泥沼編3話 外付け思考回路(人斬り専用)
「久しぶりだね、剣狼。別働隊を率いる氷狼を取り逃がしたらしいじゃないか。」
本当は馬上から見下ろしたかったに違いないKだが、オレの後ろにカプラン元帥がいる以上、それは出来ない。貴族趣味全開のビラビラが付いた軍服を靡かせながら白馬から飛び降り、さっそく皮肉を口にする。
「詰めが甘いのはお互い様だ。奇行子さんもバトル大好き公爵を取り逃がしてる訳だからな。」
性根が真っ黒な癖にパーソナルカラーは白かよ。オレも人のコトは言えんが、おまえよりはマシだ。
「僕の異名は"貴公子"だよ!」
「ほう、発音でニュアンスを感じ取れるとは思わなかったぜ。下手打ちのヘタレでも一応、脳味噌を搭載していたんだな。ステゴサウルスかトリケラトプスと同じぐらいの容量にしてもだ。」
捨て子サウルスの可能性もあるがな。いや、おまえもオレと同じで、親を捨てたクチなんだろ?
「高貴な血筋のこの僕を恐竜になぞらえ…」
「これは失敬。確かに失礼な話だった。絶滅したといっても、太古の世界に君臨した剣竜類や角竜類の名誉を毀損しちゃいけない。」
「こ、この!僕が爬虫類以下だと言うつもり…」
「おまえと比較していいのはクラジミアぐらいだ。」
ほれ、顔を真っ赤にしてねえで、なんか言え。
「そこまでにしたまえ。同盟の誇る騎士と侍が路上で口論などみっともないだろう。」
カプラン元帥がオレとKの間に割って入った。ゴングに救われたな、奇行子さんよ。
「それでは元帥、オレは次の任務に向かいます。」
もう2、3発、言葉のパンチを浴びせたいところだが、群衆の目もある。オレが大人げない男なのは事実だが、ことさら喧伝するコトでもない。仲間の待つヘリポートに向かおう。
……待てよ? さっき馬から飛び降りた時、僅かに唇を歪めたな。ロドニーとの対戦は引き分けに終わったようだが、倒せるものなら倒していたはずだ。なんせ、Kの大好きな名声を得られるんチャンスなんだからな。昇進の決まったピーコックに頼んで、Kの戦闘映像を送ってもらおう。打たれ弱い野郎だと思っていたが、想像以上にヤワなのかもしれん。
───────────────────────
北エイジアに向かうヘリの中でも、トゼンさんは床に
「トゼンさん、戦地に着くまで医療ポッドに入っててください。」
「また
「トゼンさんが背負う面倒じゃないんだから、ほっといてください。ちんたら飲んでないで、早く医療ポッドに入る!それとも怖いんですか?」
本当は後輩モードで統一したいんだよ。でもそれをやると元上官と現師匠に"自覚がない!"って怒られるんだ。
「治癒液の匂いが嫌えなんだよ!わかったわかった、そう睨むな。ポッドに入る前にアギトの
「そこらは"外付け思考回路"に聞いておきますから。」
「あん? 外付け思考回路ってのは、何の事だ?」
(ボクの事でしゅ!)
シュルシュルとトゼンさんの懐から白蛇が出てきて、赤い目でオレを見上げてくる。
「ハクの分析を聞かせてくれるかい?」
情報料のスモークソーセージを差し出すと、つぶらな目を輝かせた白蛇はパクリと丸呑みする。
(あい!アギトの剣速でしゅが、トゼンしゃんと互角でしゅ!パワーも五分だと思いましゅが、防御に脇差しを多用ちてたので、両手持ちの斬擊は見れませんでちた!)
