南国編29話 戦場の狼、寝室ではオットセイ
抜き足、差し足、忍び足、ケリーほど達者じゃないが、
豪華で華麗な龍の彫刻が施された入り口の前に立つと、音を立てずにドアが開いた。室内から伸びた手がオレの腕を取り、室内へと招き入れてくれる。
真っ暗な部屋の中で重ねられる唇。少し間を置いて口内に忍び込んでくる舌がオレの欲望を増幅させ、頭を甘く痺れさせる。
「……はむ……んっ。カナタ、もうきかん棒が反り立ってンねえ。」
こんな情熱的なちゅ~で出迎えられたら、きかん棒どころか、暴れん棒にもなりますって。暗視装置を作動させなくとも、バイオメタルは暗さに慣れるのも早い。オレの目は、暗闇の中で輝く美しきくノ一の姿をハッキリ捉えていた。
「金髪? ウィッグですか?」
「アタイの髪には、変装用に色素変異細胞が仕込んである。こういうのも新鮮味があっていいだろ?
「マリカさんが娼婦だなんて…」
「今夜のアタイは"カナタ専用の娼婦"さ。さあ、お客様。愉しませてやっから、こっちへ来な。」
体をピッタリ寄せた元上官に
「サイドランプを点けていいかな?」
これから露出されるであろう絶品おっぱいを堪能するには、光源が不足している。
「フフッ、サイドランプだけだぞ。」
ほのかな灯りに照らされるマリカさんの肢体。……やっぱこの
赤い
「おうおう、ヘソにくっつきそうなぐらい元気になっちまってンねえ。……じゃあ、この暴れん棒の欲望を解放させてやるとすっか。」
オレの欲望ならぬ欲棒が、魅惑のロケットが生み出す谷間に収まる。至福の時間の始まりだ。
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「…………」
シルクの毛布に
「……あの、ホント、ねちっこくてすいません。でもマリカさんがあんまり魅力的だったから……」
「……だからってアタイが気を失うまで、えちえちな事するか? "もうイってる!"って何度も言ったよな?」
「魅惑の肢体に夢中で気付いてませんでした……」
ガキだなぁ、オレって。盛りのついた獣じゃないんだからさ、もうちょっと上手くやれよ……
「おまえがタフなのは知ってたが、ベッドの上でも絶倫過ぎだろ。……前世はオットセイだな、絶対。」
流し目で視線を送りながら、煙草を咥えるマリカさん。せめてライオンって言って欲しい。
「この島の強壮料理のお陰じゃないですかねえ。美味しい上に、元気も出る。」
飲み会のシメに海亀スープのラーメンを食べたんだよな。環境汚染が酷くて科学技術が進んだ星だから、養殖技術も地球より進んでいる。だから海亀も例外じゃなくて、結構気軽に食えるレベルになってるみたいだ。市内の定食屋に"海亀定食"なんてメニューがあったぐらいだし。
「……次の対戦では覚えてろ。"もう無理、できません!"って悲鳴を上げるまで、絞り取ってやっから。」
「いやいや、いつの間に勝負になってんですか!そういうもんじゃないでしょう!」
「い~や、これは勝負だ!火隠秘伝の房中術で、天然のドスケベ野郎をフルボッコにしてやンよ。
楽しみだけど、怖くもある。……まあ、マリカさんの房中術で木乃伊にされるなら、本望だけどな。
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「おいオットセイ、夜が明ける前に起きな。」
声と頬に寄せられた唇の感触で目を覚ます。オレを起こしたマリカさんはガウンを羽織り、寝室を出た。しばらくしてから珈琲を載せたトレイとノートパソコンを持って戻ってきたが、まことに残念なコトに、もう私服に着替えている。オレも丁寧に畳まれてサイドテーブルの上に置いてあったアロハと迷彩ズボンを身に纏って、身繕いを済ませた。これから極秘作戦会議が始まるのだ。
「じゃあケリーに連絡を取ります。」
サイドテーブルに置いたノートパソコンを専用の通信回路に繋ぎ、ソケットにセキュリティチップを差し込む。ケリーや教授への通信は、網膜、指紋、音声、顔認証、パスコード、五重のセキュリティをクリアしないと繋がらないシステムになっている。
「……ったく、絶倫狼のせいで、まだ体の芯が火照ってるような気がすンよ。」
真面目な話をする前に、下半身に血が行くようなコトを言わないで欲しい。脳をフル回転させなきゃなんないんだからさ。
「そっちはまだ夜明け前だろう。超過勤務ご苦労様だな。」
ノートパソコンに映ったケリーは、ダムダラスで戦った時のような精悍さを取り戻していた。廃人手前まで薬物を投与されていたのに、この回復力。やはり並の兵士ではない。
「処刑人、参加すンのはいいが、アタイの足を引っ張ンなよ?」
「それは俺の台詞だ。」
泡路島近海を哨戒する護衛艦への工作はマリカさんが一人でやる予定だったが、考えた末に、ケリーにも参加してもらうコトにした。機構軍最高の工作兵、ケリコフ・クルーガーなら、間違っても足手纏いにはならないと判断したからだ。
「司令が立てた作戦計画をベースに、オレがリビルドしたプランを説明しよう。護衛艦への侵入経路だが、念真トレイの飛び石ジャンプでデッキへ上がるのではなく、水面に近いこのハッチを使うコトにする。ここから直接内部に侵入した方が、作戦遂行が容易になるからな。」
「カナタ、そのハッチは内側からハンドルを回さないと開かない。外側は
マリカさんに比べりゃ微々たるもんだけど、ビーチャムの胸にだって起伏はあります。バストアップ体操を日課にしてる赤毛ちゃんが聞いたら憤慨しますぜ?
