侵攻編31話 新兵器のお披露目会



案の定、帝国軍は抗戦から逆襲に転じてきた。屍人兵で陽動を仕掛け、生じた隙を全力で突こうという腹だ。現有の前線戦力で攻勢を支え、屍人兵の処理を終えるまで戦線を維持する。それが今のオレに課せられた役割だ。状況は把握し、各隊に指示は出した。次の一手は、己を刃にして攻勢を跳ね返す、だな。


指揮中隊である白狼衆と、近隣ブロックから集合させた義勇兵を率いて、迫る敵軍を迎撃に向かう。


「ゆけっ!賊軍は混乱している!この機に乗じて奴らを叩くのだっ!」


指揮官の号令の下、街路を進む帝国兵。その数……3個大隊ってところか。オレの率いてきた兵の約3倍だな。この程度の兵力差など、マンパワーで押し切れる。それがアスラの部隊長だ。


「白地に金ラインの陣羽織!賊軍首魁の名代、剣狼を見つけたぞ!奴を討ち取れば昇進は思いのままだ!」


はしゃぎなさんな。目立つように白い軍服を着てやってんだからよ。


「アルマ、オレの現在位置はわかるな?」


ソードフィッシュの頭脳はすぐに答えた。


「もちろんです、団長。」


「武装パックA、B、Cを射出しろ。お仕置きの時間だ。」


「ベーネ。武装パックAからC、射出します。」


群がる敵兵を狼眼で始末し、遮蔽に身を隠した第2陣が鉛弾の無駄使いを始めた時に、飛来した武装コンテナがアスファルトに突き刺さった。まずは武装パックAからだな。コンテナAを盾に銃弾の雨を凌いだオレは、特大のガトリングガンを取り出した。これが天掛カナタ専用マグナムガトリングガン、"※輪入道"だ。


「車の影に隠れようが無駄だ!くたばりやがれ!」


回るバレルの輪から放たれたマグナム弾は、遮蔽ごと敵兵を粉砕してゆく。66口径の弾丸を高速連射するだけあって、かなりの反動があるな。これでは精密な射撃は不可能だが、マシンガン系の銃は一発必中である必要はない。点ではなく、面に集弾するのがこの系統の武器だ。


凄まじい轟音を上げながら回り続ける輪入道、妖怪から名を取っただけあって、その破壊力はまさに化け物だ。


ガンベルトの弾を撃ち切った頃には、無惨な死体の山がそこらに散乱していた。これなら狼眼で殺された方がマシだっただろう、原型を留めない肉塊にされるぐらいならば。


「弾切れを起こしたぞ!総員、視線を合わせずに突撃!」


視線を下げた敵兵が殺到してきたが、命令を下した本人は向かってこない。一足飛びで移動し、コンテナBから取り出した二本の斬馬刀を構えたオレは、高く跳躍して敵兵達のど真ん中に降り立つ。


「貴様ら如きに光輪天舞を使うまでもない。このナマクラでもお釣りがくるぐらいだ。」


重量30キロの大斬馬刀"うまごろし♡"、刃の鋭さは光輪天舞と比較にもならないが、雑魚には雑魚向きの武器がある。リーチが長く、鋭さではなく重さで叩き斬る戦法に適しているからだ。この超重武器は、大した技術も身体能力も持たない雑魚を効率的に屠る為に製作された。特に敵陣の真っ只中で当たるを幸いに振り回すのにピッタリだ。


「へぐっ!」 「ぶえっ!」 「ひぎゃあ!」


特大の凶器を受けようとしたサーベルを爪楊枝のように粉砕し、一振りで三人の敵兵を始末した。もう片方の手でさらに三人、こういう力任せの戦闘は、普通の刀じゃ難しい。


一振り三殺といった塩梅で、オレは敵兵の数をみるみる減らしていった。敵兵にすりゃ悪夢かもな。リーチは長いし受けも効かない、回避しようにもオレの筋力ならこの超重刀でもそこらの兵士の斬擊よりも遥かに速い。オマケに潰した肉片が刃に張り付こうとも気にする必要もない。元から切れ味で勝負する気のない武器だからだ。


「や、奴を中軽量級と思うな!重量級だと思って対処するんだ!装甲兵、前へ!」


またしても前には出ずに、大盾を構えた装甲兵を投入か。このコマンダー、打つ手が一手遅いぜ。まあ、打った手そのものが悪手なんだがな。この"うまごろし♡"の本領はこれからなんだぜ!


「俺がなんとか初太刀を止めてみせる!カタチはどうあれ、止めてしまえばあんな超重武器は小回りが利かん。その隙を突くんだ!」


肉塊と化した仲間を見ても怯まず向かってくるだけあって、少しは考えてるな。だが、この刀は業物ではなく科学兵器だ。大盾を構えた重量級を相手に戦うコトも想定されている。


「勝負だ、剣狼!」


受けてみせると豪語した兵士が一番の手練れだろう。その大層な角付きヘルメットが、伊達じゃないコトを祈ってやるぜ。……大盾を構えてのシールドチャージ、角付き兵士はヴァンガード式の使い手のようだ。


「リアカバー除装!サイドブースターオン!」


音声認識で峰に取り付けられた装甲板が火薬で吹き飛び、小さなバーニアの縦列が姿を見せた。筋力+磁力操作能力+爆縮+バーニアによる超加速、凌げるもんなら凌いでみな!


