宿敵編41話 甘~い共謀
姉さんのところへ行く前に賄い方のところへ顔を出し、料理の指示を出す。
「殿下のお料理はすぐにお持ちしますので、暫しお待ちを。」
殿下はやめてくれと言いたいが、料理長と問答してても仕方がない。通達が出てる訳でもないのに、公邸職員はオレの呼び方を"殿下"で統一していやがる。八熾からの出向職員まで"お館様"から宗旨替えしてんだから、参っちまうぜ。
「オレは後回しでいい。それよりゲストの饗応を急げ。閣下には手早く提供出来る肉料理をお出しするんだ。」
「はい。先ほど昆布坂様からローストビーフとウォッカのオーダーがありました。すぐに取りにこられるそうです。」
夫人が気に入るだけあって目端が利くな。やはり武より知に秀でるタイプだ。
「そうか。ローストビーフの後は奄毘豚のスペアリブを出せ。骨ごと食す前提で調理しろよ。それから誰かコンビニに走らせてハイパーカップの"がっつり味噌バター"を買ってこさせろ。」
「がっつり味噌バター…カップ麺ですか? 殿下の好みは…」
「オレじゃない。ザラゾフ元帥の大好物なんだ。閣下の酒のシメはだいたいそれらしい。」
気分によっては"こってり背脂醤油"の時もあるが、味噌バターがほぼ鉄板。夫人の証言だから間違いない。旗艦の艦長室に箱買いしてあったのも味噌バターだったしな。赤貧貴族から大貴族に成り上がっても、食の好みは庶民的なんだ。
「すぐに買いに走らせます。」
「頼む。ザラゾフ家との
揚げたてのチキンが盛られた皿を持って賄い方を後にする。早速カロリーを補給しようとチキンを手にした瞬間に、料理長から小言が飛んできた。
「王弟殿下ともあろうお方が歩きながらお食事とは感心しませんぞ。殿下は我が国の至宝、王族の自覚を持ってくださいませ。」
やれやれ、これだから出世なんかしたかねえんだよ。息苦しいったらないぜ。
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"龍の間"では姉さんがオレを待っていた。
「カナタさん、激闘で疲れたでしょう。さあさあ、姉さんが癒してあげますから座って座って。怪我は大丈夫ですか?」
オレはサイコキネシスで皿を卓上に移し、バク宙してから絨毯に右手を着いて華麗なローリングダンスを披露する。
「無傷じゃありませんが、足に来る程じゃない。元気なものですよ。」
実は左腕に若干支障があったりするんだけどな。まあ、オレも閣下も明日には傷が癒えるから問題ない。着座したオレの前に杯を置いた姉さんは、お酌なんかしてくれる。
「さあさ、まずは一献。」
龍姫のお酌で酒が飲めるなら、王族も悪くないかもしれんな。癒されるねえ。
「旨い。姉さんのお酌で、好物の悪代官大吟醸がより旨くなる。」
「そうでしょうとも。姉さんのお酌で飲むお酒が一番よね?」
マリカさんや三人娘がいないからと言って、うんと言っていいものだろうか……
「え、え~と……」
「い・ち・ば・ん・ですよね?」
「そ、そうですね。同率首位だと…」
「単独首位です。」
一切妥協する気がねえ!
