奪還編19話 洋式剣術VS東洋剣法
「止めろ!どんな手を使ってでもあの悪魔の前進を止めるんだ!」
後方から叫ぶ連隊指揮官。オレを止めろという命令はいい。だが"誰が、どうやって止めるのか"まで言及するべきだ。具体性を欠く命令は兵士を混乱させる。
「背中を向けて全力ダッシュしろ。そうしなければ……死ぬぞ。」
多重ロックのかかった敵兵に警告してから狼眼を喰らわす。倒れた21名の中で、邪眼への抵抗に成功した奴はいない。つまり
「かかれかかれ!誰かいないのか!悪魔を止めた兵士には5000万Crの報奨金を出すぞ!」
だから具体的な方法に言及しろって。機構軍の指揮官は"金で釣る"以外の方法を知らないのか? 有効なモチベーションアップではあるが、やる気だけじゃあ戦争にゃ勝てねえんだよ。
スコアが80を越えたあたりで、逃げ出す者が出てきた。近寄るコトも出来ずに斃されるのだから、当然と言えば当然なのだが……
敵前逃亡はどこの軍隊でも死刑だ。逃亡兵は戦力と士気を低下させた挙げ句に、自軍の隊列をも乱すコトになる。
声を嗄らして"どうにかしろ!"と叫び続ける指揮官の眉間に、親指大の風穴が空いた。鮮血を噴き上げながら崩れ落ちる指揮官の体を抱えたのは副官らしき女性士官。案山子軍団と同じで男隊長に女副長という編成みたいだな。ウチの副長みたいに狙撃の名手という訳ではなさそうだが。
「連隊長は戦死!今後は私が指揮を執る!総員、隊列を下げて視線を上げるな!足元だけを見てその上を射撃するのよ!どんな人間だって、足の上に胴があるのだから!」
無能な連隊長を支える有能な副長か。上官に恵まれないのは不幸なコトだな。
「ガード屋は前に出て念真障壁を形成!オレが隊列を崩したらアタッカーと入れ替われ!」
単騎で前進するオレに向かって四方から鉛弾が飛んできたが、命中する寸前に制止する。磁力操作能力は銃弾に対する最高の防御策であり、
「贈り物には返礼が必要だな。
磁力操作能力+
「化け物め!一体どうしろっていうのよ!……総員撤退!装甲車でも持ってこないとどうにもならないわ!」
装甲車じゃあ無理だな。そして有能な敵を退却させてやる程、オレはお人好しでもない。
マリカさんに次ぐ俊足を飛ばしたオレは、ヤケクソ気味に斬りかかってきた敵兵達を斬り伏せ、女副長に迫る。
「私が剣狼を食い止める!皆はその間に退がるのよ!……くぅっ!!」
ほう、平蜘蛛(下段払い)から鷹爪擊(兜割り)への連携を凌いでみせたか。飛び退ると同時に二本の剣を使った交差受けとは、なかなかやるな。
「いい腕だ。名を聞いておこう。」
間合いを取って二本の剣を構え直した女に、名を尋ねてみる。
「
没落貴族か騎士の娘が、爵位持ちの無能を支えてたって構図か。女ヘルゲンってところかね?
