終焉編15話 魔獣VS処刑人
※アギト・サイド
「
あのバカが!俺とチキンレースをやってる場合か!このままだと俺が横腹を食い破る前に、貴様の師団が潰走するぞ!
「……どうするの?」
ホワイトチキンのように病的ではないが、色白な雌ガキがポツリと呟いた。このガキが色白なのは、元からそんな肌なのもあるが、何よりも日の光を浴びた事がほとんどないからだ。秘密研究所ってのは、地下にあるのが相場だからな。
「X2、
「……わかった。」
"ディアボロスX"……リリエス・ローエングリンは"サポート型の完成形"としてS級兵士に認定されている。だが後継機の"X2"は当初の計画通り、戦闘型だ。そしてオルグレンは完成したX2をベースに簡易量産型"エンジェルス"の開発にも成功していた。
短時間とはいえラバニウムコーティングを使用可能な実験部隊をこちらに回してくれたのは、戦後の風評を気にしての事だろう。
目障りなガキは艦橋から消えた。これで戦術に集中出来るな。
「ホワイトチキンに再度通告しろ!文面は"今動かねばカイル師団は壊死する!"だ!」
「ハッ!……送信を完了!しかしカイル師団はまだ動きません!」
「奴が動くまで送り続けろ!」
サッサと動いて剣狼を消耗させろ!後は俺がやってやる!
「番犬と処刑人の戦いはどうなっている!」
「双方が手傷を負いながら今だ交戦中!互角に見えます!」
オペレーター風情に頂点級の戦いの優劣がわかるものか!
「メインスクリーンに映像を出せ!」
「ハッ!直ちに!」
……フン、確かに互角のようだな。百戦錬磨の処刑人といえど、音速の範囲攻撃には手を焼いているようだ。だが高精製マグナムスチールより硬い番犬の牙が数本折られている。処刑人は
「………」
隠し持っていた切り札、"
手負いの処刑人にオスカリウスを差し向ける……それも危険か。処刑人の負傷の度合いによってはオスカリウスまで討ち取られてしまう。あの騎士気取りが死ねば、傭兵部隊を仕切れる奴がいなくなる……俺が出向けば万全だが、剣狼と戦う前に消耗は避けたい……
予備部隊を投入して処刑人が抜けた企業傭兵サイドを切り崩すか。指揮を執る麒麟児に肉薄出来る状況になれば俺が出よう。幸い、ウィッチビースト隊は戦いを優勢に進めて……中軍が押し戻されているだと!? あそこには600匹ものウィッチビーストを送り込んだはず!
「δポイントの映像を送れ!すぐにだ!」
「ハッ!アギト様、δポイントから入電!そ、その…」
「報告しろ!何が起こっている!」
「……狼眼を使う兵士が出現し、ウィッチビースト隊は苦戦中……だそうです……」
狼眼だと!? 剣狼はカイル師団と交戦している筈だ!……いや、カイル師団の陣地を陥落させている剣狼は狼眼を使わず、もっぱら重火器で攻撃を行っていると報告が入っていたな。てっきり念真力を温存しているのだと思っていたが……まさか……カイル師団に向かったとみせかけ、こちらに回って来たのか!?
待て待て、影武者にあのヘビーガトリングを軽々と扱える訳がない。何か裏があるぞ。
「追加情報です!
大殿!? 天掛カナタは八熾羚厳の
「……小癪な……分家風情が……親子揃ってこの俺に盾突きおって!!」
八熾の惣領は俺だ!八熾羚厳の嫡男であるこの俺こそが嫡流であり、天掛親子など傍流、分家に過ぎん。なのに先代も郎党も、守護獣までもが天掛カナタを選んだ!金色に輝く狼の目さえあれば、朧月セツナに不覚を取る事も、分家の小倅と戦うのに強化薬に頼る必要もなかったのだぞ!
……許せん……親父にも、一族郎党にも、守護獣にも俺が惣領だと認めさせてやる!親父の甘っちょろさを受け継ぐ天掛親子を抹殺し、不忠の郎党どもを力で平伏させ、天翔る狼の力を奪い返す!それを成し遂げた時に初めて、俺は牙門アギトではなく、八熾アギトと名乗れるのだ!
