愛憎編54話 サプライズゲスト
「敵軍が渡河を開始しました!」
リストバンド型の戦術タブレットに映ったノゾミが報告してきた。敵の前衛部隊が動き出した事は前線からでも視認出来る。
「鹵獲したアーマーキューブを押し立てて来たか。総員、迎撃準備!最初の相手は骸骨どもだ!」
近隣都市からかき集めた未熟な兵士に奪ったSESを支給する。投降したトガ師団の将兵が使い方をペラペラ喋ったはずだからな。危険な先鋒役には捨て駒を使う。ナバスクエスは先を見据えて精鋭は温存したいのだ。
お互いに迫撃砲を撃ち合いながら、進む兵士と守る兵士が交戦を開始する。
「始まりましたな、公爵。」
中佐の階級章を付けたカレル・ドネが鋭い目で開かれた戦端を見据える。カプラン元帥は根回しとゴリ押しを駆使してカレルに佐官の地位を与えた。カレルとピーコックはフラム閥が武闘派路線に舵を切った事を象徴する兵士なのだ。カレルは派閥のナンバー2、ドネ伯爵の夫でもあるから、厚く遇する事には政治的な意味合いもあるのだろう。
「先鋒に骸骨兵を選んだのは、ジェットパック搭載型のSESを防塁内に飛び込ませる意図もあったようだ。」
飛来する骸骨兵を防塁に据えられた機関砲が迎え撃ち、空中で撃破する。だが敵の数は多く、全てを撃ち落とす事は出来ない。城壁攻略用に開発されたユニットだけに、重いシールドを装備させても土嚢の壁は易々と飛び越し、たちまち乱戦が始まった。
「敵ながら考えていますな。」
「ああ。栗落花一葉はSESの運用法を間違えていた。見ろ、骸骨兵は両手にガトリングガンを装備している。ド素人をアシストするなら白兵戦より射撃戦、あれが正しい運用法だよ。」
FCS頼みの精度の低い射撃術は、弾をばら撒くガトリングガンでカバーする。射撃だって未熟な兵士に一発必中を望むのは酷だ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、どうしても骸骨兵をクロスレンジで戦わせたいならこれしかない。
未熟な兵士を前線に投入する事の是非はさておき、骸骨兵を使うなら、熟練兵を援護をする重砲支援要員とすべきだろう。
「様々な技を状況に応じて繰り出す白兵戦技よりも、狙って撃つだけの射撃戦の方が技量の差が出にくい。高望みはせず、適合率の低い兵士のパワーと装甲を強化したと割り切る、ですか。」
「そういう事だ。アイツらは外骨格のアシストなしではガトリングガンを振り回す事など出来ない。重火器を軽々と扱えるメリットに特化していれば、ああまで無様に負ける事もなかっただろう。安価に作れるサイボーグもどき、SESはそれなりに有用な兵器ではあるんだ。」
サイボーグ兵の欠点はこまめなメンテナンスが必要である事と、何よりコストが高い事だ。カーチスさんやトリクシーのように適正があって、コストに見合う戦果を上げられる兵士でなくては、サイボーグ化させる意味はない。
正しい運用法を見せたナバスクエスだが、外骨格頼みの未熟な兵士だけで防塁を突破出来るとは思ってはいないだろう。事実、迎撃部隊は飛び込んできた骸骨兵の射撃をガード屋に防いでもらいながら、射角やリロードの隙を突いて反撃に転じている。特に、左翼の最前線に配置された
ピエール・ド・ビロン率いるムキムキマッチョどもの本領は、やはりガード屋だな。
「捨て駒に迎撃部隊の手を割かせている間に、本命の部隊が渡河する。気に入らないやり口ですが、戦慣れしていますね。」
「カレル、そろそろ中軍の戦線を下げさせろ。オレは全戦線をコントロールする。」
「ハッ!」
右翼には
ナバスクエスば予定通りに全軍を前進させ、こちらも予定通りに後退を完了。右翼に展開する連邦有志軍はわざと退いたんだが、中軍と左翼はあながち演技でもない。ナバスクエス師団の強さと勢いは本物だ。
!!……敵の右翼が紡錘陣形を構築しようとしている!やはり練度に劣るビロン師団が狙い目だと踏んで、潰しにかかってきやがったな。左翼のビロン師団を叩き、返す刀で中軍のカプラン師団に横撃を喰らわす。これがナバスクエスの描いた勝ち筋だ。
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※レアンドロ・サイド
「今だっ!総員、俺に続け!高慢ちきなフラム人どもに連敗記録を更新させてやろう!」
