味になりつつも激励した。


「お、おう。その調子だ。それじゃ通信終わるぞ。こっちはこっちで忙しいんだ」


「うん。君と話せて少しスッキリしたよ……って、ダメだよ! 伝えなきゃいけないことがあったんだ! 闇の女神の勢力に察知されたんだよ! 君が闇の塔に魂力を送っていることを!」


「ほう、それで?」


「君が危ない! 君こそが闇の塔のエネルギー源であることを知った闇の女神は、君を排除する動きにかかるはずだよ!」


「馬鹿な。異世界からオレの現世への攻撃なんてできるわけがないだろう」


 そうは言ったものの、ユウキはそもそも自分が幼少期から闇の女神の精神コントロール下にあったことを思い出した。


「ま、まあ仮にオレの世界に闇の女神が影響を及ぼせるとしても、せいぜい精神的なレベルでの話だろ」


「人一人殺すにはそれで十分さ。闇と同調する心を持った人間を洗脳して君を殺すように差し向ければいい……」


「あ、そう言えば今オレ、知らない男の攻撃を受けてるところだぞ」


「それだよ!」


「どうすればいいんだ? もうかなり死にそうなんだが」


「僕らは君を失うわけにはいかない。だから護衛を君に送ったよ。次元魔法によってアトーレのパラレルセルフと君が接触するよう手配したんだ」


 シオンの説明によれば、どうやら本日、作業所で知り合ったルポライター志望の女こそがアトーレのパラレルセルフとのことだった。


「ま、まじかよ」


 現世に意識を向けると、ちょうど今、ユウキに加えられつつある暴漢の致命の一撃を、その女は腕力によって防いでいるところだった。


 道端のパーティーションポールを手に取って振りかぶった女はその鉄柱を暴漢の脳天に振り下ろした。


「た、助かったぜシオン。まじで危ないところだった」


 命の危機が去ったことにより、ユウキの脳はクロックダウンし、意識は急速に日常モードへと戻っていった。それによりシオンとの次元間通信が切断されていく。


「ダメだよユウキ君! もう少しだけこっちに意識を向けて! まだ伝えなきゃいけないことがあるんだ!」


「ん? なんだ、まだ世間話が足りないのか?」


「ラゾナ、アトーレと、そのパラレルセルフを繋ぐ次元間情報リンクを維持するには膨大な魔力が必要なんだ」


「つまりもっと魂力を送れ、と」


「うん。それに関連して……できるだけ急いでこっちの世界に帰ってきて欲しいんだ。やっぱり世界を跨いでの魂力の送信はロスが多すぎる。君が帰ってきてくれなければ、僕の計算ではあと半月も持たず塔は崩壊するよ」


「無茶言うなよ。そんなに簡単に世界を移動できるわけがないだろ」


「僕もそう思っていたよ。だけど昨日、塔の書庫で文献を調べたら見つけたんだ。世界を移動する術を身につけた者たち、『探索者』なる存在を」


「探索者だと?」


「うん。彼らは世界間を移動するエキスパートだ。君の世界にも探索者がいるはずだよ。その人たちの力を借りればきっとユウキ君はこっちの世界に戻って来れるはずだよ!」


「おいおい……言っとくけどこっちの世界には何十億人って人間がいるんだぞ。その中からどうやって探索者とやらを見つけるんだよ」


「文献によれば、少なくとも一人、君の世界には闇の塔にゆかりの探索者がいるはずなんだ。初代塔主、マスター・エグゼドスとの契約により、その探索者は闇の塔の関係者を無条件に支援してくれるはずだよ」


「だからなあ、何十億もいるんだってば。見つけられるわけが」


「手がかりならあるよ! その探索者の身体的特徴はきっと僕に似てるはず……」


 ここでシオンとの通信は切れた。ユウキの脳が完全に日常モードに戻ってしまったためか、あるいはシオンの魔力の限界か。なんにせよ異世界のヴィジョンは急速に色褪せ、ユウキの記憶から消え去っていった。


 そして今、品川駅前のリアルな喧騒がユウキを包んだ。


 ふと見るとユウキの目の前では職場で知り合った女が、暴漢を地面に組み敷いていた。


 頭にたんこぶを作った暴漢は、地面に押さえつけられながらも、ユウキを睨みつけて訳のわからないことを叫んでいる。


「どけ、女! 俺はあのお方から、そいつを殺せという命令をもらってるんだ!」


 職場で知り合った女は、暴漢にとうとうと語りかけた。


「警察が来る前に話してください。なんであなたがこんなことをしたのか。ここに至るあなたの人生を」


「そ、それはだから……あのお方から指令を受けて……」


「私が聞きたいのはそう言うことじゃないんです。あなたの普段の生活を教えてほしいんです」

 

 手首を極められて身動きできない状態に置かれた暴漢は、女とユウキに向かって訳のわからないことを喚き続けた。だが辛抱強い女の呼びかけに応えるように、暴漢は少しずつ自らの生活苦や先の見えない将来への不安など、リアル感ある言葉を吐き始めた。


