南国編35話 悪気はないが、イカレてる



仲間の死を悼む間もなく、再度の攻撃で新たなターゲットを沈黙させた案山子軍団。消耗が激しくなってきたが、ここが踏ん張りどころだ。


シオンとシズルから損耗状態の報告を受け、指示を出してる最中に、ノゾミからも報告を受けた。


「隊長、β1から通信が入ってます!」


「すぐ繋げ。シオン、シズル、今指示した隊員は、侘寂兄弟のいるポイントまで撤退させろ。」


これ以上戦死者を出してたまるか。部隊長のオレと中隊長全員が健在、まだまだやれる!


「はいっ!」 「仰せのままに!」


ノゾミから子機を受け取ったオレは、β1と通信を始める。


「β1、状況を報告せよ。」


賓客部隊ゲストコマンドが巨大タマネギに向かった。Ω1、本当にアイツらだけで大丈夫なんだろうな?」


温存していたマスカレイダーズは、無事に巨大タマネギへの進撃を開始したか。β1を率いるトッドさんは、仮面の軍団を束ねるのが完全適合者、ケリコフ・クルーガーだとは知らない。作戦会議の時には特に異論はなかったが、いざ本番になって懸念が頭をもたげたようだな。


「問題ない。とびきりの隠し球だと言ったはずだ。β1はβ2と協力して巨大タマネギ周辺でディバージョンプランCを開始せよ。賓客が踊り終えるまで、誰にも邪魔をさせるな。」


「了解したぜ。βチームは陽動作戦を開始する。以上オーバー。」


頼むぞ、ケリー。巨大タマネギの攻略に、作戦の成否が懸かってる。


──────────────────


「マスカーコマンダーよりΩ1へ。"巨大タマネギビッグオニオン"は沈黙した。繰り返す、巨大タマネギは沈黙した。」


さすがだ、ケリー。見事にやってくれたな。


「Ω1、了解した。マスカレイダーズは巨大タマネギの防衛任務を開始せよ。」


「了解だ。Ω1、リキュールを準備しておけよ? 以上オーバー。」


リキュールもヨーグルトも、ちゃんとカモノハシに積んであるさ。無線のスイッチを切り替えて、と。


「Ω1より全隊へ。巨大タマネギは沈黙した!繰り返す、巨大タマネギは沈黙した!アースドラゴン到着まで後30分だ、何があっても死ぬなよ!」


「……Ω2、了解。」 「α1、了解だよ。いっちょ前の台詞を吐くようになったねえ。」 「α2、了解した。指揮官らしくなったな。」


「β1、了解。ま、そんな心配性の台詞は、俺以外に言えばいいのさ。」 「β2、了解した。各自、油断は禁物だよ。」


頼もしいゴロツキどもだよ、まったく。さて、もっかい無線のスイッチを切り替えだ。


「ドラゴンヘッド、こちらΩ1。点在する高射砲の94%を無力化し、巨大タマネギも沈黙。今から戦術データを送信する。」


戦術タブを使って、潰した高射砲の位置情報を送信、と。


「ドラゴンヘッド、データを受領した。……作戦計画に変更はない。予定地点に到着し次第、降下を開始する。援護を頼む。」


ボイスチェンジャーで擬態された司令の声を聞いて安堵する。強襲師団本隊アースドラゴンにアクシデントはなかったようだ。


「Ω1、了解。」


「Ω1、α1はどうしたのだ?……まさか負傷したのか!」


健在に決まってるだろ。……ああ、予定じゃ共同指揮のはずだからか。


「問題ない。α1に指揮を押し付けられただけだ。詳しくは作戦終了後に、α1本人に訊け。以上オーバー。」


通信を終えたオレは案山子軍団をまとめ、降下部隊の着陸予定地点に向かって行軍を開始する。


───────────────


同盟一の命知らずは、言うまでもなく羅候だ。ゴロツキの中のゴロツキである彼らは、援護も陽動もやったコトがない。常に先陣を切り、最前線で殺し合う。その命知らずどもは、パラシュートなんてまどろっこしいモノは使わず、ジェットパックで急速降下してきた。


「おうカナタ、首尾よく作戦を遂行したってのに、えれえ不景気なツラしてやがんなぁ。ええ、おい?」


どんな時でも最前線で戦う羅候。そして羅候の一番槍を取るのは、この隻腕の人斬りだ。


「……部下を死なせちまったんでな。景気のいいツラなんぞ出来る訳がないだろう。」


どういう反応が返ってくるかは言わずもがなだが、不景気ヅラは変えられない。本当に機嫌が悪いんでな。


「甘え事言ってんじゃねえぞ。殺し合いってのはよ、殺す事もありゃあ、殺される事もあんだ。それが当たり前の世界だろうが!」


言われなくてもわかってらぁ!だがな、オレは"死んで当然"なんて人でなしにゃあなれねえし、なりたくもねえんだよ!