─────────────────────
※ケリコフ・サイド
切り落としてやった毒尾の断面が、グジュグジュと耳障りな音を立てながら塞がってゆく。
「天賦の魔獣だけあって、超再生まで持ってやがるのか。多芸多才で結構な事だ。」
強酸に火炎、さらに音響砲を口から吐き、鬣は伸縮自在の念真体毛。高精製マグナムスチールを越える硬度の爪牙を持ち、多少の傷なら超再生で即座に回復、か。厄介な野郎だ。化外出身のぺぺから変異獣の奇妙な生態は色々聞いていたが、こんな怪物がいたとはな。
「グルアッ!」
巨体に似合わぬ体当たりを寸差で躱したが、魔獣は形成した念真障壁を蹴って高速ターンし、背後から襲って来る。
「おっと、惜しかったな。」
背中を爪先が擦ったか。小天狗の氷壁を利用した
「……グルルルル……(……動きが鈍った時が最後だ……)」
「人間って生き物はな、持久力と登攀力には定評があるんだ。神経毒が少々入ったぐらいじゃビクともせんよ。で、人間様には他の動物には及びもつかない長所がもう一つあるんだが、それが何だか知ってるか?」
「グルアーーーーーーー!!」
回答代わりに音響砲か!速さはともかく、範囲がべらぼうだから回避は不可能。砂鉄の盾で防御するしかないが、完全にダメージを殺し切れん。やはり砂と風は相性が悪いな。
魔獣が音響砲を維持出来る時間は最大30秒、あと5秒、4秒、3秒、2秒、1秒……そこだっ!
「正解は投擲力、だ!」
砂鉄の盾から槍を形成し、あらん限りの腕力に磁力操作能力を乗せて投擲する。磁力の槍は軌道が変化する事を学習済みの野獣は念真障壁で防御を試みたが、魔槍の威力が上回った。
「グルアッ!(甘いっ!)」
眉間に突き刺さろうとする寸前、魔獣は鬣を使った真剣白刃取りで魔槍を受け止めた。
「変化するのは軌道だけじゃない、形状もだ。」
伸びた穂先を躱そうと首を捻った瞬間を狙って槍を鎌状に変化させ、下顎を抉ってやった。やや浅かったが咬合力は落とせただろう。三つある頭の一つだけだがな。
「……グルルルル……(……変化の速さと射程は覚えた……)」
高レベルの戦いはチェスや将棋に似ている。俺と魔獣は手駒を小出しにしながら有効打を積み上げあっている状態だな。そして回復力で俺を上回る魔獣は、ダメージレースに勝てると思っている。
「また音響砲か。そのうち喉が嗄れちまうぞ。」
接近戦では俺に、中~遠距離戦では奴に分がある。俺にダメージを蓄積させるには、回避不能の音響砲が最も有効と考えた魔獣の判断は正しい。最速の音波を防御させてから、徐々に音圧を上げてゆく戦法に俺は対処法を見出せないでいる。
「……グルル……グルルルル……(……肋に亀裂……内臓にもダメージ……)」
また音響砲を放てるようになるまでに距離を詰めて接近戦を挑まなければならんのだが、魔獣は火炎と強酸を吐き散らしながら後退する。砂鉄のサーフボードで加速したいが、範囲攻撃を連発してきやがるから盾を手放せない。火炎&強酸で牽制しながら時間と距離を稼ぎ、音響砲でダメージを積み上げる。理に適った戦法だ。
「インパラみたいに逃げなさんな。おまえさんは一応、化外の王なんだろ?」
「……グルルルル……(……勝つのが王だ……)」
実にごもっとも。負けたら王者ではなくなる。
「……!!……なにっ!?」
音響砲の最大持続時間は30秒、再使用までのチャージタイムは20秒、だが15秒で撃ってきた……成長したのか……罠だったのか……
咄嗟に砂鉄の盾で防御したが、念真障壁の展開が間に合わなかった。この痛み……内臓が破裂しちまったかな?
「……グルルル……(……終わったな……)」
片膝をついた獲物に向かって勝ち誇る化外の王。
「ああ、終わった。……おまえがな。」
「グルアッ!?(なにっ!?)」
「この敵には音響砲が有効、おまえはなぜそう思ったのか。それは徐々に与えるダメージが大きくなっていったからだ。確かに威力は増しつつあったが、それは要因の
解説しながら指を鳴らし、磁力を操作する。
「グボアッ!!……グルル……ルル……(……バ、バカな……)」
地面から突き出た魔槍が下腹に突き刺さり、心臓に到達する。体内で穂先を刺状に伸ばして心臓を破壊、任務完了だ。
「もう一つの要因は、"砂鉄の盾が薄くなっていたから"だ。俺が戦いながら地面に砂鉄を撒いていた事には気付かなかったようだな。」
音響砲で剥がされた砂鉄を全て回収せずに地面に残しておいた。そしておまえは、なまじ頭が回るだけに最適距離から音響砲を放ってくる。処刑地点まで誘導するのは容易い事だ。魔獣といえど下腹部は皮膚装甲も体毛も薄い。俺は最初から
「……グ…グルル……(……お…おのれ……)」
這いずるように距離を詰めてくる魔獣。その執念は褒めてやるよ。
「人間に生まれ変われたら俺を訪ねて来い。いい兵士に育ててやる。」
最後の足掻き、見る影もなくなった弱々しい音響砲を躱した俺は、磁力剣で三つの首を刎ね落とした。
予定通りに処刑完了。……予定通り、ではないか。ダメージをもらい過ぎたな。
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