宿敵編20話 ナチチ党VS革新党



08区画1番格納庫は、我らおっぱい革新党の聖地だ。この地で産声を上げたおっぱい革新党は順調に党勢を拡大し、今では2個大隊を超える党員を有している。陸上戦艦を収容可能な広い格納庫に集いし同志達は、己がおっぱい愛を語り合いながら、秘蔵のコレクションを披露し合う。


「幹事長、この盛況ぶりを見ろ。俺と同志の2人しかいなかったおっぱい革新党が、今や200を超える党員を擁するまでに成長したぞ。」


イカ頭巾を被っているから目元しか見えないが、同志アクセルはさぞかし満足げな笑顔を浮かべているコトだろう。


「ええ。成長期を迎えたおっぱいの如く、見事に発育しましたねえ。」


「我々の理想に共鳴する者はまだまだいる。今夜はロックタウンからゲストを招いているからな。」


「ロックタウンから? 誰です?」


「保安官助手のジェフだ。なんでもおっぱい革新党・ロックタウン支部を設立したいと言ってな。今夜は視察を兼ねて参加している。」


ジェフリー・ハウはウェズリー・ハウ筆頭保安官の息子で、優れたガンマンだ。父親と一緒に銃術を習いにガーデンに通ううちに、我が党の存在を知ったのだろう。


「良いコトです。革新党はガーデンに留まらず、世界へと飛躍せねばなりません。」


「うむ。ロックタウン進出はその第一歩だ。おっ、そろそろ党員投票が始まるようだな。」


活動の一環として重要乳化遺産の選定があるのだが、遺産の当落は党員による投票で決まる。


おっぱいに貴賎はない、というのが我々革新党の党是ではあるのだが、殿堂と作品ランキングは存在する。コレクションのトレードも大事な党活動なので、大まかな目安となる指標がなければ支障をきたすからだ。もちろん、個々の価値観は自由なので、自分の中での殿堂入りは好きにすれば良いし、尊重もされている。


「セクシーコック二人の写真が審議の対象ですね。写真家としての腕前から考えて、同志ギャバンの撮ったのが最有力候補でしょう。」


オレの中ではゴスロリコックもポイントが高いんだが、我が党には"16歳以下の女の子に関する物品のコレクション化禁止"という党則がある。乳輪がもろ見えならば、18歳以下だ。なのでゴスロリコックの写真は、オレの部屋にある思い出写真集コルクボードにピン止めされるだけだな。リリスさんは今11歳だから、5年後に期待しよう。


完璧な造形を誇る小悪魔少女は将来、殿堂入り作品を連発するであろう逸材モデルとして、党員達に期待されているのだ。


「幹事長、やはりおっぱいはいいものだな。」


「まったくですね。」


格納庫の中央には四方をワイヤーで固定された白いビニールシートが張られ、プロジェクターの映像が投影されている。次々と入れ替わるセクシーコックの写真、素材の美しさを十二分に捉えた1枚が映し出されると、党員達から"おおっ!!"っと感嘆の声が上がった。


「フフッ、やはり僕の作品を超える逸品は出て来ないようだね。」


同志ギャバンは勝ち誇ったが、とんだ伏兵が現れた。なんと司令のブラチラを捉えた写真がスクリーンに映ったのだ。しかも写真そのものの出来も、同志ギャバンに勝るとも劣らない。


「純白のセクシーコックコートから僅かに覗く黒のブラ。コントラストとしても完璧だろ?」


この作品を撮ったのは同志出歯亀…もとい、同志田鼈か。田鼈ゲンゴは忍者の嗜みとして撮影の腕も磨いていたらしい。


「くっ!ぼ、僕とした事が……司令はてっきりノーブラだと思い込んでいた……」


党員投票の結果、際どいアングルから撮られた司令の写真は"奇跡のブラチラ"、躍動するマリカさんの揺れるおっぱいを捉えた写真は"至高の揺れ乳"という名が冠され、見事に殿堂入りを果たした。"奇跡のブラチラ"を撮ったのは同志ゲンゴ、"至高の揺れ乳"を撮ったのは同志ギャバンだ。