「おまえと一緒にするな。そんな当たり前は"クソ喰らえ"だ。」


「ああ? 機構軍の前にオメエから殺ってやろうか?」


入隊した頃ならひと睨みですくみ上がっていたであろう人食い大蛇の眼光。だが、もう小揺るぎもしない。オレの狼眼は、本当に人を睨み殺す目なんだ。


「殺ってみろ。……殺れるものならな。」


"お館様こそ世界最強の狼"……白地の軍服を赤く染めた忠臣は、そう確信しながら息を引き取った。十郎左、見ていろよ。おまえが最強と信じたオレは、もう誰の風下にも立たないからな。


「トゼン!カナタに絡むんじゃないよ!」


ならず者の大将を追って降下してきたウロコさんが、慌てて間に割って入る。


「チッ!オメエはいつもいいところで邪魔をしやがるな。」


「邪魔? アンタのやりたいように殺らせてたら、葬儀屋が過労死しちまうんだよ!甲斐性なしの人でなしの尻拭いをするアタシの身にもなってみな!」


胸ぐらを掴まんばかりの勢いで力説するウロコさんに、いつの間にか寄ってきていたサンピンさんが加勢する。


「ウロコ姐さんの言う通りでさぁな。旦那、カナタさんに絡んでる場合じゃねえでやしょう。ほら、あっちを見なせえよ。自殺志願者の隊列が出向いて来てやすぜ?」


迎撃しようと進軍してくる敵兵達の姿を眼球に映したトゼンさんは、舌舐めずりしながら片袖を翻し、疾風のように駆け出していた。


「シャアアアァァァー!テメエら全員、皆殺しだあぁー!」


単騎で敵軍の真っ只中に突撃した隻腕の大蛇は、当たるを幸いと斬って斬って斬り殺す。


いつも通りの大殺戮を呆れ顔で眺めながら、ウロコさんはオレにシガレットチョコを差し出してきた。


「カナタ、すまなかったねえ。ウチの大将に悪気はないんだ。もう一年ばかりアレと付き合ってるからわかると思うけど、トゼンはただ単に"イカレてる"だけなのさ。」


チョコを楊枝みたいに咥えたオレは、限りなく苦笑いに近い愛想笑いを返す。


「わかってますよ。ウロコさんも大変ですね……」


「……はぁ。なんであんなのに付いて来ちまったんだかねえ……」


返答代わりに深いため息をつき、ボヤくウロコさん。哀愁を漂わせる女任侠とは対照的に、隻眼の博徒はニヤニヤと笑った。


「シッシッシッ。トゼンの旦那はイカレたお人でやぁすが、旦那の狂気に付き合ってる姐さんも、"酔狂の極み"って事でやしょうよ。」


自分の事を高い棚に上げてるな。酔狂なのは自分もだろうに……


「……そうなんだろうねえ。サンピン、アタシらも行くとしようか。」 


(行くのでしゅ!)


豊かな胸の谷間から顔を出した白蛇が、チロチロと舌を出し入れする。今日は人斬りの懐ではなく、女任侠のお胸が宿場らしい。


「ガッテンでさぁ。そんじゃあカナタさん、降下支援は任せやしたぜ。」


人斬り大蛇と蛇女、オマケに単眼蛇の人でなしトリオか。シオンに狙撃支援だけさせれば十分だな。


「シオンは狙撃部隊を指揮して羅候三人組を援護しろ!リリスは悪魔形態を限定解除して範囲防御だ!ナツメと組んで降下部隊を狙撃から守れ!」


降下途中で狙われると面倒だからな。


「はい、隊長!」 「やれやれ、世話が焼けるわねえ。」 「了解なの!」


シオンは排撃拳を装備した手で狙撃銃を構え、黒い翼を生やしたリリスは空に向かって飛び立つ。リリスのカバーは案山子軍団随一の空中戦の名手、ナツメに任せておけば問題ない。


サンピンさんの脱ぎ捨てたジェットパックを装着して、オレも滞空モードに移行するか。キング兄弟が羅候の隊員を引き連れて降下してくるのを援護してやらないと。


……よし、装着完了だ。ブースター、スイッチオン!


「ロケット変身だ、行っくぜー!」


ジェットパックから噴き出す炎が、オレを空中へと押し上げる。高所に上がるってコトは視界も広がるってコトだ。そこの狙撃部隊、狼眼を喰らえ!


空中の敵を視認するのはセオリーだが、セオリーが常に有効とは限らない。狙撃部隊をまとめて沈黙させたオレを、コウモリ娘と殺戮天使が拍手で称える。


「お見事。でも少尉、"ロケット変身"って何よ?」 「なんなの?」


「男の胸を躍らせる秘技だ。知らないのか?」


どんな時代に生まれようとも、男の子の胸を躍らせ、若い血を燃え上がらせる素敵変身。それが"ロケット変身"なのだ。


「知らないわよ!……ナツメは知ってる?」


ナツメはプルプルと首を振った。ロケット変身を知らないとは不憫な。特撮時代劇の良さを教えてくれた爺ちゃんは快傑派だったが、オレは風雲派なのだ。……爺ちゃん、快傑か風雲か、夜を徹して議論したあの日のコトは、今でも鮮明に覚えてるから。


狙撃部隊は黙らせたが、眼下ではまだ戦いの嵐が吹き荒れている。ここは風雲ライオン丸に倣い、空を飛び、駆け降りる人になってみるか。




唸れジェットパック!オレを血風渦巻く戦場へといざなうのだ!


※作者より 今回のネタが分からないヤングは"風雲ライオン丸"でググってみてください。快傑ライオン丸も素敵ですよ。

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