侵攻編29話 "殺人機関車"ラッセルVS"赤毛の"ビーチャム
いよいよ総攻撃か。仕掛ける前に煌龍にいる姉さんに通信を入れておこう。
「ノゾミ、親征軍旗艦に通信を入れろ。」
「イエッサー!煌龍との回線、繋がりました!」
メインスクリーンに映った帝は、意気軒昂という風ではなかった。これから死んでゆく者達のコトを考えて、憂いを帯びた顔をしている。
「姉さん、10分後に総攻撃を仕掛けます。その攻撃命令は、総大将である帝が下さねばなりません。」
「はい。覚悟は出来ています。カナタさん、我が軍の総数は10万5千、進駐師団の総数は12万、数的には不利ですが、勝てますか?」
問題ない、数的劣勢には慣れっこだ。つーか、今まで数的優位で戦った例が、照京攻略戦の一度きりしかない。
「勝てます。兵士の質で劣る上に、実体兵数が6万の軍に負けるはずもない。」
「6万……ですか?」
戦いにおいて大事なのは総兵数ではなく、実体兵数だ。関ヶ原の西軍みたいに、あっちこっちで日和見を決め込まれたんじゃあ意味はない。
「総数12万と称しようが、本気で戦う兵士の数は半分にも満たない。覇人兵のほとんどは、分が悪いと見るや投降するか逃亡するかです。アードラーの統率力の低さを考えれば、攻撃と同時に寝返る者すら出るでしょう」
寝返る理由は緒戦でアードラー自身が作ったしな。兵を使い捨てにする司令官なら、コッチが使い捨てにしてもいいだろって考えるのが人間だ。お互い様というには、あまりにお寒い話ではあるが……
「なるほど。」
むしろアシュレイ率いる救援師団の方が厄介だ。剣神に恨みはないが、挑んでくるなら迎え打つのみ。ギャバン少尉にとっては望むところだろう。
「煌龍は直衛師団と共に市外にて待機を。トウリュウ、姉さんを頼んだぞ。」
姉さんと共に煌龍に搭乗している照京軍総司令、鯉沼登竜准将は敬礼した。
「ハッ!直衛師団は私にお任せくだされ。龍弟侯に太陽神の加護があらん事を!」
「神仏は敬うもので、頼ってはならぬ。神ではなく、人の力でこの島の争乱を終わらせるぞ。」
「御意。」
通信を終えたオレは、左右に立っているシオンとシズルに目配せしてから時を待つ。10万単位の軍勢の指揮を執るのは初めてだが、やれるはずだ。
─────────────────────
「弟よ、龍の御紋を背負うのです。」
時は満ち、煌龍から全軍に向けた通信が開始された。オレは指揮シートから立ち上がって軍服のモードを切り替え、日輪を背負う龍の紋章を背中に浮かべて、全軍に誇示する。
「親征軍の将兵達よ、これより八熾彼方が私の名代として総攻撃の指揮を執ります。……全軍、攻撃開始!」
「スパイダークラブ前進!まずは生き返った砲台を叩け!頑張った方だが、10%も修復出来ていない!」
ケリーからもたらされた情報は、スパイダークラブにインプットされている。帝国工作部隊の努力の結晶は、20分で粉砕してやるぜ!……おっと、街門が開いたな。
肉食獣の笑みを浮かべた錦城大佐の姿がメインスクリーンにカットインされる。
「カナタ君、敵軍のお出ましだ。今度は相打ち狙いではなく、本気の迎撃だぞ。」
「本気になった
帝国軍の形成した魚鱗の陣を、鶴翼の陣で迎え打つ親征軍。アスラコマンドとガチ喧嘩しようたぁ、いい度胸じゃねえか!
「ふん、それなりにデキる部隊を出してきたようだな。ソードフィッシュ、前進せよ!リリスは艦に残って全体の状況を報告!残りは運動させてもらうぞ!」
最前線に踊り出たソードフィッシュから、案山子軍団を率いて出撃する。敵の陸戦部隊は、大剣を船首像に持つ戦艦を取り囲むべく左右に展開する。軍団の先頭に立ったオレは、まず挨拶代わりの狼眼を喰らわし、帝国兵を怯ませた。
噴血しながら斃れた仲間の死体を乗り越えて、帝の名代を仕留めようと前進してきた後続部隊は、さらなる狼眼の前にバタバタと斃れ、足が止まる。戦慄と恐怖で竦んだ敵に、リック隊が斬り込む。
「このアホンダラどもが!兄貴に喧嘩を売るのは10万光年はええんだよ!」
リックの場合、本気で光年は時間の単位だと思ってそうだよなぁ。叫びながらフルスイングしたポールアームの先端には、三人の敵兵がくっついている。うんうん、パワーは不屈の親父と勝負出来るレベルにまで成長したな。
「賊軍首魁、剣狼カナタ!このワシと勝負せい!」
デカい肩当てで繰り出すショルダータックルで、友軍兵士を弾き飛ばしながら突き進んできた巨漢の前に、"赤毛の"ビーチャムが立ちはだかる。
「貴様ごときが隊長殿と戦うなんて、銀河年ほど早い。自分が相手だ。」
銀河年て。地球とおんなじなら2億年以上だぞ。
「失せろ小娘!ワシが仕留めたいのは剣狼だ!」
肩当てと同じくデカい戦槌を横薙ぎした巨漢だったが、ビーチャムは戦槌の頭を蹴って跳躍し、噛んでいたガムをその顔面に吐き付ける。額のど真ん中に張り付いたガムを袖で拭き取った巨漢は、真っ赤な顔で赤毛の兵士を睨み付けた。伸ばした髪先でチョイチョイと手招き、いや、髪招きしたビーチャムは、せせら笑った。
