終焉編30話 氷狼VS剣狼



「おうおう、よく見りゃあ賞金首どもの博覧会じゃねえか!」


右サイドのリックはポールアームを振るいながら、キリングクロウ隊の面々を確認する。出会った時は考えナシの脳筋だった弟分も、しっかり相手を見て対策を打てる男になったな。


「稼ぎ時でありますね!ビーチャム隊、報奨金と懸賞金の二重取りチャンスが到来したぞ!」


左サイドに回ったビーチャムは元々思考力に優れた兵士だ。タフさとガッツが飛び抜けたパワーファイター・リック、念真髪闘法と剣技に磨きをかけたテクニシャン・ビーチャム。……本当にいい兵士になった。


「オジサンも久しぶりに前に出てみるかね!シオン、支援狙撃よろしく!」


「了解よ!ナツメはビーチャム隊の援護に回って!S級賞金首が一人混じってるわ!」


「お任せなの!あの髭面は私が抑える!」


成長した有望株に経験豊富な曲者・ロブ、射撃も格闘もハイレベルでこなせる副長・シオン、天性のセンスで仲間をカバーするスイーパー・ナツメが加われば、どんな敵とでも戦える。


X-2と空中戦をやってるリリスはどんな按配かな?


「……硬い!だけど私なら……貫けるはず!」


リリスの張った分厚い念真重量壁に念真重量槍を弾かれるX-2。防御力ならリリス、攻撃力ならX-2といったところか……


「そこそこ戦えると褒めてあげるわ。だけど、アンタは私を超えられない。」


「そんな事ない!だって私は……あなたのデータを元に作られた後継機なんだから!試作型が完成型に敵う訳ないもん!」


「おめでたいわね。後継機がすべからく試作機を超えるとは限らないわよ?」


汗臭い事はやらない主義、リリスはそう言っているが、労を惜しんでいる訳じゃない。その必要がないからだ。


「だったら守ってばかりいないで、攻めて来なさいよ!それとも武器は口だけなの?」


感情の起伏がない無口少女かと思っていたが、普通に喋れるんじゃないか。


「シグレに倣ってけんに回っていただけよ。頭でっかちに囲まれてたアンタと、ゴロツキどもと一緒に戦ってきた私の間には超えられない壁がある!」


頭上でデスサイズをクルクル回したリリスは、遠心力を載せた斬擊でX-2の純白の盾を斬り裂いた。


「ウソッ!……け、計算では私の盾は破壊出来ないはず!」


「だから頭でっかちだって言ってるのよ。計算上不可能、そんな小利口な理屈なんて跳ね返してきたのがアスラのゴロツキどもよ!」


天才少女は仲間の使う技を完璧に記憶している。そして、抜群の戦闘頭脳で自分が使える技と使えない技を取捨選択し、イメージトレーニングを重ねてきた。模倣というには完成度の高すぎる技を、状況に応じて使い分ける事が出来るんだ。


