奪還編22話 牙持つ勇士は帝の名代
決闘場に殺到する蹄の音を聞きつけた訳ではないのだろうが、黒騎士は総力を挙げてオレを仕留めにきた。
「答えを教えてやろう。貴様の神威兵装は未完成品なのだ。当然、完成品には見劣りする。わかるか? おまえの搭載した零式ユニットは"前期型"なんだよ!零式と銘打たれていても実は二種類のユニット、前期型と後期型が存在するのだ!」
邪眼は通じないと思わせようとしたおまえは、典型的な嘘つきだ。だが、二流の嘘つきだぜ。口にするのは全部嘘、それじゃあオレは騙せない。もし、そんなブラフでオレの思考をミスリードしたいんなら、間に事実を一つ、挟んでおくべきだった。
「ハハハッ!防戦一方だな、剣狼!旧型の零式を搭載した不運を呪え!」
黒い炎を纏った大剣を振るいながら、悦に入る黒騎士。調子に乗ってやがんなあ……とりあえずここは、"騙されたフリ"でもしといてやるか。
「クソッ!零式に前期型と後期型があったなんて……」
演技しながら思考を練る。ガードの上から生命力を削れる黒炎は大したコトはない。少々削ってみたところで、生命力の塊でもある完全適合者を仕留めるには至らない。超再生まで持っているオレならなおさらだ。準適合者レベルが相手でも、直撃しなけりゃ決定打にはなるまい。コイツの本命の能力は、この身体能力の上昇だ。神威兵装+謎の身体能力上昇、黒騎士の切り札は判明した。
格下なら謎を解明しなけりゃ突破口を開けないかもしれないが、同等の力量があるなら他にも手はあるんだ。能力の上乗せが自分だけの切り札だなんて思うなよ?
「な~んてな。そんなブラフに引っ掛かるかよ!おまえの底は見えた。……今度はオレの底を見せてやる!」
……至魂の勾玉、夢見の勾玉……八熾の誇る二つの勾玉よ、一つの至玉へ変現せよ!
天威無双の至玉を顕現させたオレの体から念真力の奔流が沸き起こる。さあ、天狼の全身全霊におまえは抗えるかな?
「その目は!処刑人と戦った時に見せた……」
エスケバリかオコーナーから録画はもらってたんだろうが、あまり研究していなかったようだな。おまえが身体能力を上乗せするなら、オレは念真力を上乗せしてやるまでだ。これで互角、いや、互角以上だ。このモードに入れば、黒炎で生命力を削られるコトはない。全身に纏った念真重力壁が、黒炎を完璧にブロックする。
「いくぞ、黒騎士!」
溢れる念真力を纏った刀で、鍛えに鍛えた剣技を駆使する。技の合間に、さらに威力を増した狼眼を交えながらだ。よし、勝負の均衡はオレに傾いているぞ!
「チッ、全身に重量壁を纏うとはな!貴様を少々甘く見ていたらしい!」
少々で済んでるか? 瞬殺されずに凌いでいるのは褒めてやるが……
「今度はおまえが防戦一方だな?」
オレが念真力を増幅出来るコトは知っていたんだろうが、増幅の度合いは予想以上だったらしいな。甘いぜ。無双モードに入ったオレには、あのケリーでさえ守勢に回らざるを得なかったんだぞ? 大方、自分はケリーより格上だと高をくくっていたんだろうがな!
「そんな異常な上乗せ能力は、どうせ長続きしないだろう!俺の全力を以てすれば、ガス欠を起こすまで凌ぎ切れなくもないわ!」
おまえの上乗せ能力にも、時間制限がありそうだがな。ま、運賦天賦に命運を賭けるつもりはない。ハメ手を使う準備は完了。後はいかに、
逃げる方向に磁力の槍を置いてから……今だ!今なら回避は出来ない!