「厳密に言えばツルペタじゃない。そのハッチには外の様子を伺う為の小さな覗き穴がある。強化ガラスが二重に嵌めてあるが、マグナムスチームほどの強度はない。」
「俺の仕事だな。ガラスに砂鉄で圧力をかけて静かに破壊し、そのまま紐状に侵入させてハンドルを回す。だろ、カナタ?」
「
元の計画ではどっちもマリカさんが一人でやる予定だったが、手分けした方が早い。任務に要する時間が短いほど、成功率は上昇する。マリカさんに匹敵する能力を持ったケリーがいればこそのリビルドプランだが……
卓越した力を持つ完全適合者は、二人で工作過程を打ち合わせ始める。侵入経路と役割分担だけ決めておけば、オレが口を出す必要はない。却って邪魔になるだけだ。だが、最強忍者と最強工作兵がどんな風に考え、どんな手を使うのかは勉強させてもらおう。誰もがこの二人のような力と頭脳を持っている訳ではない。人員によっては、オレが全ての計画を立案し、指示しなければいけないケースだって出てくる。
「計画としてはこんなところか。カナタ、護衛艦はそれでいいとして、潜水艦はどうする。泡路島の最終防衛ラインは、奴らだぞ。」
心配していたのはこの二人が"急造コンビであるコト"だけだったが、杞憂だったな。悪態をつき合いながらも、息の合った計画を立案した。"プロ中のプロ"と互いに認め合っているからこその連携なんだろう。
「護衛艦隊の網さえくぐり抜ければ、障害はない。海中を哨戒する潜水艦の航行ルートは、事前に司令が入手しておいたからな。いや、航行ルートが入手出来たから、作戦を決行するコトになったというべきか。」
「なるほど。古巣の機密保持体制には何度も泣かされたものだが、今となっては好都合だな。」
捕らぬ狸の皮算用かもしれんが、泡路島を入手した後は潜水艦隊の増派を検討すべきだろう。機構軍もそこそこの数の潜水艦を配置してはいるが、やっぱり穴がある。増派も大事だが、機密保持体制の構築はもっと大事だな。ルートがバレたからこそ、穴が判明した訳だから。
護衛艦の性能がいくら優秀でも、手練れの兵士が潜入して工作を行うコトは可能。海中の潜水艦なら、その危険性は少ない。今回は仕掛ける側だが、防衛する側に立った時の為に、教訓としておくべきだ。
「じゃあケリー、泡路島で会おう。マスカレイダーズが制圧した巨大タマネギの監視塔で、海を眺めながらヨーグルトリキュールで乾杯だ。」
「楽しみにしている。
ノートパソコンの電源を落とし、セキュリティチップを回収している最中に、背中に胸が押し当てられ、首には腕が巻きつけられた。そしてトドメとばかりに耳元で囁かれる甘い言葉。
「なあカナタ、これからアタイはシャワーを浴びる訳なんだが、その前にもう一回……シないか?」
「フフッ、マリカさんも結構えちえちなんですね。」
「おまえのせいだろ。……責任取れ。」
「はい、喜んで。」
ノートパソコンを畳んだ手をマリカさんの乳房に回し、ブラウスのボタンを外す。頬を赤く染めたマリカさんは、オレに身を委ねてくれた。
マリカさんと三人娘、誰かを選べなんて、ビアンカフローラの二択どころの難題じゃない。選べないなら全取りするっきゃないんだ。正常な男女関係とは言えないけど、自分が異常者なのはもうわかってる。全員に拒否られるリスクを負ってでも、全員嫁ルートを目指すぞ!
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