マカナを手にしたレアンドロ・ナバスクエスは自ら先頭に立ち、ビロン師団を切り崩しにかかった。野心は同等、強さにおいてはネヴィルを超えるホレイショ・ナバスクエスが臥薪嘗胆、隠忍自重の日々を送った理由の一つが"才気煥発な兄妹の成長を待つ"であった。
暴れたくて、戦いたくて仕方のなかったレアンドロは、やっと思う様戦える舞台が整った事に歓喜しながら剣を振るう。
「フラムの子猫がメクスの豹に敵うとでも思ったのか!雑魚の首に興味はない!シモン・ド・ビロンはどこだ!」
無人の野を征くが如く敵陣を切り裂いてゆくレアンドロとジャガー戦士団分隊は、艦首にたなびくビロン家の旗を見つけた。"平均点しか取れない将帥"と揶揄される男は、殊勝にも前線に出て来ていたらしい。
「親父が出張るまでもない。俺が相手だ、かかってこい!」
巻き毛の金髪をかき上げた巨漢がレアンドロの前に立ち塞がる。
「おまえが"
「やれるもんならやってみろ!親父と兄貴は俺が守る!」
戦槌を構えて突進するピエールをレアンドロは迎え撃った。マカナと戦槌が火花を散らし、少将の息子と元帥の息子は一騎打ちを演じる。
「くぉの!せいっ!どりゃあ!」
懸命に戦槌を振るうピエールだったが、レアンドロの体を捉える事が出来ない。返しの刃で細かく刻まれ、無数の傷から出血を強いられる。
「粗さが目立つが、まあまあの腕だと褒めてやろう。」
「うるせえ!まだ勝負は付いちゃいねえぞ!」
隆起した筋肉で出血を止め、一歩も引かない覚悟で立ち向かうピエール。しかし、力量の差を埋める事は出来ず、防戦一方に追い込まれる。耐えて忍んで、傷だらけになりながら見つけたコンビネーションの合間になんとか戦槌を割り込ませたが、虚しく空を切った。ピエールの異常なタフさを警戒したレアンドロは、邪眼を発動させていたのだ。
「タフさには目を見張るモノがあるが、鈍重過ぎる。ジャガーアイの前では象亀に等しい。」
「論評は勝ってからにしな!俺の見せ場はこっからだぜ!」
口惜しいがマトモに戦ったんじゃ勝てねえ。ならば……父母から授かった肉体を信じ、肉を斬らせて骨を断つ!ピエールは左手を胸の前にかざし、右手の戦槌を上段に振りかぶった。
「……フン、相打ち狙いか。いや、左手を生贄にして一撃で仕留める。狙いは悪くないが……相手が悪かったな!」
いくらタフでも首を刎ねれば再生出来まい。父から習った"サイキックバースト"を使えば、腕ごと首を刎ねる事など容易いはずだ。勝利を確信し、前傾姿勢でダッシュするレアンドロの前に巨岩が降ってきた。
「なにっ!?」
瞬時にダッシュをバックステップに切り替えたレアンドロは軽く巨岩を躱してのけたが、総毛立った体が警戒を促した。"強堅"ピエールに比肩する体躯を持ち、威圧感は倍どころではない男が巨岩の兵を伴い、空中から自分を見下ろしている。
「邪眼がご自慢のようだが、視野は狭いようだな。俺の接近に気付かなかったのか?」
「アレクサンドルヴィチ・ザラゾフ……貴様が何故ここにいる!」
"烈震"アレックスはピエールを守るように地面に降り立ち、不敵な顔で嘯いた。
「おまえを始末する以外の理由があるのか? 巻き毛の小僧、よく戦ったぞ。少し休んで追撃に備えろ。」
「大佐、俺はまだ負けてねえ!俺は…」
「不退転の覚悟を示した。その覚悟があれば、おまえはもっと強くなれる。ここは俺に任せておけ。」
優しさに涙し、口惜しさに唇を噛む若武者に背中から声がかけられる。
「ピエール、強堅の名に恥じぬ戦い振りだったよ。」 「うむ。おまえはビロン家の誇りだ。」
「……兄貴……親父……」
「くだらん!戦場で陳腐なメロドラマなど演じるなど愚の骨頂。負け犬同士で、傷でも舐め合っているのがお似合いだ。王者の慈悲だ、最後の家族団欒を楽しむがいい。烈震を仕留めたら、まとめて地獄に送ってやる!」
「おまえの方こそ、親父と妹に別れを告げてきたのか?」
アレックスは腰の※シャシュカを抜き、切っ先をレアンドロに向けた。
「おまえの首級を手土産に持ち帰り、親父と妹に自慢するさ。」
「無理だと思うが頑張れ。おっと、これは剣狼の決め台詞だったな。」
挨拶を終えた両雄は、シャシュカとマカナを構えて対峙する。
激突するは豹と獅子。この決闘の勝敗が、会戦の行方を左右するに違いなかった。
※シャシュカ
サーベルの一種。地球ではコサック兵が用いました。
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