やっぱ引き気味に戦ってやがったか。ま、トゼンさんと真っ向勝負なんて出来ねよな。オレだって御免だ。
「おうカナタ!オメエ、俺よりハクの話のがわかりやすいってのか!」
咥えたスルメをピンと立てた人斬り先生はご立腹だが、どう考えてもハクの話の方がわかりやすいんだから仕方がない。つーか、それ以前の問題なんだ。
「トゼンさんの話は大雑把すぎなんですよ!なっちゃいねえ、そこそこだな、まあまあだった、この三つだけじゃないですか!」
「松竹梅に上中下、世間ってのは三つで仕分けるように出来てんだ!文句あんのか!」
「あるに決まってるでしょ!"そこそこ"と"まあまあ"なんて、ほぼ同じ意味合いでしょーが!」
キング兄弟もトゼンさんと同レベルだし、サンピンさんは何でも博打に例えるし、羅候でまともなのはウロコさんだけじゃねえか。報告書をまとめる苦労が偲ばれるよ。……かく言うオレも、書類仕事はリリスとシオンにブン投げしてるんだけどな。
「ケッ!オメエは言葉遊びに凝りすぎなんだ。口賢しいモン同士でお喋りでもしてやがれ。」
トゼンさんは悪態をついてから医療ポッドに入った。
──────────────────
トゼンさんとビーチャムが医療ポッドでお休みしている間に、ハクから聞いた情報を元にアギトの能力を分析する。レポートを終えた子蛇ちゃんはティッシュペーパーの寝床で体を丸め、お昼寝に入った。
微差とはいえ、脚力はオレに分があるようだ。トゼンさんを相手にマックススピードを温存出来るとは思えないからな。技の切れはトゼンさんが上だがパワーは互角、剣術のみならず、体術や格闘術も多彩。スタミナとタフさも申し分なし、か。
タイプで分類すれば引き出しの多さが売りのトータルファイターだ。やはりオレに近いスペックの持ち主だと考えるべきだろう。狼眼はあまり使ってこなかったそうだが、蛇の嗅覚で無効化されると早めに見切ったな。念真力の消耗度合いから、分が悪いと判断した可能性もある。
んで、要所でサイコキネシスを交えてきたらしいから、パワーの上乗せもあると考えないとな。さらにZCSを搭載し、新型のゾンビソルジャーを使役出来る。これがオレにはない武器だな。奴の性格からしてオレとの交戦には必ずゾンビソルジャーを連れてくる。離れた場所から射出可能ってのも、トゼンさんが暴いてくれた。
オマケにワイヤーガンの名手でもある、か。これは敗北から学んだ技術だろう。煉獄にとっ捕まった苦い経験が、どんな時でも逃亡手段を確保しておく慎重さに繋がっていて、今回はそれが役に立った。……アギトの能力と手札はかなり明らかになったが、まだ全てを見せちゃいまい。切り札を見せずにトゼンさんから逃げ切る、それぐらいはやってのける男だ。
アギトはアスラコマンドだった時にも狼眼を隠していた。狼の目を使っていれば、死なせずに済んだ部下だっていたはずなのに……
部下を見殺しにしてでも、己が切り札を温存する。やっぱり気に食わない野郎だぜ。
「カナタ、ちょっと来てくれ!北部戦線から通信が入った!」
操縦席のシュリに呼ばれたので、キャビンから副操縦席に移動する。
「悪い知らせじゃないだろうな。」
ディスプレイに表示された暗号電文を読んだシュリはニンマリと笑った。
「いや、朗報だよ。マリカ様が"魔術師"アルハンブラを捕虜にしたって!」
さすがマリカさんだぜ!オレも詳しく電文を読んでみるか!
……兵団との戦闘そのものは小競り合いのレベルだな。双方の幹部に戦死者は出ていない。兵団は地走忍軍と奥群一党を欠いているが、アスラ部隊もオレらがいない。だから司令と煉獄は、小手調べの小競り合いを何度かやっていたようだが……
「……………」
待てよ? 詳細な戦況が書かれちゃいないから断定は出来ないが……
「浮かない顔だけど、気になる事でもあるのかい?」
「……どうにも引っ掛かる。」
「何がさ?」
「とっ捕まったのがアルハンブラ・ガルシアパーラだってのがさ。斃したってんならめでたしめでたしだ。けどな、あの"魔術師"が捕虜になるものかな?」
照京攻略戦でアルハンブラの曲者振りはよくわかった。魔術師のけれん味たっぷりだがそつのない
「マリカ様がそれだけ優れているって事だよ。世界最速の足から逃げられる兵なんていないさ。」
誰にでもミスはある。小さなミスでも、相手がマリカさんなら致命的だ。楽観的に考えるべきなのだろうか?
「だといいが……」
いや、相手が相手だけに、悲観論者でいるべきだ。兵団の部隊長は功名心が強い奴ばっかりだが、魔術師だけは例外だ。異色の経歴を持つアルハンブラ・ガルシアパーラは大きな仕事をいくつもやってのけたが、それらは全て裏方としての功績。今まで黒子に徹してきた男がよりによって同盟のエースと交戦し、捕虜になったってのが気に入らん。兵団にはアルハンブラより強い部隊長なら何人もいる。だが、奴ほど捕獲難易度の高い部隊長はいない。
……マリカさんの手柄にケチをつける気なんかサラサラない。だけど、この件にはきっと裏がある。疑ってかからざるを得ねえな。
※皆様、よいお年を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます