第11話 頑張るシオン
武芸十八般を修めているアトーレは『蒼水晶の投槍』を構えると、防衛室の石落としからゴーレムリーダーにめがけて投擲した。
落雷のごとく空間を貫いた投槍は、ゴーレムの肩から胴体に音を立てて突き立った。
瞬間、体内に深く埋め込まれた蒼水晶が魔術的な光を発し、ゴーレムは動きを止めた。
「制御は奪えたみたいだけど、ど、ど、どうすればいいのかな?」
「とりあえず塔への攻撃を止めてみてくれ」
「うん、やってみるよ」
シオンが目を閉じて集中すると、ゴーレムリーダーは塔の正門に振り下ろし続けていた棍棒を止めた。
ゴーレムリーダーが攻撃を止めると、しばしのタイムラグのあと他の二十九体のゴーレムもそれに続いた。
「いいぞ。次は塔から離れてみてくれ」
「やってみるね」
シオンが目を閉じて集中すると、ゴーレムリーダーは後ずさって塔から距離を取った。
しばしのタイムラグのあと、他のゴーレムも距離を取った。
その一方で、七十体の骸骨とゾンビたちは錆びた剣や槌で塔への攻撃を続けている。
「どうやらゴーレムリーダーはゴーレムだけに支配力があるらしいな。となれば、ゴーレムを使ってアンデッドを排除してみるか」
「わかったよ。ゴーレムリーダーで骸骨を攻撃するよ」
シオンが目を閉じて集中すると、ゴーレムリーダーは手にした棍棒を近くの骸骨兵に振り下ろした。骸骨兵は乾いた破裂音と共に四散した。
しばしのタイムラグののち、他のゴーレムたちもアンデッド軍団を攻撃しはじめた。
アンデッド軍団は自動防衛プログラムを発動させたのかゴーレムたちに敵対行動を取った。
だが個々の戦闘力が違いすぎる。アンデッドは見る見る間に数を減らしていく。
ユウキは防衛室の石落としから眼下の戦場を見下ろしつつ叫んだ。
「まじかよ! なんて便利なんだ! このままゴーレム軍団をオレたちのものにしてしまおうぜ。そしたらオレたちはもうここでお茶してるだけでいい」
ラチネッタも石落としの隙間から顔を出して叫んだ。
「素晴らしい未来が広がっているべ!」
だがそのときゴーレムリーダーは近くに落ちていた岩を拾うと、塔の石落しめがけて凄まじい勢いで投げつけてきた。
とっさにアトーレとゾンゲイルが、ユウキとラチネッタを石落としから引き離した。
岩は石落としに命中し、砕けた破片が防衛室に飛び込んできた。暗黒鎧に守られつつユウキはシオンを見た。
「あっぶな。何してんだよ」
「僕じゃないよ! どこかにいるネクロマンサーに、ゴーレムの支配権を取り返されたんだ!」
「じゃあまた奪い返せよ。お前は最強の魔術師なんだろ。力を見せてみろ」
「わ、わかった。やるよ……」
シオンは魔術書をパラパラめくりながら死霊術を発動した。
瞬間、ゴーレムはまたシオンの支配下に入り、アンデッド軍団を叩き潰しはじめた。
「いいぞ。さすがだな」
「だ、ダメだっ、もう持たないよ……」
シオンは苦悶の表情を浮かべた。
どうやら、どこかに潜んでいるネクロマンサーとシオンの間でゴーレムの支配権争いが起こっているらしい。
その争いの間でゴーレムたちは麻痺したように動けなくなっているが……シオンは叫んだ。
「さすが相手はプロだよ! 僕の付け焼き刃の死霊術では、制御を完全に奪われるのは時間の問題だよっ!」
「しかたないな。それなら今のうちに攻撃するか。ゾンゲイル、アトーレ、今のうちに塔の外に出て片っ端からゴーレムを破壊してくれ」
「わかった!」
「心得た!」
ゾンゲイル街訪問用ボディと家事用ボディ、およびアトーレが塔を駆け下りていく。
ラチネッタがユウキを見た。
「おらも攻撃部隊に混ざりたいべ!」
「いや。ラチネッタはシオンの助手として額の汗を拭いたり、励ましの言葉をかけてあげてくれ。この作戦の要を担う大事な仕事だぞ」
「嘘だべ。戦力にならないおらを気遣っての詭弁だべ!」
「そんなことないぞ。魔術勝負は最終的には気合の問題のはずだ。シオンの気合を回復するために、ラチネッタの励ましが必要なんだ」
「そ、そういうことなら、わかったべ!」
「シオンを頼んだぞ。オレは司令室に行ってくる」
ユウキは塔を駆け上がると司令室に入った。
*
司令室の祭壇の立体ディスプレイに、塔の外に出たゾンゲイルとアトーレがシンボリックに表示されている。
ユウキは彼女たちに攻撃目標を指示した。
まずは最も近くにいるゴーレムに全員で当たってもらう。
瞬間、ゾンゲイル家事用ボディがショルダータックルして、棒立ちのゴーレムを地に打ち倒した。
そこに鎌と暗黒剣による攻撃が加えられる。
ゴーレムは万能肉を残して爆発した。
「よし。無抵抗だから簡単に倒せるな。一人で一体、いけそうだ」
ユウキは各員に個別にゴーレムを攻撃するよう指示した。
アトーレは暗黒剣で、ゾンゲイルは街訪問用ボディの鎌で、次々とゴーレムの胴体を両断していった。
だがそこに生き残りのアンデッドたちがわらわらと寄ってきた。
「ゾンゲイル。家事用ボディでアンデッドが接近するのを防いでくれ」
「わかった!」
ゾンゲイル家事用ボディが迫り来るアンデッド軍団にショルダータックルを繰り返す。
硬質の肩と衝突したアンデッドは小気味良い音を立てて破裂し、骨や腐肉を塔の周りに撒き散らしていく。
そしてゾンゲイル街訪問用ボディとアトーレが、次々とゴーレムを切り裂く。
三十体いたゴーレムは次々数を減らしていく。
「いいぞ、その調子だ……いや……ゴーレムが動き出した?」
残り十二体となったところで、それまで棒立ちだったゴーレムがぎこちなく動き出した。
ユウキは遠隔通信で防衛室のシオンに呼びかけた。
「おい、どうしたシオン? ゴーレムが動き出したぞ」
「僕の魔力がもう無いんだ! まだギリギリで抑えてるけど、もう無理だよ!」
「まだまだ塔に魔力はチャージされてるだろ」
「僕の個人的な魔力が枯渇してしまったんだ! 僕の内なる魔力が無ければ塔の魔力を引き出して利用することもできないよ……」
「どうすれば個人的な魔力は回復するんだ?」
「十分ほど寝て起きれば回復するよ。うううう」
苦しそうなうめきが聞こえるが、休んでもらう暇などない。
どうすればいいのか……。
「あ、そうだシオン、こんなときこそあれを吸ってみろよ」
「あ、あれってなんだい? ううっ、もうダメだよ……」
「『魔力増強の紙巻薬』だ」
「ああ、あれね。でも僕は手が放せないよっ」
「ラチネッタ、シオンの部屋から『魔力増強の紙巻薬』を持ってきてやってくれ」
「なんだべそれ?」
「僕の机の引き出しの中に入ってるよ。干し草が紙で細長く巻かれたものだよ。鍵は空いてるよ。ううううう……」
「すぐ取ってくるべ。待ってるべ!」
ラチネッタは防衛室を出るとシオンの部屋に向かって駈け出した。
一方、ゴーレム十二体はぎこちない動きであったが、アトーレとゾンゲイルにどんどん接近しつつあった。さらにアンデッド軍団の残りも戦闘員を取り囲むように近づいてきた。
「罠を使うぞ」
ユウキは戦闘員を落とし穴の奥へと移動させた。
それを追ってきた何体もの敵が落とし穴に落ち、わずかではあるが時間を稼ぐことができた。
そのとき防衛室にラチネッタが飛び込んできた。
「紙巻薬を取ってきたべ!」
シオンは紙巻薬をくわえると人差し指を立てて火をつけようとした。だが魔力が完全に枯渇しているのか、ライター程度の火を付けることさえできない。
「ぼ、僕はもう……」
「しっかりするだよ、シオンさま!」
ラチネッタがシオンの肩を揉んだ。
瞬間、シオンの指先に火が点った。
シオンは紙巻薬の煙を強く吸いこんだ。
「げほっ、げほっ、げほっ!」
「どうだ?」
「ま、魔力が……ほんの少しだけど回復したよ!」
「いいぞ。もう一度、ゴーレムの制御権を取り戻せ」
「うん!」
シオンは目を閉じて精神集中した。瞬間、ゴーレムリーダーの動きが鈍くなった。ユウキは咄嗟に戦闘員に攻撃を指示した。
結果、さらにゴーレムを二体を減らすことに成功した。
だがそのときシオンが防衛室の椅子に崩れ落ちた。火の着いた紙巻薬が床に転がった。
「ごめん、もう無理だよ……」
「よくやった。もうゴーレムの奪い合いはしなくていいぞ」
シオンの制御から離れた八体のゴーレムは、力強く機敏な動きで罠を乗り越え、アンデッドの群れとともに戦闘員に襲いかかってきた。
だが十分にゴーレムの数を減らすことができた。
「普通の魔法で戦うぞ、なんかいい魔法はないのか」
ユウキは司令室の祭壇に立体表示されている魔法アイコンをフリックしてめくった。
「これだ、『クモの糸』だ。ここらへん全体にばらまいてくれ」
ユウキは祭壇を操作して魔法の投射範囲をシオンに指示した。
ラチネッタがぐったりしているシオンの肩を揉んで叩いた。
「シオンさま、もうひと頑張りだべ!」そして床に落ちている紙巻薬を拾ってシオンにくわえさせた。
「もう一回吸うだよ!」
「げほっ、げほっ、げほっ、げほっ……粘度高く丈夫なクモの糸よ、大気より顕現されよ、そして敵の足を絡み取れ!」
アトーレとゾンゲイルに十体のゴーレムが迫り来る。
さらにその後ろから、落とし穴に落ちた味方を踏み越えてアンデッドの大群が押し寄せてくる。
その敵集団の頭上に白く濃い糸の塊が忽然と現れたかと思うと、音もなく敵に降り注ぎ、手足に絡みついてその動きを鈍らせた。
「いまだ! ゴーレムを一体ずつ倒していくぞ」
ユウキは戦闘員に攻撃を指示した。
敵に背を向けて逃走していた戦闘員たちは土を蹴って反転すると、鎌と暗黒剣を振り上げて目の前のゴーレムに殺到していった。
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