第287話 詰問
夜が明けた。
日が昇るまで大騒ぎしてた生徒達が教室や部室に戻って、グラウンドは
朝日の中で、疲れ果ててレジャーシートの上で寝てる生徒がちらほら見られるくらいだ。
今日から二日間は代休で授業もないから、学校中にのんびりとした時間が流れている。
昨日までの
文化祭にすべてを捧げて、みんな燃え尽きている。
夜のあいだずっとグラウンドを照らしてくれていたキャンプファイヤーの薪も、全部炭になっていた。
後夜祭の司会っていう大役を終えた俺と文香は、一旦、「部室」に戻った。
「お疲れ」
中庭で花巻先輩が迎えてくれる。
先輩、ワンピースの上にエプロンをしてて、朝食の準備中だったらしい。
居間では半裸の月島さんと篠岡さんが寝ていた。
多分、俺達が後夜祭をしてるあいだずっと三人で飲んでいて、夜を明かしたんだと思う。
居間の床には、一升瓶やら、ワインのボトルやら、ウイスキーの瓶やら、ビール瓶が大量に転がっていた。
この大酒飲み達と飲み合って、ケロッとしてる花巻先輩って、一体なんだんだろう……
南牟礼さんや六角屋、伊織さんも部室に帰ってきて、みんなで居間を片付けた。
酔っ払いの二人は隣の部屋に布団を敷いて寝かせておく(っていうか月島さんも篠岡さんも、とりあえず服を着ましょう)。
そうしてるうちに、遅れて今日子も部室に帰ってきた。
「今日子、どういうことだよ」
俺はまず第一に今日子に食って掛かる。
問い詰めたいことが120個くらいあった。
「どうって? ステージで言ったとおりだけど」
今日子が肩を竦める。
「アイドルとか、
「思い立っちゃったんだから、しょうがないじゃない」
今日子はそう言って俺に向けて思いっきり舌を出した。
全然、悪びれる様子はない。
「別に、私が何かするのに冬麻の許可をもらう必要ないし」
「それは、そうだけど……」
確かに、俺に今日子の未来をとやかく言う資格はなかった。
だけど幼なじみなんだし、生まれた頃からずっと一緒だったんだし、ちょっとくらい相談してくれても良かったと思う。
なにか一言ほしかった。
「私がアイドルになるのは無理だと思う?」
逆に今日子がそんなことを訊いてくる。
「えっ?」
「私って、可愛くないかな?」
上目遣いで食い下がってくる今日子。
うるっとした瞳と、ゆるくつぼませた唇にドキッとする。
えっ? 今日子って、こんなに可愛かったっけ?
「可愛くないかな?」
大切なことらしく、今日子は二度訊いてきた。
「…………可愛いくない、ことはない」
俺は答える。
「なにその言い方」
今日子が口を尖らせた。
そんな仕草まで、いつもと違って見える。
「…………まあ、可愛い」
俺は絞り出すように言った。
控え目に言ったけど、ホントは滅茶苦茶可愛い。
思わず恋しちゃうくらい、可愛い。
「もう決めちゃったんだから、私がアイドルになるの応援してよね」
今日子が言った。
「私、全力で応援します!」
南牟礼さんが言う。
「うん、私も!」
伊織さんが言った。
「応援する! 応援する!」
中庭で文香が車体を揺らしながら言う。
「応援するしかないよな」
六角屋が言った。
六角屋の心中を察すると、ちょっと複雑だった。
六角屋としては、せっかくの告白のチャンスを失ったのだ。
あのとき、今日子に告白する寸前までいったのだ。
それが今日子の衝撃の告白で消し飛んでしまった。
女子に対して優しい六角屋のことだから、もう、その気持ちは心に仕舞って封印してしまうだろう。
これ以上自分の想いを押し付けるようなことはしないだろう。
六角屋ってそういう奴だ。
「もう私はみんなのものになっちゃうけど、後悔したって遅いんだからね」
今日子が俺の目を見て言う。
なんだよそれ。
「結局、後夜祭は源に全部持って行かれたようだな」
花巻先輩がそう言って笑った。
「これならば来年の文化祭は、ゲストを呼ぶのに苦労しないな。源がスターになれば
先輩が
「そうですよ。来年は私がもっともっと全国から人を呼んでくるから、覚悟してくださいね」
生意気を言う今日子。
「さあ、それでは皆で朝食だ。まだ後片付けもある。文化祭実行委員として、それが終わってこそ、この祭の終わりである。モリモリ食べて、大いに働こうではないか」
文化祭翌日から花巻先輩はエンジン全開だった。
台所から、味噌汁の良い香りが漂ってくる。
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