両手構えの刀で繰り出す必殺の斬擊を、大剣で受ける黒騎士。セラミック製の刃に蜘蛛の巣のように亀裂が広がり、黒騎士の顔が青ざめる。
「なん…だとぅ!!」
食い込んだ刃は、分厚い剣身をへし割りながら黒騎士の体を吹き飛ばした。オレは刀を振って薄汚い血を飛ばし、倒れた騎士に嘯いてやる。
「おまえの敗因を教えてやろう。それは"不勉強"だ。」
……手応えあった。肋を断って肉に食い込み、心臓へ刃が届いたはずだ。
仰向けに倒れて天を仰ぐ黒騎士は、ゴボッと血の泡を吐き出した。
「……な、なんだ!?……その異常なパワーは!……超硬化セラミックを粉砕するなど……ありえん……」
「夢幻一刀流・九の太刀、
「……こ、この俺が……こんな……若僧に……………」
黒騎士が答えを知るコトはなかったが、剛擊夢幻刃のレシピは、腕の爆縮+サイコキネシス+磁力操作+念真擊だ。今回は神威兵装で腕力が、天威無双の至玉で念真力が増幅されていたから、掛け値なしのマックスパワーだった。せっかく編み出した奥義が失伝不可避なのは、サイコキネシスと磁力操作で力と速度を増してやる必要があるからだ。どんなに素質がある継承者を得ても二つの特殊能力、特に磁力操作は持っていないだろう。爆縮にしたって、誰にでも修得出来る技ではない。最高峰の強靱さが必須なのだ。
しかし……腕の爆縮を行いながら斬擊を繰り出し、次にサイコキネシスと磁力操作でパワーを加味しながら加速、インパクトの瞬間に念真擊。我ながら難易度の高い奥義を編み出したものだ。モノにするまでに苦労しただけあって、剛擊夢幻刃は今後の大きな力になってくれるだろう。
「見事だ、友よ。しかしよく硬化セラミック製の大剣をへし折れたものだな。かなりの厚みがあったはずだが……」
勝負を見届けたテムル総督は馬を降り、オレに歩み寄ってきた。
「それにはタネがあるんですよ。今持ってるこの刀、実は至宝刀なんです。」
「なに!? カナタの愛刀は宝刀斬舞じゃなかったのか?」
「ええ。でもこの刀は、姉さんから借りた光輪天舞です。鞘と
鞘と鍔をすり替えておけば、刀の見分けは出来ないと思っていたんだ。洋剣を使う黒騎士は、刀の目利きなんてしたコトがないだろうから。セラミック製の大剣を見て、さらに安心出来た。刀紋のない陶器の武器に慣れ親しんでいたら、まず見分けは出来ない。黒騎士に謙虚さがあれば、使い手の多い金属製の武器を研究していただろう。だが傲慢な強者は自らの力に驕り、努力を怠った。
「煌刀と称される光輪天舞は、眩く輝く刀身を持っていたはずだが……」
「輝いていないのは、ツヤ消し塗料を塗ってあるからですよ。黒騎士は騙くらかしたし、塗料落としを使おうっと。」
ポケットから出した塗料落としを刀身に垂らすと、眩い光を放ち出した。光輪天舞よ、変装なんてさせてゴメンな。でも姉さんの為の機略だから、大目に見てくれ。
「我が友は用意周到と言うべきなのか、
騎馬で駆け付けてきた騎士の手を握った黒騎士は、馬の背に乗って戦場から離脱してゆく。なんで生きてるんだ!? 心臓を潰してやったのに!
「……覚えておけ……この借りは必ず返す……」
弱々しい声で呟いた黒騎士を逃がそうと盾になる黒衣の騎士達。部下からの信望はあったようだな。無論、エスケバリとオコーナーの姿はもうない。ボスの旗色が悪いと見た時点で、逃げ出していたんだろう。ここまで思う壺に嵌まってくれると笑えるな。
「黒騎士はサイボーグだったのか!カナタ、奴はここで仕留めるぞ!」
「……いや、サイボーグじゃない。そういうコトだったか。説明は後にして追撃をかけましょう!」
テムル師団と共にナイトメアナイツの追撃にかかったが、目的は半分も果たせなかった。どこからともなく現れた魔術師アルハンブラとテラーサーカスが、ナイトメアナイツの撤退を支援しやがったからだ。逃がせるだけの兵を逃がした後は、サッサと撤収。兵団一の曲者と呼ばれてるのは伊達じゃねえな。黒騎士の敗北を予期し、備えていたあたりも大したもんだが、逃がす手際と狡猾な罠も敵ながらあっぱれ。強さなら黒騎士が上なんだろうが、厄介さなら魔術師の方が上だ。
……先輩部隊長達が魔術師を語る時は、決まって渋面になる。オレもその仲間入りって訳だ。奴のせいで
ま、逃げられちまったもんはしょうがねえ。一足先に先にトンズラしたエスケバリとオコーナーは逃げられねえがな。わざわざ寄ってきたオコーナーのズボンの裾には、発信機が取り付けてある。会話をしながらブーツに仕込んだ極小の発信機をペチッと貼り付けてやったのだ。もちろん、糸状に伸ばした砂鉄を使ってな。
裏切り者の二人には、処刑人の制裁が待っている。
────────────────────
ナイトメアナイツを蹴散らし、後軍との合流を果たしたテムル師団は前進を再開する。愛馬を駆る総督とバイクで併走しながら、草原の覇者の腹心にして参謀の容態を訊ねてみた。