「……私は……私は本当の名前を……自分が誰なのかを知りたいの!だから……負ける訳にはいかない!」


純白の鎧を纏った少女は悲痛な叫びを上げた。記憶を失ったのか、それとも奪われたのか……


「……そう。私に勝てば本名と過去を教えてもらえるのね。」


「……経験ではあなたが上かもしれない。だけど性能は私が上!だって私は!ディアボロス計画の最高傑作にして最終兵器、ディアボロスXー2だもの!」


「だから負けるのよ。兵器じゃには勝てないわ。」


白と黒、過去を取り戻したい少女と未来を掴もうとする少女は激しい空中戦を演じる。誰にも邪魔出来ないし、邪魔をするべきじゃない。あのコを救えるのは……リリスだけだ。


───────────────


左右の隊を狼眼で援護しながら、前進を阻む兵士は全て斬り捨てた。もうアギトは自分が戦うしかない。


「観念しろアギト。……この期に及んでまだ肉壁に頼るかと思っていたが、そういう事か。」


「待たせたな。……やっとこの手で貴様を殺せる時が来たのだ!」


喚くアギトの顔には無数の血管が浮き上がっている。ドーピング、しかもかなり過剰だ。


「切り札がおクスリとはつくづく救えん男だ。効果時間は限られてるんだろ? サッサとかかって来い!」


「いつまで涼しい顔でいられるかな!」


まずは居合抜きの咬龍、下段払いの平蜘蛛に繋ぎ、そこから百舌神楽。夢幻一刀流の十八番と言えるコンビネーションだな。


「百舌神楽には百舌神楽だ!」


突きのラッシュに突きのラッシュで応じながら、アギトの剣筋を見極める。速く、鋭く、力強い。人間性は最低だが、剣筋は最高の部類だな。


刀の切っ先が双方の肩を掠め、一太刀目を当てたのは同時。クソ忌々しいが、剣技は互角か!


「フッ。その顔、剣技は互角と思っているようだな。馬鹿め!他流派との戦いならば露見しない疵も、同門であれば露わになるのだ!」


素早く納刀したアギトはまた咬龍から平蜘蛛へと繋ぎ、今度は脇差を使った双牙で崩しを狙う。


「双牙から鷹爪擊、これは……夢幻刃か!」


やるな!一瞬の澱みもなく、流れるように夢幻一刀流の一から八までの技を繋げてきやがる!


「そうだ!貴様はこれまでの戦いで何度も九の太刀・破型、狼滅夢幻刃を見せてきた!」


「それがどうした!」


受けに回ってばかりじゃ押し込まれる!隙を見て反撃しなければ!


「わからんのか!それこそが夢幻一刀流剣士として未熟な証左なのだ!確かに技と技の継ぎ目を狼眼で補う狼滅夢幻刃は扱い易い奥義だ!浅はかな貴様は、狼滅夢幻刃を夢幻刃の上位技だと思っていたようだが、大間違いだぞ!」


「なんだと!?」


基本の太刀から派生、もしくは変化させる破型の技は、より難易度の高い発展技のはず……


「技の繋ぎ目を狼眼で補う? フッ、それは補わなければならない隙があるという事だ!夢幻一刀流の原点にして究極は"完成された夢幻刃"にあると知れ!」


夢幻刃は基本の太刀をその場に応じて使い分ける連続攻撃。同じ夢幻一刀流を使うオレは、初動を見ればどの太刀かわかる。だけど、反撃に転じる事が出来ない。アギトの夢幻刃は繋ぎ目がないんだ。


「理解したようだな!秘伝書頼りで誰かに師事した事がないペーパー剣士の限界を!」


「完成された夢幻刃こそ至高。……牙門士乃は優れた剣客だったようだな。」


振り切ろうにも、ドーピングしたアギトのスピードはオレと同等。太股を負傷していなければ、爆縮を使って距離を取れたんだが……


今は砂鉄の盾を形成して凌ぐ以外の手がない。


「ああ、狂ってはいたが、夢幻一刀流剣士としては超一流だった!育てた弟子の手にかかってさぞ本望だっただろうよ!クソが!あのアマ、俺ら姉弟には無関係の復讐なんぞ押し付けやがって!一度では飽き足りん!何度でも殺してやりたい気分だ!」


「双子の姉はどうした?」


会話でも何でもいい。アギトの集中を乱さなければ。


「知るか!どこぞでのたれ死んだのだろう!フフフ、足だけではなく肩の傷も深いようだな。だが負傷していなければなんて言い訳をするなよ? どんな理由があろうが負けるのは力不足!貴様は俺より下なんだ!」


ドーピングしといて実力もクソもねえだろうに。……不都合な現実から目を背けるな、だったよな。そして悲しくても苦しくても、どんな経験でも力に変える。今回は胸糞悪い経験だ。


「…………」


生半可に反撃すれば痛打を食らう。防御に集中しろ!今は耐える時だ!