「二冠達成はならずか。……しかし、僕はかけがえのない好敵手を得たよ。」


「俺達の戦いは始まったばかりだな。」


一勝一敗で引き分けた二人のイカ頭巾は握手を交わして健闘を称え合った。


「前回の殿堂入りは"真夏の女神"で、今回は"奇跡のブラチラ"に"至高の揺れ乳"かい!並乳や巨乳ばっかり贔屓すんのはズッコいで!ウチらが世の不条理を正したるわ!」


格納庫の上部通路に立つ御高祖おこそ頭巾の侵入者は、神難弁でまくしたてた。見張りは何をやって……殿堂入り作品に見蕩れている隙を突かれて気絶させられたのか。


見張り役は責められない、かく言うオレもずっぽり見蕩れていたんだから。


「おっぱい革新党の諸君、お初にお目にかかるのであります!我々は無い乳最高党、持たざる者を代表して立ち上がった勇士達!」


気絶したイカ頭巾を赤い念真髪で縛りながら、(デカいおっぱいを)持たざる者が叫ぶ。音もなく忍び寄って見張りを気絶させたのは党首サクヤでも幹事長ビーチャムでもなく、特攻党員ナツメのはずだ。どこにいる?


「ギャバちん、ったの!」


「げぼぁ!…ふ、不覚……」


気配感知の苦手な同志ギャバンを悶絶させた見えないステルスナチチ党員は、幹事長からパスされた衣装を瞬時に纏って姿を現した。顔を御高祖頭巾で隠し、胸はマイクロビキニ、腰にパレオを巻いた姿がナチチ党員のユニフォームらしいな。絶妙にイヤらしくて結構結構、って感心してる場合じゃねえ!


むっ!……屋根の上から複数の足音!


「みんな気をつけろ!天窓から来るぞ!」


叫んだ直後にパリンパリンと天窓が叩き割られ、パレオをなびかせながら刺客達が舞い降りて来る。貧乳かつ腕の立つ女兵士は根こそぎナチチ党に入ったか!


「巨乳好きは死すべし!たあっ!」


着地と同時に演習用のブーメランを投げ付ける党員リムセ。名うての狩人の手によって同志ギデオンが倒され、主の隣でおねんねする。ヤバい、風を巻いて上部通路から飛び降りたナチチの党首が、我が党の党首に襲い掛かったぞ!


「とっ!わっ!おおうっ!ま、待てサクヤ!話し合おう!」


同志アクセルも喧嘩は強いが、サクヤの相手は荷が重いわな。


「サクヤちゃうわ!ナチチ党・党首や!往生しさらせ、災いの元凶!」


党首の危機を救わねえとな!天井からぶら下がってるフックに砂鉄の紐を引っ掛けて、ターザンジャンプでひとっ飛びだ。割って入ったオレに訓練刀の切っ先を突き付けながら、ナチチ党のリーダーは貧しい胸を張ってみせる。


「邪魔すんな!諸悪の根源!」


災いの元凶に諸悪の根源ねえ。見たところ、ナチチ党員は30名ちょいだな。200を超える我が党に刃向かうとは愚かな。


「貧乳は大いに結構だが、脳味噌が貧しいのは感心しないな。」


アホのコがリーダーじゃ大した戦略なぞ……テレパス通信だと?


(甘いのであります!自分が隊長殿から学んだのは戦技だけではないのであります!)


アホのコを補佐する策士がいたな。幹事長ビーチャムはオレに似たタイプの兵士だ。オレならこういう時は…


「革新党貧乳派の皆様、我々ナチチ党は貧乳好きの味方であります!少数派の悲哀を味わうのに、もう飽き飽きしていませんか? 世の為、貧乳の為、我々と共闘しましょう!」


やっぱ心理戦を仕掛けてくるか。マズいぞ、巨乳派に比べりゃ数の少ない貧乳派が動揺している。


「しゃらくせえ!男は黙って巨乳好き、だろうが!」


同志バクラ、そんなコト言ったら貧乳派の反発を招きますって!槍を振るって3人のナチチ党員を跳ね飛ばした同志バクラだったが、追撃に移行しようとした瞬間に危険を察知して飛び退すさる。


「新手か、小賢しい!」


天井を見上げた同志に水擊弾ウォーターブリッツが撃ち込まれ、山杖を手にした虚無僧が飛び降りて来る。水擊弾ってコトは……まさか。


「ダミアン、なにやってんだよ!」


離れていようがツッコまざるを得ない。編み笠で顔を隠しちゃいるが、間違いなくダミアン・ザザだ。おまえさんは普段、この手の遊びにゃ"我関せず"だろうに!


