第102話 AI Tank

 俺と文香の前に、一輌の戦車が停まった。

 M1戦車を一回り小型化したような、アメリカの次期主力戦車だ。


「Hallo、Youが、JapanのAI Tankなのね」

 すると突然、その戦車が話しかけてきた。


 なんだろう?

 戦車に突然話しかけられるっていう、この既視感きしかん


 そうだこれは、俺と文香が最初にオフラインで対面した、公園の場面と同じだ。

 あのとき俺は、公園に乱入してきた戦車(文香)に突然声をかけられて動転したのだ。


 ってことは、もしかして…………


「YouはType 23 kaiって言うんでしょう? MeもAI Tankなの」


 やっぱり、目の前にいるこの戦車も、文香と同じ、AIを搭載して自分で動く戦車なのだ。


 その戦車は砲塔が小さくて、戦車砲が入るスペース以外はバッサリと削られてるみたいだった(俺が乗ってるような車長席はないみたいだ)。

 ステルス性を考慮してか、あらゆる部分がカクカクしている。

 肝心の戦車砲は、文香と同じ120㎜に見える。

 外観は、この砂漠に合わせたようなライトブラウンの迷彩塗装だった。


 この、ヤキマトレーニングセンターにいるってことは、彼女もここでテストや訓練をしてるんだろうか?



 文香の車長席に乗っていた俺は、ハッチを開けて砲塔から顔を出した。


「Oh! PrettyなBoyが乗ってるじゃない」

 俺を見るなり、アメリカ軍の戦車が言う。


 戦車に、Prettyって言われた。


「JapanのTankは、EverydayこんなBoyを乗せてるの?」

 その戦車のセンサーが俺の方を向く。

 たくさんのセンサーが俺に向けられてて、全てを見られるみたいで気恥ずかしい。


「いえ、これにはちょっと理由がありまして……」

 俺は、俺がここに乗ってる理由を説明した。

 文香の名誉のためにも、ホームシックだったことは言えない。

 だから、説明には少し苦労した。


「よく分からないけれど、You達はPartnerってことね」


「まあ、そういうことです」

 毎朝一緒に学校に通ってるし、クラスが同じだし、隣の席だし、同じ文化祭実行委員会のメンバーだから、まあ、パートナーでいいんだと思う。


「Meの名前は、『ケイ』。某サ〇ダース大学付属High SchoolのCaptainと同じNameだよ。Nameの由来は、私の開発者の中にガ〇パンファンがいたから。『ケイ』って知ってるよね、私のご先祖、M4シャーマンにrideしてる」


 もちろん知ってたっていうか、アメリカの開発者、ガ〇パンおじさんだったのか。

 その名前を付けちゃうって、ちょっと濃すぎだろ……


「俺は、小仙波冬麻といいます」

 俺は、「ケイ」って名乗るその戦車に頭を下げた。


「トーマね。Nice to meet you.」

 ケイはそう言って、前部のサスペンションを低くして、後部を持ち上げた。

 お辞儀じぎするような仕草をする。


「これが、Japanese styleでしょ?」


 た、確かに。


「あっ、あのあの、私は文香です。三石文香です」

 文香が慌てて自己紹介した。

 文香も同じように車体の前部を低くして、お辞儀する。


 日米二輌の戦車が、お辞儀して向き合った。


「ふーん、YouのNameはフミカっていうんだ。同じAI Tank同士、仲良くやろう!」


「は、はい……」

 文香が恥ずかしそうに言う。



「ところで、さっきから、そのしゃべり方は……」

 俺は訊いた。

 日本語と英語を交ぜたようなしゃべり方が、気になってしょうがなかった。


「Meのしゃべり方? You達Japaneseがimageする片言のForeignerのしゃべり方でtalkしてみたんだけど。その方が、分かりやすいと思って」


 なんだ……わざとやってたのか。


 っていうか、わざわざ片言の外国人のしゃべり方をしてみたとか、俺達に対するお気遣いっぷりがハンパない。


 アメリカのAI戦車、進みすぎだろ。


「Meは6000以上のLanguageを話せて、もちろん、NormalなJapaneseも使えるけれど、そっちでしゃべった方がいい?」

 戦車「ケイ」に訊かれた。


「そっちでお願いします」

 なんか、ずっと聞いてたら頭がこんがらがりそうだし。


「それでは、あちき、普通の日本語でしゃべるでありんす」

 ケイが言う。


「いや、それ、普通の日本語じゃないし!」

 思わず、ツッコんでしまった。


「Oh!  日本男児は、鋭いツッコミもできるんだね。日本にはシャイボーイが多いって聞いてたけど」

 ケイに変なところを誉められる。


 俺にツッコミが身についたのは、たぶん、花巻先輩のそばにいるからだと思う。

 あの人には、毎日毎日、拾いきれないほどのボケを浴びせられる(本人はボケてるつもりはないのかもしれないけど)。



「………………」


 アメリカ軍のAI戦車、ケイの陽キャオーラに当てられて、文香が縮こまってるのが分かった。

 ただでさえ人見知りの文香が、この外国の地で、さっきまでホームシックにかかってたのだ。

 そんなところに現れたケイは、文香にはまぶしすぎるのかもしれない。


 文香が目の前のケイに対してATフィールド全開にしてるのが、(ゲームの世界で)ずっと一緒だった俺には分かる。



「そうそう、明日から私も加わって一緒に訓練することになったから、そっちもよろしくね」

 ケイが言った。


 なるほど、明日から、合同で訓練することになるのか。

 日本とアメリカのAI戦車がそろい踏みってことだ。


「ほら、文香」

 俺は小声で言った。


「よ、よろしくお願いします」

 文香が消えそうな声で言う。


 なんか、保護者になった気分だ。

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