「押し黙って防御一辺倒、さっきまでの威勢はどこに行った!貴様は能書きを垂れるのが大好きなんだろう?」


口惜しいが認めなければ。技の完成度においてはアギトが一厘上だと。……トキサダ先生が言っていた。


"カナタ君、同門対決には注意したまえ。同じ技を使う剣客ならば、一厘の差を一分の開きに変える事が出来る"


同門であるからこそ、微差が大差になる。なるほど、これが剣術の恐ろしさか。


「お喋りな口で負け惜しみでも言ってみろ!物言わぬ死体になってからでは遅いぞ!」


恐ろしさを知れば、奥深さもわかってくる。……頑張れオレ、もう少しで掴めそうだぞ。手傷と引き換えに、剣客としての天掛カナタは成長している!


「亀のように縮こまって、何を狙っている!そうか、仲間の助けを待っているのだな!」


勘違いするのは勝手だが、おまえを粛清するのに仲間の手を借りるつもりはねえよ。周りを見る余裕はないが、アギトの焦りを見る限り、みんなは優勢に戦いを進めているようだな……


「時間稼ぎなどさせん!切り札を見せてやろう!凍壁流転陣!」


周囲を氷室で囲まれた!ガラクの得意技、氷柱流転陣の上位技を予備動作なしで行使するとは!!


「もう逃げ場はないぞ!喰らえ!終の太刀・破型、氷擊夢幻刃!」


冷気を纏った刃が迫って来る!回避は出来ない!紅蓮正宗で突きを弾こうとしたが、渦巻く冷気は至宝刀すら撥ねのけた。


「うぐっ!!」


突きを喰らったオレは氷の壁に思いっきり叩き付けられ、それでも止まらずに氷片を飛び散らせながら後ろに吹っ飛ばれる。致命の一撃にはならなかったが、かなりのダメージだ。


「フン!砂鉄を纏わり付かせて刃先を丸めおったか。小賢しさだけは一流だな。」


アギトは刀を振って刃先を覆う砂鉄を払い飛ばした。


「……予想通りだ。氷狼なんて渾名の癖に、氷結能力を持ってない訳ないよな。」


まだ立てる。まだ戦える。……勝負はこれからだ。


「お得意のハッタリか。見苦しい、わかっていたなら、なぜ対策をしてこなかった?」


「学ぶべきだと思ったからだ。おまえが剣術に捧げた三十余年の歳月をな。……もう学習は終わった。対策が見たいなら見せてやろう。」


オレは刃を天に向けた紅蓮正宗の切っ先をアギトに向け、片手で変位夢想の構えを取った。


……カナタ……いつでも僕が傍にいる……


わかってるさ。アギトを倒すのはオレとおまえだ。さあ、今こそ力を貸してくれ!燃えろ、オレの心の炎よ!


「面白い、どんな対策か見せてみろ!夢幻一刀流奥義、金剛氷鎖陣!」


連環された無数の氷槍が金剛石ダイヤモンドのように輝いている!ダイヤモンドダストを生じる氷の鎖か!


「火隠忍術奥義、螺旋業炎陣!」


左手に灯した炎が渦を巻き、細氷の網を呑み込んでゆく。


「なんだと!? こ、この俺の氷結能力が…お、押し負けるっ!」


間一髪で火炎の渦を躱したアギト。しかし、掠めた炎でコートの裾が炭化している。


元素系能力パイロキネシスの威力は、オレが上のようだな。」


「き、貴様は……火炎能力を学習ラーニングしていたのか……」


おそらくオレは、元素系能力を苦手としていた。原点からかけ離れた亜種能力、磁力操作も本家ケリーに及ばず、そこから派生させる事によってなんとか会得した重力操作も範囲は狭く、強度も災害閣下ほどじゃない。オレ一人であれば、螺旋業炎陣を使うどころか、火炎能力の会得も無理だった筈だ。だけどオレは……一人じゃない。


「ラーニングではない。我が友、空蝉修理ノ介の心の炎が……オレに力を貸してくれる。」


紅蓮正宗の赤く波打つ刀紋から、真紅の炎が湧き上がる。紅蓮の炎を纏った愛刀を手にオレは宣言した。



「友の怒りを……ついえる事なき絆の力を……その身で思い知れ!」

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