「……好きでやってる訳じゃない。ナツメに頼まれて、やむなくだ。」


ナツメはダミアンの死別した恋人、三条ヒナタの従姉妹で容姿も雰囲気も似ている。部下以外には関わり合いを持たない孤高の色男の、唯一の弱点なのだ。


ダミアンだったら遠慮は要らないとばかりに、同志カーチスが義手に仕込んだ制圧棒で殴りかかる。


「だったらおまえもマイクロビキニにパレオを着てこい!女装が似合いそうなツラしてんだからよ!」


「……それは断固拒否する。いくらナツメの頼みでも※女形おやまは御免だ。」


提案はしたのか。しかしダミアンも元カノが(ナツメ似の)貧乳だったからって、ナチチに肩入れしなくてもいいものを。


「とりあえずキザ男をやっちまうぞ!」 「おう!日頃の恨みを晴らすいい機会だ!」


色男と三馬鹿はあまり仲が良くない。女の子には愛想がいい御三方は、女に言い寄られてもツレない態度、トッドさんに言わせれば"スカした態度"のダミアンとは、ソリが合わないのだ。


おっと!よそ見は程々にして、目の前の敵に集中しないと。サクヤ&ビーチャムは、軽くあしらえる相手じゃない。刀と風刃、剣&念真髪の4方向同時攻撃とは厄介だねえ。


「ウチの速剣そっけんが全然当たらん!ホンマに始末に悪い男に成長しくさって!」 「党首!勝とうと思わず、足留めに徹するのであります!」


党首をメインアタッカーに仕立てて自分は援護、さらには動こうとする先に念真髪のワイヤートラップか。ビーチャムめ、やるな。これじゃあ燕よりも速いサクヤを仕留めなけりゃ、他の援護にいけない。女の子を相手に本気で暴れるの躊躇している同志達の動きは精彩を欠き、苦戦を強いられてるってのに。


四つの武器の連携攻撃への対応に慣れてきたところで、もう1回周囲をチラ見してっと。イカ頭巾二人バクラ&カーチス虚無僧ダミアンを壁際に追い詰めたようだが……錬気する呼吸音が壁外から聞こえる!


「イカーチス、イカクラ!壁際から離れろ!」


手練れの二人は即座に反応し、壁際から距離を取ったが、格納庫の壁をブチ抜いた念真重力破がイカーチスの左腕を捉えた。


「やはりおまえは回避力に問題があるな。」


壁に空いた大穴から、ノソリと侵入して来る大柄の虚無僧。ダミアンの盟友、"豪拳"イッカクの登場か。


「今のは実戦レベルの重力破だったじゃねえか。……本気ガチでやろうってんだな?」 


バチバチと火花を上げる左腕を眺めて苦笑したサイボーグは、素手の虚無僧に対して右手の制圧棒を構えた。


「槍使い、おまえの相手は俺だ。」


乱入者を挟み撃ちにしようとした同志バクラだったが、山杖を構えた細身の虚無僧が巨漢虚無僧の隣に立ち、槍の達人を牽制する。


「面白くなってきやがったなぁ。おい、同志イカーチス、抜かるなよ?」 「へっ、おめえこそな。」


面白がるイカ頭巾コンビに対し、虚無僧(デカい方)は不本意そうにボヤく。


「ダミ…編み笠助っ人1号、俺達までこんな馬鹿げた遊びに付き合う必要があるのか?」


「……俺も後悔し始めたところだ。イッカ…編み笠助っ人2号、帰りにスネークアイズで一杯奢るから機嫌を直せ。」


嘆息した虚無僧二人は、それぞれの敵手に相対する。


豪拳VS鉄腕、白雨VS獅子髪のマッチアップが完成したか。


「どないやエッチ君、おもろなってきたやろ?」 「これが我々、ナチチ党の実力であります!」


ナチチの特別攻撃党員ナツメは、同志ダニーと同志ゲンゴの二人を相手に互角に戦っている。一般ナチチ党員はマイクロビキニずらし(ニップレスシール着用)や、パレオめくり(アンダーは普通の水着だからパンチラにはなってない)まで駆使して、おっぱい好きどもを翻弄中か……



こりゃ局面を打開出来るのはオレだけだな。ここまでお膳立てされたんだ。ご要望に応えてガチってみますかね。


※女形とは

男の役者が演じる女役の事。おやま、と呼びます。日本では江戸時代初期に女歌舞伎が禁じられた為に誕生しました。惑星テラでも似たようなな歴史があるみたいです。


※作者より

本作も100万字を突破しました!これも読者様の応援のお陰です。ちなみに今回のエピソードは、普段の倍ほど執筆時間を要しました。我ながら力の入れ所がおかしい(笑)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る