「うおおぉぉぉ!我が名は…」


名乗りを終える前に、うまごろし♡は、構えた大盾を二つにへし曲げ、曲がった盾ごと角付き兵士の巨体を弾き飛ばしていた。指でカウント出来るぐらい滞空していた角付きさんは、通りに並んだ看板を二つ粉砕して地面に落ちる。首が変な方向に曲がってるから、たぶん死んだだろう。もちろん、決死の突撃にお付き合いしてきた角付き兵士の部下は、返す刀で斬り捨て……殴り捨てている。


「スケアクロウズの4番・天掛カナタ選手、特大のホームラン!これが試合を決める一発となるでしょう。今のバッティングをどう思われますか、解説の敵コマンダーさん?」


うまごろし♡も、十分実用に耐える性能だな。唯一の欠点はナツメにネーミングを任せたコトか。……面倒でも新兵器は自分で命名しよう。キラキラしたお目々で"いい名前でしょっ!"って微笑む天使に異論を挟めなかったオレが悪いっちゃ悪いんだが……


ナツメが油性マジックで刀身に書いた可愛いサインは、もう血で染まって見えなくなっている。


「わ、我が隊のエース、"猛牛"リンツが……一撃だと!そ、そんなバカな!」


ああ、あれが異名兵士"猛牛"だったのか。盾で視線を遮りながら突進してきたから、顔がよくわからなかったぜ。


「せっかくボケてやってんだから、ツッコめよ。ギャグにツッコめんのも、生きてる間だけだぞ? 次に死後の世界までかっ飛ばされんのは、おまえなんだからな。」


「ひ、引け引けっ!転進して友軍と合流するっ!」


「させるか阿呆ゥ!総員突撃!」


単騎で暴れて戦意をへし折り、腰砕けになった敵に総掛かり。これなら部隊に戦死者は出ない。力に差がないと出来ない戦法だが、今回は問題なしだ。トゼンさんはいつもこれをやってるが、あの人の場合は、ただ暴れたいだけなんだろうなぁ……


勇戦する味方を見守りながら、うまごろし♡を地面に突き刺したオレは、武装コンテナCから長槍を取り出し、いの一番に逃げるコマンダーの背中目がけて投擲する。斬馬刀と同じバーニアが搭載された長槍"鬼蜻蜓おにやんま"は、脳波誘導装置にも対応している。投げると同時に四枚の可変翼が飛び出て加速し、命中と同時に翼を捨てる仕様なのだ。綺麗なカーブを描きながら獲物を追尾した長槍はコマンダーの体を貫通し、地面に血塗れた穂先を突き立てた。


フフ、さしずめ巨大トンボに仕留められた蚊トンボってところかね。


「4番にしてクローザーの天掛カナタ、ナイスピッチング。豪速球で見事に試合を締めくくりました。……な? 死体になる前にツッコんどきゃ良かっただろ?」


「しかしながら、試合は延長戦に突入です。……野球なんてマイナースポーツに例えられると、ジョークに切れが出ないものだな。剣狼、私が博識な男で良かっただろう?」


さほど階数はない雑居ビルの屋上から響く声。てっきりおまえは逃げ出したと思っていたぞ。……野球がマイナースポーツねえ。まあ元の世界でも一部の地域で盛んなだけで、メジャーとは言えないスポーツだったけどな。アメフトの次ぐらいには野球好きなオレとしては、この世界ではプロ競技が廃止されちまってるのは寂しい限りだ。


「レーム、そんな所から演説してもよく聞こえん。能書きを聞いてやるから降りてこい。」


「いやいや、特等席からスケアクロウズVSゾンビソルジャーズの一戦を見物させてもらうよ。」


案山子軍団の隊員は20人だけで、残りは義勇兵だ。おまえらがゾンビソルジャーなんぞ使いやがるから、軍団幹部が手分けして対処にあたってるんだよ。とりあえず兵士に指示を出しておこう。


「逃げる敵には構うな。新手がくるぞ。」


左右の通りからゾンビどもが群れてきたか。帝国兵が後ろに控えているようだが、ゾンビが反応していない。つまりは、制御可能なゾンビってコトだ。案山子軍団なら屍人兵と戦いながら、指示役の兵士を始末出来るが、義勇兵にそれを望むのは酷だろう。


「レーム、試合終了まで逃げるなよ? 観戦料は、おまえの命で払ってもらう。」


「せいぜい頑張れ。私は文字通り、高みの見物をさせてもらうよ。」


レームが手を上げて合図すると、前傾姿勢の屍人兵どもが、オレに向かって殺到してくる。フフッ、好都合だぜ。朧月セツナが帝国に情報提供してやるお人好しとは思えない。オレが屍人兵と戦った経験があるコトを、レームは知らないはずだ。聖闘士に同じ技が通用しないように、オレにも同じ手は通用しない。



無論、屍人兵をけしかけて仕舞いなんて芸のなさではないだろうが、こっちにも切り札はある。※かちかちで言えば、五六のインケツなしで鉄カブトが二枚揃ってる状態、つまりは見下ろしだ。レーム、いい気になってられるのは今だけだぞ?



※輪入道

日本の妖怪。炎に包まれた牛車の車輪の中央に、人間の顔がついている。バレルリングを車輪に見立てて命名されました。


※かちかち

株札を用いる賭博。十の札二枚が最強の手役であり、絵柄が鉄カブトの男性である為、じゅんじゅん(十十の意)と呼ぶ地方もある。五六のインケツとは、目は一で最弱だが、最強の役であるじゅんじゅんを殺せる特殊役で、祝儀も横取り出来る。五六のインケツのないルールだと、じゅんじゅんは絶対に殺されない為(十の札は最大でも3枚までしか使わない)、必勝の役となる。賭博用語で"見下ろし"とは、手役が相手に優っている事が確定している場合を指す。


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