「テムル総督、アトル中佐の容態はどうですか?」
「安心しろ。軍医の話では命に別状はないそうだ。もちろんもう戦わせる訳にはいかんから、ボルテ・チノに収容させた。」
「よかった。アトル中佐は師団にとって欠かせない参謀ですからね。」
「うむ。案山子軍団も新手を撃破したようだし、合流前に黒騎士の秘密とやらを教えてもらおうか。」
テムル師団と照京兵が合流すれば、戦域中央への到達は果たしたも同然だ。この戦の最終局面は近い。
「簡単な話ですよ。奴には
「二つの心臓だと!?」
「異常に持久力がある奴だと思っていましたが、タネが割れればなんてコトはない。心臓を交互に動かせる黒騎士は、通常戦闘なら息切れなんかしないだけ。そしていざという時には二つの心臓を全開にして、身体能力を飛躍的に上げられる。ただ全力モードに入ったら、息切れも起こすようになりますがね。通常戦闘では片っぽを休ませながら戦えるから、息切れしないだけなんで。」
なんてコトはないなんて言ったが、そういう"単純な強さ"こそが長所としては最高だ。タネが割れたところで、効果的な対策を打つのが難しい。
「あの猛撃だ。相当な強者でも、奴が息切れを起こす前に息絶えている。黒眼に二つの心臓か。"黒騎士"ボーグナイン・ダイスカーク、危険な男だな。おっ、案山子と
テムル師団は案山子軍団と照京兵に合流し、力を合わせて戦った両軍は、無事に戦域中央に到達した。これでメルゲンドルファー師団は完全に孤立したが、油断は出来ない。孤立したとはいっても、奴の直衛師団は帝国屈指の精鋭部隊なのだ。
「オーラスだな。帝国の誇る"堅将"も年貢の納め時だ。」
「カナタ、俺が援護するからメルゲンドルファーの首を取れ。古都を占領した帝国の手先に報いをくれてやるのは御門……いや、"帝の狼"でなければならん。」
この戦において、オレは帝の名代だ。伝来の宝刀も託された身、その武名は帝の座に就く姉さんの威光に直結する。だったらやるしかないし、やるべきだ。
「お館様、このコートにお召し替えを。戦の前にミコト様から預かって参りました。」
バイクで駆けてきたシズルから手渡されたのは薄紫の軍用コート。陣羽織を模したコートの背中には太陽を背にした龍の紋章が描かれている。これは本来、帝にのみ着用が許される装束だ。
「龍紋入りの陣羽織か。大龍君はオレに"陽光と龍を背負って戦え"と仰せなのだな?」
「ハッ!"敵軍総大将を討ち取れる状況になれば、弟に渡しなさい"と仰せつかっております。今こそその時かと!」
この陣羽織を筆頭家人頭のシズルに託したのは、皆に"是が非でも総大将を討ち取る!"と、無理をさせない為の気遣いだ。オレが龍紋入りの装束を纏って戦場に立てば、八熾家人衆は死をも恐れず、メルゲンドルファーの首を取ろうとするから……
バイクを走らせながら着替えたオレは、煌めく刀を天にかざして名乗りを上げる!
「我こそは龍の島の王・大龍君が名代、八熾彼方!天を戴く帝に成り代わり、推参
「皆の者、お館様に続け!我らの牙を見せる時ぞ!侘助、寂助、戦唄を!」
先陣を切って走るオレの後ろに続くのは、白装束の狼達。軍旗曹長・侘助の吹き鳴らす法螺貝と、双子の弟・寂助の叩く陣太鼓が勇壮な戦唄を奏で、白狼衆の士気を盛り立てる。
「我が名は鯉沼登隆、龍弟侯に助太刀致す!鯉どもよ、私と共に滝を登るのだ!」
「俺が帝の番犬、犬飼軍太夫だ!機構軍ども、いつぞやの借りを返しにきたぞ!覚悟せい!」
鯉幟軍団、猛犬軍団を率いる両将が参戦し、都を追われた照京兵達も続々と集結してきた。
「あらあら、みんなしてテンションあげあげじゃない。じゃあ私達はサポートに回って、引き立て役になってあげるわ。」
蝙蝠みたいな羽を翻して中陣に下がったリリスは、案山子軍団幹部と一緒に支援陣形を形成し始めた。これで前面のみに集中出来る。
「総員迎撃態勢を取れ!此奴らを総督閣下の元へ行かせてはならん!」
「笑止な!生まれ変わって出直してこい!」
サーベルを抜いて迎撃に出て来た将校を一太刀で斬って捨て、アクセル全開で敵陣に突入する。
白狼衆を先頭に敵陣に突撃した案山子軍団と照京兵は、中原の狼達の協力を得て、敵軍先鋒を瞬く間に粉砕した。
「次は中陣を叩き潰すぞ!メルゲンドルファーの首は、このオレが取る!」
奴に恨みはないが、姉さんの為、都の未来の為に、死んでもらうぞ。オレは築いた屍山血河を見渡して、大きく息を吐いた。
地に伏し、息絶えた敵兵にも家族や兄弟、大切な人達がいるだろう。だが戦場で
※今年の投稿はこれが最後になります。皆様、良いお年を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます