庭にお家をたてましょう
翌日、シルヴィは庭に出ていた。今日も水やりや収穫は、ゴーレムや精霊達が元気いっぱい行ってくれているのでシルヴィが自分で手を動かす必要はない。
同居人二人は、今日は都にいる仲間達の依頼を受けるのだといって王都の方に戻っていた。シルヴィも誘われたけれど、今日は農場で過ごすことにして断った。
ゴーレム達が作物を収穫してくるのを
(……そう言えば、拾ってきた武器や防具がけっこうあるのよねぇ……)
ダンジョンの奥にあるこういった品をとってきてほしいという依頼をうけた時には、持ち出したその品は依頼主のものになる。だが、その他に武器や防具などを拾うことがけっこうあるのだ。
ダンジョンで入手できる武具は、ダンジョンの中で命を落とした冒険者のものだったり、昔の人間が残した遺跡がダンジョン化したものの場合、今は失われた技術で作られたものだったりする。
そういった途中で"拾った"品については、基本的には拾った人間のものである。持ち主がわかれば遺族に届けることもあるが、そのあたりは良心に任されている。
持ち主や遺族に返さない場合は、外に持ち出したあと、武器や防具を商う店に持って行って売る。それが、手っ取り早い現金収入になるからだ。
「そうねぇ……欲しい人に譲るっていうのもありかも?」
「もきゅう」
誰もいないが、側にいるギュニオンが泣く。ぴょんとシルヴィの頭の上に飛び乗って、ご機嫌で尾を揺らしていた。
「重いわよ、自分で歩きなさい」
「ふっぎゅう!」
ギュニオンを頭に乗せたところで、重くもなんともないのだが、一応そう言ってみる。下りる気はないと言いたげな声が返ってきた。
「とりあえず、中身を出してみようか?」
「もっきゅもきゅ!」
中庭にシートを敷き、そこに取り出した武器やら防具やらを次から次へと並べてみる。
シルヴィ自身は良心的な方だし金銭的にも不自由はしていないので、持ち主がわかれば遺族に届けることにしているが、持ち主がわからない品もいくつもあった。
(さすがに……これだけならぶと壮観よねぇ……)
自分で並べておいて、感心してしまう。
少し深いダンジョンに入れば、ほぼ毎回何かしら拾ってくるので、シルヴィの鞄からは山のような武器や防具が出てきた。
「……これとこれはあまりお金にはならない……かな?」
敷物にごちゃっと出した装備を、まずは売れそうなものと売れなそうなものにわける。
売れなそうと判断したのは、ぼろぼろ過ぎて、溶かして作り直した方が早いのではないかと思われるレベルの品だ。
その他、ちょっと手入れをすれば使えそうなもの、上級冒険者が欲しがるレベルのものと、数が多いだけではなく種類も様々。よくもまあ、これだけ拾ってきたものだ。
「おはようシルヴィ――って、この並んだ武器や防具はなんだ?」
「おはよう、エドガー。今日は、急ぎの仕事もないし、とりあえず並べてみようと思ったのよ」
目の前に広げた装備品を見まわし、シルヴィは肩をすくめる。自分で集めておいてなんなのだが、ため込み過ぎだ。
「……ずいぶん、あるんだな」
「欲しいのがあったら、持って行ってもいいわよ?」
「そんなわけにいくか。きちんと対価を払って――」
興味深そうに、シルヴィが並べていた品々を観察していたエドガーは、ある鎧に目をとめた。そして、そこでぴたりと固まってしまう。
「――ちょ、お前、こんなもの無造作にここに置いておくなよ! ミスリルの鎧とか、普通はダンジョンに命がけで入って取ってくるとか、大枚はたいて買うとかしないといけないんだぞ」
エドガーが指さしたのは、見事な輝きを持つミスリルの鎧だった。
「あー、それねぇ。重さを感じさせない魔術と、ある程度使用者の体形に合わせて変化する魔術がかけられているから、使い勝手はいいわよね。いる?」
「無造作に渡そうとするな! 前にも無造作に剣をよこしただろうが! もうちょっと、自分がとってきたものを大事にしろ!」
「そうは言ってもねぇ……私には必要ないし、ジールとテレーズはもうオーダーメイドの防具があるし」
ジールとテレーズは貴族出身であるし、本人達も優秀で財力もある。防具は何より大事と、まず防具を充実させる方に重点を置いてきた。
そのため、防具に関しては、自分の身体に合わせて、早いうちからオーダーメイドで作っていたのである。
「それはともかくとして、ここにそのまま置いておくな! 不用心にもほどがある」
「じゃあ、欲しい人に売ろうかな。値段のつけ方はギルドに相談すればいいし」
シルヴィもある程度は目利きできるが、このあたりは専門家にまかせた方がいい。
「それがいいだろうな。とはいえ、これをこのままここに広げておくのもどうかと思うぞ。城から技術者をよこすから、どこかそのあたりに並べてしまえる場所を作って――」
「テッラ。家建てて」
エドガーが何やらいいかけたが、シルヴィの耳には入っていなかった。さっさと精霊を召喚し、その後のことを打ち合わせ始める。
「――お前も精霊達もめちゃくちゃなのはわかるが、一瞬で家を建てるな!」
エドガーのツッコミもすでにお約束化しているのは気のせいか。
みるみるうちに、庭が抉れたかと思ったら、土が寄り集まり、石となり、そして順につみあがっていく。
ものの数分で、石造りの重厚な建物が出来上がった。
広さは、今、シルヴィが住んでいる家と同じくらいだろうか。外から見る分には、二階建てのようだ。
「いい感じ―。でも、ちょっと場所が悪いかなぁ」
シルヴィは顎に手を当てて考え込んだ。家のデザインは悪くない。大きさも、これだけあれば十分だろう。
だが、作業に使っている部屋の日当たりが悪くなった気がする。
「先に言ってやれよ、それは!」
「だって、ここまで日当たり悪くなるとは思ってなかったんだもの……そうね、まだ西の方に使ってない畑があるから、そっちに移動してもらっていい?」
『承った。家の前はどうする?』
「そっちに行ってから考える」
シルヴィの言葉に応えるように、次から次へと姿を現したのは、茶のローブをまとった壮年の男性達だ。
皆、同じ姿をしている。土の精霊テッラは、えいやと石造りの建物を持ち上げると、そのままとてとてと歩き始めた。
「もちあがるのか、あれが……あいかわらず、とんでもないというかなんというか、ここに通っていると常識が家出しそうだ……!」
テッラ達のあとを追って小走りになったシルヴィの、さらにうしろからエドガーがついてくる。
「まあ、間に合わせよね……窓ガラスはウルディに注文しないとだし」
シルヴィの指定した場所に"置かれた"建物は、改めて見ればかなり立派な作りであった。作れるのは石造りの部分だけらしく、扉も窓ガラスもない。
だが、表玄関のはめられるべき場所は、左右に花の彫刻がされている。窓の部分も同様だ。
「――これ、建築家の仕事なくなるだろ……!」
「やーね、エドガー。これで建築家の仕事なくなるなんて言ったら、建築家に失礼よ。日曜大工であって、プロの仕事じゃないわ」
「日曜大工という言葉の意味が、根底から変わりそうな気がするけどな!」
とりあえず、ここに並べた装備は片付けておくことにしよう。
「窓ガラスや扉については、よく知ってそうな人に相談するわ」
ウルディで買い物をするならば、うってつけの人材がいる。カーティスのところに行って相談することにしよう。
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