「ガムで良かったな。吹き矢だったら一大事だ。大口叩く前に回避の技術を磨け、ウスノロ。」
「このガキがぁ!そんなに死にたいなら貴様から殺してやる!」
姉さんから下賜された鉄斎刀、"
「死ぬのはおまえだ。自分は案山子軍団・第5中隊隊長、"赤毛の"キンバリー・ビーチャム。……名乗れ、おまえの墓に刻む名が必要だ。」
正当防衛ねえ。ビーチャムが使ったら過剰防衛になりそうだが。五代目鉄斎が当代一の刀匠なのは間違いないんだが、なんでこんなにネーミングセンスが残念なんだ……
「ワシは帝国にその人ありと謳われる、"殺人機関車"ラッセル・ネヒテンマッハよ!小娘、我が戦槌のサビになれぃ!」
縦振りした戦槌が地面を穿ち、半歩下がって避けたビーチャムは念真髪で反撃する。皮膚装甲を刻む髪をものともせず、矢継ぎ早に繰り出された戦槌はことごとく空を切り、ビーチャムの刀と念真髪が、小さく細かく人間列車に浅手を与え続ける。
「このっ!チョコマカと猪口才な!」
「どんなに威力があっても、当たらなければ意味がない。おまえはもう少し、頭に栄養を回すべきだったな。」
並の兵士なら戦槌の威力にビビるところだが、ビーチャムは全く気後れしない。次元流剣士として、平常心を持って戦いに臨むコトの大切さを、誰よりも教えられてきたからだ。……オレが手を出す必要はなさそうだな。
「かすり傷をいくら付けようが、このワシは倒せんわ!」
ンなコトはビーチャムだってわかってんよ。さっき忠告されただろ、頭にも栄養を回せって。おまえを苛立たせるのが狙いなんだ。ただでさえ大振りなおまえが、さらに大振りになるのを誘ってるのさ。
当たれば勝ちだと考えているラッセルは、一発狙いで戦槌を振り回す。十分な隙を見出したビーチャムは、狙いすました突きでラッセルの片目を浅く抉り、返しの一撃が来るよりも早く、バク転して距離を取った。
「……目を狙っておったのか。」
目潰しが有効なのは新兵でも知っている。だが、実現するのは至難だ。眼球は(当たり前だが)一番視界が良く、一番警戒される小さい部位だからだ。砂かけ婆みたいに面として攻撃するならまだしも、突きで狙うには達人級の技量を要する。ビーチャムはその域に到達したようだな。
「次に見るのが人生最後の光景になる。片目になった時の訓練などしちゃいまい?」
計算通りに遠近感は奪った。とはいえ、手負いの強者ほど怖いものはない。ソバカス跡の残る小娘と侮っていたラッセルも、片目を潰されれば認識を改めただろう。
「これがスケアクロウの中隊長か。小娘と思って甘く見たわ。」
止血パッチを潰れた目に張って眼帯の代わりにしたラッセルは、戦槌を捨てて腰のスローイングハンマーを両手に構えた。不本意ではあっても、スイングの早さを上げなくては当たらないと判断したのだろう。
二本のハンマーを交互に繰り出しながら、相打ち狙いの攻撃を仕掛けるラッセル。……あの動き、突きを誘っているな? 奴の狙いは……
「残った目を狙ってくると思っていたぞ!二度も同じ手が通じるか!」
ビーチャムの突きを腕で止めたラッセルは、筋肉を凝縮させて引き抜きを阻止する。得物を封じられたかに見えた赤毛の剣士は、突き立った刀の峰に蹴りを入れてバク宙し、必殺の一撃を躱した。峰を蹴ったコトによってラッセルの右腕は切り裂かれ、残った左腕で地面に落ちた刀を拾おうとするよりも早く、愛刀はビーチャムの手に戻っていた。刀の束頭には、念真髪が結びつけてあったのだ。
「腕を捨てて刀を奪おうとするに違いないと思っていた。利き腕は半ば千切れ、片目は見えない。……まだやるか?」
ラッセルは首を振り、部下にも投降を命じた。
「……やめておく。皆、武器を捨てろ。中隊長ですらこれだ。部隊長の剣狼は間違いなく、この娘以上の使い手だぞ。」
名うての異名兵士を下したビーチャムはこちらを向いて、ニッコリ笑って敬礼してみせた。
「ちぇっ!いいところを取られちまったな。おいビーチャム、次の手練れは俺が相手するかんな!」
190cmを優に超える巨漢のリックは、150cmそこそこの小兵ビーチャムに親指を立てながらそう言った。
「リック殿だとダメージの応酬になると思ったから、自分が相手したまでであります。」
「……俺が負けるとか思ってねえだろうな?」
涼しい顔でビーチャムは答えた。
「まさかでしょう。ですが"無傷で勝つ"なら自分であります。市街戦が控えている以上、隊長殿やリック殿には力を温存してもらう必要があると判断しました。」
投降した敵兵の手を念真髪で縛りながら、先を見据えた行動であったコトも明かす。
フフッ、辺境基地の雑用係だった小娘が頼もしくなったもんだぜ。鍛えた技と頭脳を駆使して強敵を倒す。オレの辿ってきた道を歩む可愛い後輩は捕虜を艦内に収容し、義勇兵を率いて進軍を再開した。
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