「弟を脅迫してどうすンだい? 単独首位がいるとすりゃあ、アタイに決まってンだろ。」
姉弟揃って上を見上げると、蜘蛛の姐さんが天井に足を着けて逆さ立ちしていた。……危ねえ、もし姉さんが一番ですなんて言っていたら、オレは死んでいた……
シュタッと床に降り立ったマリカさんは胸の谷間を見せつけながら、オレにしなだれかかってくる。
「な? 本音じゃアタイが一番なンだろ?」
胸の谷間をさらに強調するマリカさん。これは"アタイの胸の谷間に注いだ酒を飲んだよねえ?"と言っているのだ。
「マリカさんを招待した覚えはありませんが? 姉弟の語らいを邪魔しないで頂けますか!」
互いの邪眼がバチバチしてますやん。また姉姐御戦争ですか。仲良くしてください、お願いだから。
「21才最後の日なんです。心穏やかに過ごさせてくださいよ。」
「アタイと二人ならハッピーなだけだろ?」 「姉さんと二人きりなら心穏やかでしょう?」
同盟軍と機構軍の戦争も長引いてるが、こっちの戦争も長引きそうだな……
──────────────────────
21才最後の夜は、親友夫妻と前夜祭だ。総督公邸を出たオレはドレイクヒルホテルのロイヤルスィートルームで夫妻と語らう。
「獅子と狼の決闘があるなら、買い物なんか後回しにするべきだったわね。」
豪華なルームサービスが置かれたテーブルを囲んで座った三人。ホタルはオレと閣下のバトルを見逃したのが残念らしかった。
「まったくだよ。録画は後で見させてもらうけど、やっぱりライブで見たかった。」
妻の買い物に付き合った旦那も残念がる。ま、オレも完全適合者同士のバトルなら見たいからな。でも夫婦でデートするのも大切なコトだせ?
「売り言葉に買い言葉、その場のノリで始まったバトルだから仕方ないさ。」
「その場のノリでザラゾフ元帥とバトるのが凄い。僕なら絶対断るよ。」
「私もよ。人間相手に戦ってる気がしないもの。」
シュリーホッターの災害閣下に対する評価は同一らしい。
「閣下が人外だってのには全面的に同意する。でもああ見えて、人間臭い一面もあるんだぜ? 実はな…」
夫人から教えてもらった閣下の面白エピソードの開陳から始まって、酒食を挟みながら宴は続く。オレと親友夫妻の間で話題が尽きるなんてコトはないのだ。
「あら、もうこんな時間ね。カナタ、私とシュリはそろそろお
「ホタル、まだ12時前だよ。せっかくだから日付が変わるまでいて、真っ先に誕生日を祝おう。」
「だからお暇するの。さ、行くわよ。じゃあカナタ、誕生祝いは日を改めてしっかりやるから。」
?マークを頭上に浮かべた夫の腕を取ってホタルはスィートルームを出てしまった。引き留めるのもなんだから黙って見てたけど、日付が変わるまでにお暇しなきゃいけない理由ってなんだったんだ?
理由を考えている間に時計の針は進み、日付が変わった。22才最初の日が始まったのだ。まあ、もう寝るだけなんだけど……
あれ? ドアフォンが鳴ったぞ。……もうルームサービスの追加分は届いてるよな。つーか、お暇するならホタルもシャンパンなんかオーダーするなよあ。オレに一人で飲めってのかよ。
……ははぁん、わかった。一端お暇しといて改めて戻る。誕生日最初の来客はシュリ夫妻でしたーってサプライズなんだ。お高いシャンパンをオーダーしたのはそれでか。
ホタルの策略は読めた。驚いてあげるのが礼儀かもしれんが、オレを驚かせるには仕掛けが甘い。
「はいはい、いらっしゃい。サプライズにゃまだ甘いと…」
……ガチでサプライズだった。オレは本当にビックリしてしまった。ドアの外にいたのは超おめかししたシオンだったのだ。
「あ、あの。……入っていいですか?」
「も、もちろん!どうしたんだよ、こんな夜更けに。」
サプライズゲストを招き入れたオレはお茶でも淹れようとしたが、後ろ手でしっかり鍵を掛けたシオンに密着されてそれどころではなくなる。
「シ、シオン!? 何かあったのか?」
好きなコに密着されると、反射的に背中に腕を回してしまう。つまり、抱き締めてしまうのだ。
「……これからあるんです。隊長…いえ、カナタさん。誕生日おめでとう。」
「ありがとう。シオンに名前で呼ばれたのは初めてだな。」
これこそ記念日を彩るビッグサプライズ、本当に嬉しいよ。
「私からプレゼントがあるのですが、受け取ってもらえますか?」
「もちろん。何を貰えるのかわからないけど、楽しみ過ぎる。」
「プレゼントはもう手にしてます。……ダメですか?」
オレが今、手にしているのはシオンさん自身なんですが……まさか、それって……
「え、え~っと……その……オレなんかでいいの?」
もし解釈が間違ってたら死ぬほど恥ずかしいが、そういう意味以外に取れない。
「あなたじゃないとイヤなんです!鈍感で優柔不断で気が多い人だけど、天掛カナタが好き!愛しているんです!」
シオン・イグナチェフに愛を囁かれて抵抗出来る男なんていない。オレは潤んだ瞳を閉じて顔を寄せてきたシオンにキスしてしまっていた。バードキスからディープキス、濃密な時間はあっという間に過ぎ、唇を離したオレ達は見つめあう。
「オレはシオンを愛してる。だけど…」
好きなコ全員嫁計画を諦めてない以上、ちゃんと説明しないとアンフェアだ。
「言わなくてもわかってます。私は一番近くにいる副長ですから。」
「本当に優柔不断ですまない。」
ダメ男に慈母の笑顔で応じたシオンは、耳元に唇を寄せて囁いてくる。
「先の事はゆっくり考えましょう。天掛と八熾、二つの家を綺麗に分割する為にも、気の多さは都合がいいはずです。……でも、私だけを愛して欲しい気持ちだってある事をわかってくださいね?」
計画は一歩前進、かな?
