第151話 代表

「小仙波よ、ゲーム対決は君に任せた。コンピューター研との決戦に勝利して、なんとしてもパソコンとプリンターを手に入れるのだ。それによって、文化祭成功の可否かひが決まる。今や、文化祭の成功は小仙波の双肩そうけんにかかっているといっても過言ではないぞ!」

 花巻先輩がそう言って俺の肩を叩いた。

 先輩、ニッコニコの笑顔である。


 文化祭の成功とか、そんな重いモノ、俺のこの細い肩に載せないでください…………


 相手はコンピューター研究会で、プロゲーマー級の腕を持ってるって言われてる人達だ。

 俺みたいなエンジョイ系のゲーマーが敵うわけがなかった。

 坂村さんをはじめ、コンピューター研の人達は、こっちを見てせせら笑っている。


 俺が微妙な顔をしてると、花巻先輩が俺の耳に口を寄せた。


「もちろん、ただでやれとは言わん。無事コンピューター研に勝利したあかつきには、この私、花巻梵が、小仙波の言うことを何でも一つ、聞いてやろうではないか」

 花巻先輩が俺だけに聞こえるように耳打ちする。


 ん? 今、何でもって?


「やりましょう!」

 俺は答えた。


 俄然、やる気が出て来た。


 そうだ。


 俺達文化祭実行委員会は、文化祭成功のために存在している。

 文化祭成功のためなら、何だってする覚悟だった筈じゃないか。

 この俺、何をためらっているんだ。

 微力と知りながらも、今俺が持ってる力を全て注ぐべきだ。


 そう、別にエロい気持ちとかではなく、いかがわしい気持ちなんて微塵みじんもなく、これはあくまでも文化祭のためなのだ。



「それでは、対決に使用するゲームは、A○ex Legendsとしますが、いいですね」

 コンピューター研の部長、坂村さんが訊いた。


 A○ex Legendsはバトルロワイヤルゲームだ。

 三人が一組になって、20チーム、計60人が一つのマッチに参加し、銃で撃ち合って最後まで勝ち残ったチームがチャンピオンになる。

 「レジェンド」って呼ばれるそれぞれに特殊能力を持ったキャラクターを操作して戦うFPSだ。

 以前、アメリカに行ったとき、文香とアメリカのAI戦車ケイと三人で遊んだこともある。


「同じマッチに参加して、より長く生き残った、順位が高い方が勝ちとしましょう。当然、我が部から出すチームは最後まで生き残ってチャンピオンになるでしょうが」

 坂村さんが自信たっぷりに言った。

 その冷たい瞳で見られると、ゾクゾクッとする。


「さあ、そちらから三人一組のチームを出してください。こちらも我が部の精鋭を出します」

 坂村さんが言った。


「こちらは、小仙波がまず一人として…………」

 花巻先輩が言いながらこっちを見る。


「文香を入れてください」

 俺は頼んだ。


 文香とは何度もこのゲームをプレーしてるし、「クラリス・ワールドオンライン」をはじめこれ以外のゲームでも長いこと苦楽を共にしてるから、お互いに行動パターンが分かっている。

 阿吽あうんの呼吸でプレー出来る。

 AIに阿吽の呼吸があるのかは、分からないけど。


「文香って、あの戦車の文香ちゃんのことですか?」

 坂村さんが眉間にしわを寄せて訊いた。

 坂村さんに険しい表情をされてビクッとする。


「無論である。文香君は我が『文化祭実行委員会』の立派な一員。欠くことの出来ないメンバーである。故に、この勝負に参加する資格は当然あると考える」

 花巻先輩が俺の代わりに言ってくれた。

 やっぱり、こういうときの先輩は頼りになる。

 ときに滅茶苦茶なこと言うけど、その力強い言葉で俺達を引っ張ってくれる。


 俺は先輩の隣でウンウンと強く頷いた。


「まあ、いいでしょう。その、戦車の文香ちゃんも参加者として認めましょう。いずれにしても、我がチームには勝てないでしょうから」

 坂村さんはさげすむように言って俺を見下ろす。


 控え目に言って、叱られたい。

 グチグチと言葉で責められたい…………って俺、なんで俺の中のMを呼び覚まされてるんだ?


「それで、あと一人は誰ですか?」

 同じように坂村さんが冷たい瞳で訊く。


 あと一人か……


 六角屋を見ると、六角屋が首を振った。

 今日子を見ると今日子も首をぶんぶん振る。


 二人ともあんまりゲームはしないみたいだし、いきなりFPSで撃ち合いとかは難しそうだ。


「私が出てもいいが…………」

 さっきまであれだけ威勢がよかった花巻先輩も、歯切れが悪かった。


「私はFPSのようなゲームでは酔ってしまってな。まともに画面すら見られないのだ」

 先輩が言う。

 この花巻先輩にも、苦手なものがあったのか。

 確かに、FPSには向き不向きがあるけど。



「私、出ます!」

 突然、手が上がった。


 みんなが一斉にそっちを向く。


 新入委員の南牟礼さんが手を上げていた。

 ちっちゃな南牟礼さんが、ピンと手を伸ばして背伸びしてる。


「南牟礼さん、ゲームできるの?」

 俺が訊いた。


「はい、お兄ちゃんの影響で、シージとかオーバーウォッチとかしてました。バトロワなら、H1Z1とかPUBGをやったことあります」

 南牟礼さんが言って親指を立てた。


 おお! こんな近くに逸材いつざいが!


「うむ、決まったな。よし、我が文化祭実行委員会からは、小仙波、三石、南牟礼、この三名を代表として、勝負を挑む!」

 花巻先輩が高らかに言った。


「いいでしょう。勝負は明日みょうにち、この部室で。瞬殺することになるでしょうが、うらみっこなしで」

 坂村さんが薄ら笑いで言う。


 坂村さんは、その笑顔までゾクッとした。

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