(つまり一言でまとめると、ストレスの発散のための犯行といったところか……)


 女が言った。


「耐え切れないストレスを抱えていたところ、なんらかの魔が刺して犯行に至ったのですね」


 ユウキは吐き捨てた。


「はっ。馬鹿らしい話だぜ。そんなことで殺されてたまるかよ」


 だが職場で知り合った女は、ユウキには完全に無意味と思われる中年男のストレス話になおも耳を傾け、それを根掘り葉掘り聞き出した。中年男は生まれの境遇の悪さや社会の不平等を女に訴えた。


 警察が来る頃になると、言いたいことを言ったからか中年男はスッキリした顔を見せた。ユウキと職場で知り合った女は駆けつけた警察に状況を説明してから解放された。


「散々な目にあったな」


「いいえ。あの人からすごくいい話を聞けました。不条理な社会が生み出す鬱屈した心の闇……」


「ああ、あんた、そういえばルポライター志望だったな。参考になりそうか?」


 女は赤く上気した満足げな顔でうなずくと名乗った。


「私は天鳥羽美(あとりうみ)。明日も同じ所で働いています」


「天鳥さんか。オレは山田ユウキだ。オレもしばらくあそこで働くつもりだ。明日は平和な一日を過ごせるといいな」


 *


 だが翌日も、なんとなく予想していたことではあったが、仕事の後でまたユウキは暴漢に襲われた。運よく隣にいた天鳥によってユウキは命を救われた。天鳥は警察が来るまで、暴漢に動機を尋ねた。暴漢が心の闇を吐露すると、天鳥はそれをうっとりと上気した表情で吸収した。


「すごい……ユウキさんと一緒にいると、この社会や人間の心の暗闇をたくさん知ることができますね」


「さ、流石にこれで終わりだろ」


 そう言いつつもユウキは心の中で恐れていた。もしかしたらこの暴漢に襲われるというパターンがこの先、しばらく続くのではないか、と。


 予想通りユウキは翌日も翌々日も多種多様な暴漢に襲われ続けた。その度に運よく隣にいた天鳥によって助けられた。


「毎日、悪いな」青ざめた顔で礼を述べる。


「いいんです。暴漢からリアルな現代社会の暗闇も吸収できますから、ルポライターの仕事が捗ります」


 聞くところによると天鳥は現在、『暴発する人 ~何が彼らをそうさせるのか?~』という一連のテキストをnoteで連載しているという。


 暴漢本人からの生のインタビューが受けているのか、天鳥が書いたテキストの中ではトップクラスのPVを誇っているそうだ。


「いつか出版社に持ち込みたいです。でもそのためにはもっと暴漢の生の声が必要で……よかったらユウキさんの身辺警護、もっと本格的にさせてもらえませんか?」


「い、いいけど……暴漢なんてそんな簡単にぽんぽん湧いてくるもんじゃないだろ」


 ところが暴漢はぽんぽんとユウキの周辺にポップアップした。

週に最低一件、ひどい時は三件もの暴力事件がユウキに加えられた。中年の無敵の人によって、あるいは荒ぶる若者によって、時にはカッターナイフを持った小学生によって。


 それらの直接物理攻撃からユウキの命を守るため、天鳥羽美はユウキが朝に家を出て夜に帰宅するまで常にユウキの傍にいた。

 

 仕事の後に駅前広場でナンパ活動をしている最中も、ユウキを目視できるカフェのテラス席でパソコンのキーボードを叩いていた。


 空奈宅でユウキがヒーリング行為を受けている最中も、田中荘の外の錆びた階段に腰を下ろしてキーボードを叩き、ノンフィクション記事を書き続けていた。


 そのような毎日を送るうちにユウキのナンパ活動は少しずつ進展していった。いつの間にか一日に数名の異性に声をかけることができるまでになっていた。


 ユウキは駅前広場のベンチから立ち上がって目の前を通り過ぎる異性に声をかけた。


「あ、あの……」


 だが声かけ時におけるユウキの声量は蚊が鳴くより小さく、誰にも気付かれることはなかった。それでもなんにせよ見知らぬ通行人に声をかけるという、真っ当なナンパ行為ができている。


(つ、ついにオレは普通にナンパできるまで成長したぞ……)


 この成長の実感がユウキに大量の魂力をチャージした。


 しかし魂力はどれだけあっても足りなかった。


 なぜなら現世から異世界へ魂力を送信する過程で、多くのロスが生じ、大半の魂力が無駄になってしまうからである。


 しかも闇の塔は日に日に増大する敵勢力からの防衛に大量の魔力を必要とする。その上、ラゾナ、アトーレと、空奈、天鳥間の超次元リンクを維持するため、戦闘よりもさらに多くの魔力が消費されている。


 そのために闇の塔はいつも魔力切れに近い状態だ。闇の塔と肉体がリンクしているため、ユウキの気力体力も常に空っぽに近い状態だ。


 金を稼いで空奈の癒しを受け肉体を維持し、ナンパ活動をして魂力を稼ぐ。そんなユウキの生活はギリギリの自転車操業であり、いつバランスが崩れて何もかもが崩壊しても不思議ではなかった。


(そうだ……そろそろ抜本的な問題解決が必要なんだ……闇の塔が劣勢を押し返すだけの魔力を貯めるには、俺が向こうの世界に戻って、ダイレクトに魂力を塔にチャージする必要があるんだ……)


 だからいつまでもこの実家に留まっているわけにはいかない。


 早く、オレが今いるべき場所に帰らなければならない。


 だがどうやって?


 世界から世界へと渡る能力を身につけた者たち『探索者』を見つけ、その者の支援を得ること。


 そのために、毎夜、夢の中に出てくるあの美しい中性的な少年……彼に似た姿形の人間を探すこと……それこそが、自分が帰るべき場所に帰るために必要なことのように思える。


 だが当然のことながら、あのような美しい少年の面影を持つ知り合いなどユウキには無い。


(どうやって……どうやって夢の中に出てくるあの少年に似た者を探せばいいんだ……)


 夜、実家のリビングのソファで頭を抱えて悩んでいると、ふいに妹が隣に腰を下ろした。


 風呂上がりなのか、妹の湿っぽい体温とシャンプーの香りが伝わってくる。妹はさらにぐっと身を乗り出してくると聞いた。


「どうしたんだユウキ。悩みなら私が聞いてやるぞ」


「す、すまん。心配しないでくれ」


「水臭いぞ。兄妹じゃないか」


「わ、わかった。それならちょっとだけ、オレの悩みを聞いてくれ」


 悩みを人に話すことで、頭が整理されて何かいいアイデアでも浮かぶかもしれない。


 ユウキは妹に向かって悩みを打ち明けかけた。だがその前に妹が自分の悩みを吐露し始めた。


「悩みと言えば私も悩んでいるんだぞ」


「そ、そうか……」


「飢えてるんだ、私は」


「さっきご飯食べたばかりだろ」


「我慢すれば我慢するほど美味しくなる。そう思って今まで我慢してきたんだぞ」


「…………」


「でももう限界なんだ……今夜、ユウキの命の輝きを頂かせてもらうぞ……」


 そう言うとエリスはユウキにのしかかってきた。


 ユウキはソファに押し倒されたが、特に動じることもなかった。


 これまで何度もこのように妹にソファに押し倒されたことがある。そのため、どこをどのように押せば拘束から抜け出せるかわかっているのだ。ユウキは冷静に妹を押し返した。


 だが……。


「ん? 今夜はやけに力が強いな」


「最初はただの実験動物の監視のつもりだった。監視しながら、スナック感覚でつまみぐいするつもりだった。でも今は私と同等の力を持つ存在として認め、全力で捕食するつもりだ。光栄に思うんだぞ」


 妹は全く意味がわからないことを口走っている。その度に彼女の吐息が首筋にかかってくすぐったい。


 ユウキは妹を押す力をもう少し強めた。妹はうめいた。


「くっ。支配力を込めた私の声をこうも受け止めながらも、まだ反抗する力があるというのか!」


「後ろ、ぶつけないよう気をつけろよ」


 ユウキは妹を押し退けてソファから立ち上がった。注意したにもかかわらず、妹はバランスを崩してよろけ、後ろに数歩たたらを踏むと壁に手をついた。


 その手によって照明のスイッチが押されてリビングは真っ暗になった。


 窓から冬の月光が差し込んでくる。青白いその光を浴びて妹はユウキを見つめて言った。


「そこまで私を拒絶するのか。ならば私も真の力を出すぞ。見るんだ、私の目を!」


 見ると妹の紅い瞳が燃えるような眼光を発していた。その彼女の髪は月光に照らされて銀色に輝いており、肌は透き通るように白かった。


 ユウキは思わずうめいた。


「まじかよ……に、似てる」


「今、深き大迷宮に君臨せしロード・バンパイア・エリスとして山田ユウキに命じるぞ。私にその熱き血潮を捧げるんだ!」


 一瞬、その言葉の力に流されて自らの首筋を妹に差し出しそうになる。だが、それよりも探していた者が自宅にいたことの驚きが勝った。


「エリス、お前……シオンに……シオンにそっくりじゃないか! その赤い瞳、銀色の髪……」


 ユウキは自らが見たものの真偽を確かめようとして暗い部屋の中、エリスに一歩一歩近づいていった。


「いいぞ、それで良い。もっと近づいてくるんだ」


 エリスは赤い瞳を輝かせてにんまりと笑うと、手が届く距離まで近づいたユウキにいきなり抱きつき、その首筋に背伸びをして犬歯を深々と突き立てた。

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