「オレを相手するにはいささか力不足ではあるが、帝国騎士の矜持は受け取った。では死合うとするか。」
雑魚を相手には構えないオレだが、このレベルの敵には敬意を表して構えを取るべきだろう。八相に構えたオレに向かって、剣をかざした女騎士は間合いを詰めてきた。
「いくわよ!"剣神"アシュレイ直伝の剣を喰らいなさいっ!」
左右同時に繰り出される長剣。二刀ならぬ二剣を巧みに使う剣技は、やはりアシュレイ・ナイトレイドから習ったものか。二剣には二刀で応戦しよう。脇差しを抜いたオレは、女騎士の繰り出す剣をガッチリと受け止める。
「クロススラッシュも通じないっ!ではこれならどう?」
十字斬りから、小手を返して挟み斬りか。司令やボウリング爺ィの使う夢幻双刃流にも似たような技があったな。挟み斬りを側転で躱したオレは、脇差しでチョイチョイと手招きする。
「そんな小手先の芸でオレを仕留めるのは無理だ。とっておきを出してこい。」
案山子軍団の精鋭には命令するまでもない。接敵してる連中と、そのカバーに回るサポーター以外は、この一騎打ちを見ているはずだ。それが今後、ナイトレイド式を操る敵と戦う時の備えになる。録画を見るのも勉強になるが、やはり
少し息が乱れてきた女騎士は、平然としているオレ(事実、余裕があるのだが)を見て、覚悟を固めた。
「大神ヴォーデンよ、我に加護を与え給え。……私の最高、最後の技を受けてみよ!」
オーディンは古英語形ではウォーデン……だったかな。ドイツ語ではヴォータンかヴォーダンだし、こっちの世界版のオーディンで間違いあるまい。
「面白い。北欧の神も御照覧だ。存分に参れ。」
「いざ参る!いえあああーーー!!」
突進してくるのはいいが、体軸の置き方が気に入らん。警戒すべきはそこだな。動きの先に小手試しの突きを置いてやるか。体の捻りが必要な技なのだろうが、どんな殺人芸を見せてくれるかな?
「かかったな!」
突きを右手の剣で弾き上げながら体を1回転、その回転と同時に繰り出す後ろ回し左片手胴払い!回るのはわかっていたが、それでも見事なものだな!
……グシャリと音を上げて砕けたのは、オレの
「……そ、そんなバカな……爪先は……浮いていたはずなのに……」
剣を跳ね上げられれば、爪先は宙に浮く。浮かずとも、間違いなく前傾姿勢ではない。つまり、相手に向かって踏み込むコトは出来ない。リーチの短い肘膝で腕を粉砕されるなど、あり得ないはずなのだ。
「惜しかったな。妙技の返礼に一つ教えてやろう。我が夢幻一刀流には流影脚という歩法がある。技の骨子は"
伊達に毎日"踵だけで走るランニングメニュー"をこなしてきた訳じゃないんだぜ? アウトボクシングの名手、パイソンさんに習った爪先の使い方+古流剣法の秘術。剣法のみならず、歩法も完成しているのさ。
「……私の負けよ。固有能力を使わずとも、強者は強者という事なのね……皆、武器を捨てて投降しなさい。主家への義理は十分に果たしたわ。私達に身代金は支払われないでしょうけれど、死ぬよりはマシよ。」
女騎士の呼びかけに応じて投降した者はごく僅かで、ほとんどの兵士は逃げ散った。彼女に人望がないのではなく、捕虜になっても帰国出来る見込みがないからだろう。無能な上に
──────────────────────
先手の連隊を粉砕した案山子軍団とレイブン隊の前に、新たな敵が現れた。市街地のアスファルトに
(アルマ、"
(
ソードフィッシュからミサイル型のコンテナが発射され、道路の真ん中に突き刺さった。
所定部分に手を合わせると指紋認証装置が作動し、左右に開いたコンテナから、剣呑な新兵器が現れた。二丁の武器に腕を合わせると、巻き込むように装着が完了する。これが御門グループ兵器開発部が作り出した天掛カナタ特務少尉専用パイルバンカー、ハウリングウルフだ。並の重量級なら両手で扱っても難儀する代物だが、今のオレなら片手で扱える。
「シオン隊、対戦車ライフルで援護しろ!他の者はシオン隊の
またしても単騎で装甲車の群れに飛び込んだオレは、機銃と砲弾を躱しながら、大型の杭打ち機を振りかぶる。
「吠えろ狼!!」
電気の帯を纏ったパイルを撃ち出したハウリングウルフ、その一撃は轟音と共に装甲車を弾き飛ばし、横転した車体から火花を散らせる。
生身の兵隊じゃ話にならないと思って装甲車を回してきたんだろうがよ。正解は"何を持ってこようが話にならない"、なんだぜ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます