第130話 報告書
「ほう、我が委員会の男子は、なかなか優秀ではないか」
腕組みした花巻先輩が満足そうに頷いた。
校庭に戦闘機が降りてきた騒ぎで色々あったあと、俺達「文化祭実行委員会」のメンバーと顧問の月島さんは、いつものように部室の居間に集まっている。
六角屋と俺の男子二人が、花巻先輩、今日子、文香、月島さんの女性陣に囲まれていた。
「これほどのチョコレートを集めてくるとは、さすが、私が見込んだ男達だと言えよう」
先輩が目を細める。
六角屋は両手に二袋ずつ、計四つの紙袋を下げていた。
もちろん紙袋は女子からもらったバレンタインデーのチョコレートでパンパンだ。
六角屋の奴、他校の生徒や上級生の女子からも、幅広くチョコを集めたらしい。
一方俺は、紙袋一つと、今日子からもらったサッカーボール大の箱を一つ持っていた。
六角屋に数では遠く及ばないけど、俺にしては出来すぎってくらいもらっている。
「よきかな、よきかな。祭を
先輩に大袈裟に褒められて、悪い気はしない。
まあ、俺の場合、人心を集めたっていうか、周りの女子が、俺を可哀想だと思って同情でくれたんだろうけど。
「さて、それでは私からも二人にチョコレートを渡すとしよう」
花巻先輩が言った。
先輩が台所から包みを持ってくる。
それはどう見ても一升瓶みたいな形をしていて、二本のそれに紐を掛けて
なんか、
「さあ、二人とも受け取るがよい」
先輩がそれを一本ずつ俺と六角屋に渡した。
「先輩、これ、どう見てもお酒なんですが」
六角屋が言う。
「ははは、それは半分正解で、半分間違っている。これは、一升瓶から型を取ったチョコレートの瓶の中に日本酒を詰めた、日本酒ボンボンだ」
先輩がドヤ顔で言った。
先輩、俺に中身はウイスキーがいいか日本酒がいいか訊いてたけど、ホントに作ったのか……
「未成年にお酒飲ませないでください」
俺は言う。
「いや、これはあくまでもチョコレートであって、酒ではない。少しだけ、大人の味がするがな」
先輩はそう言って高らかに笑った。
「まあ、たとえ日本酒の一升瓶一本空けたところで、酔いはしないだろう」
それは先輩だけです……
「それじゃあ、次は私の番ね」
月島さんが言う。
「私から、二人にバレンタインデーのプレゼントをするね」
月島さんが俺達に向けてウインクした。
月島さんからのプレゼント、何だろうって思ってたら、月島さん、おもむろに居間から奥の部屋へ入った。
そして、「ちょっと、準備するから待ってて」って言いながら、居間と奥の部屋の間の
一体、何が始まるんだろうって聞き耳を立ててると、襖の向こうから
スーツのジャケットを脱いだり、ベルトを外したり、するするとシャツを脱ぐ音もする。
「なんか、嫌な予感がするんだけど」
今日子が言った。
「ちょっと奥の部屋見てくるから、冬麻と六角屋君はそこにいなさい」
今日子はそう言うと、襖を開けて奥の部屋に入って行く。
入った途端、今日子が慌ててピシャリと後ろ手に襖を閉めた。
「もう! 先生! なにしてるんですか!」
そんな今日子の声が聞こえる。
「すぐに服を着てください!」
今日子が続けた。
なん、だと?
「その格好で二人の前に出るつもりですか?」
今日子のヒステリックな声がする。
「なによぅ、ちゃんとリボンで隠すところは隠すんだから、いいじゃない」
襖の向こうから、今日子に言い返す月島さんの声が聞こえた。
なん、だと?
「ほぼ裸じゃないですか! 体にリボン巻いてるだけで、ビキニよりも隠してないじゃないですか!」
なん、だと?
「だってほら、体にリボンを巻いて、『プレゼントは私』的なの、一度はやってみたいじゃない」
「そんなの、
「ちぇー。今日子ちゃんって、案外、
「そういう問題ではありません!」
「分かったよ。仕方ない、プランBでいくか」
襖の後ろから、月島さんの寂しそうな声がした。
そんな
出てきた月島さんは、ちゃんとスーツを着ていた。
そして、
「普段からお世話になってる二人に」
って言いながら、某、高級チョコレートの小箱を俺と六角屋に渡す。
上品な金色のリボンが掛かっていて、いかにも高そうだった。
これが、プランBか。
プランBは、至って普通だ。
奥の部屋で封印されたプランAを、是非とも見てみたかったんだけど。
そんなふうにバタバタしてるところへ、
「お邪魔します。生徒会から参りました」
玄関の方から声が聞こえて、部室に伊織さんが入ってきた。
「みなさんお揃いですね」
いつも通り、完璧な笑顔の伊織さん。
真っ白い歯が見えて、ポニーテールにしてる長い髪が揺れる。
「ああ、小仙波と六角屋にチョコレートを渡していたところだ」
花巻先輩が答えた。
あれ? この感じ、もしかして、伊織さんもチョコをくれるんだろうか。
さっきから、伊織さんが後ろ手に何か持っていて、それを背中に隠してるのがチラチラ見える。
「残念ながら、私は生徒の
伊織さんが言って、俺と六角屋に頭を下げた。
俺と六角屋は、慌てて「頭を上げてください!」って頼む。
伊織さん、やっぱり、こういうところはきちんとしている。
そういう態度が、伊織さんを、より、魅力的に見せるのかもしれない。
「というわけで、チョコレートの持ち込みはできませんが……」
そこで真面目な顔をしていた伊織さんが破顔した。
「生徒会から文化祭実行委員会への報告書です。小仙波君、六角屋君、よく読んでおいてください」
伊織さんはそう言って、俺と六角屋に分厚いファイルを渡した。
職員室の棚にあるような、青い某キ○グジムのファイルだ。
伊織さんが背中に隠してたのはそれだった。
「報告書、ですか?」
俺はわけも分からずファイルを受け取って表紙を開ける。
するとそこには、紙の一枚さえも挟んでなくて、ロイヤルブルーの包装紙に包まれた箱が挟んであった。
ずっしりと重いこの感じ、たぶん中身はチョコレートなんだろう。
なんだこの、お代官様に小判の
「その報告書、ちゃんと読んでおいてくださいね」
伊織さんがとびきりチャーミングな笑顔で言った。
「はい! もちろん」
俺と六角屋が声を揃えて答える。
すごく甘そうな報告書だ。
「それじゃあ、最後は私から…………」
中庭から声がした。
文香が、
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