「ああ、わかってる。改めて、公私に渡って支えてくれてるお礼を言わせてくれ。……ありがとう、キミがいてくれるからこそのオレだ。」
「どういたしまして。じゃあ私からも一言……もう、ホントにどうしようもない優柔不断なんだから!そのうち罰が当たりますよ。果報者が女の火砲を喰らう日がきっと来ます。」
嫁小隊から集中砲火を喰らう日か。そんな包囲網なら望むところだな。
「……返す言葉もない。」
「ふふっ、パーパが生きていたら袋叩きにされてますね。……でも、きっと私の選んだ人を認めてくれるはずだわ。言っておきますけど、私からは逃げられません。得意の固め技であなたの心はがっちりホールドしましたから。」
「はい。がっちりホールドされてます。もう逃げられませんし、逃げません。」
「
石鹸の香りがするシオンはベッドルームに目を向けた。酒宴の最中にホタルが"汗を流した方がいいわ"って勧めてきた理由がわかった。女二人は共謀していたんだ。
親友の嫁に感謝したオレは、愛する女性を抱き上げてベッドルームへ運ぶ。
「……あの、重くないですか?」
「閣下と殴り合うのは見てただろ? あの人外とパワーでも張り合えるオレにしてみりゃ、木の葉とさして変わりない。」
「隊長の大好きな胸の大きさはありますよ。マリカ隊長よりも大きいですからね?」
そりゃ初耳だ。ベッドルームで腕から降りたシオンは部屋の明かりを落とし、ゆっくりとナイトドレスを脱ぎ捨てて下着姿になってくれた。
「着痩せするタイプなのは知ってたけど、マジでご立派ですね。」
特にお胸が。いや、キュッと引き締まったお尻も負けず劣らず立派だなぁ。
「ナイトビジョンを使って光量を上げましたね? えっち!」
女の子は恥ずかしがるけど、男はしっかり見たいものなの!特にシオンみたいな美人さんならね!戦術アプリよ、ありがとう、だ。
「これからするコトはもっとえっちな訳なのですが……」
「そうですけど。……胸を見たいんですよね。じゃあ……見せてあげます。」
ブラのホックを外したシオン、ガーデンベスト5に入ると噂される巨乳が露わになる。美の女神が降臨したぞ。とりあえず拝もう。
乳神教は一神教から多神教に変更だな。巨乳と乳輪のバランスといい、乳首の形状といい完璧。釣鐘型なのに下垂してないタイプなのもオレ好みだ。……これは神、神乳としか言い様がないぞ。
「さ、触っていいかな?」
「はい。……や、優しくしてくださいね。私、男の人とこんな事するの、初めてなんです。」
お許しが出たので遠慮なく触る。触りながらベッドの上に寝かせて、ねっとり……もとい、ゆっくりと夢のような時間を楽しむんだ。
腕の中で綺麗な顔を上気させて喘ぐシオンを見てると、劣情に任せて無茶苦茶にしたくなる。だけど我慢だ、我慢。シオンは初めてなんだから、可能な限り優しくしないと。
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