南国編25話 才能は無駄に使うもの



「これは大変な事態になりました!降って湧いたドリームマッチ、トッドフィネル組と戦うのはアスラ部隊のビッグ・フォー、マリカカナタ組だぁ!決勝戦を前に、夢のコンビ、夢の対決が実現であります!この試合、一体どうなってしまうのか~~!!」


実況席で、マイクを片手に口角泡を飛ばすチッチ少尉。空席となった解説席には大師匠がちゃっかり着座する。元祖ちゃっかりのラセンさんほどではないが、大師匠も結構なちゃっかり屋なのだ。


「うむうむ、これぞ祭りと言ったところかな。」


「解説のトキサダ先生。この試合をどうご覧になりますか?」


「身体能力ではマリカナタ組が断然優位だね。その差をどう埋めるのか、技師の技の冴えを見せて頂こう。」


マリカナタ組ッスか。一体感が出ていいですねえ。……もう二度ばかりになって……ゲフンゲフン。甘い思い出を反芻してると試合になんねえや。


「さぁ、始めっか。覚悟しな、金髪と偽金髪。」


コイントスでサーブ権を取ったマリカさんは、今大会最高の高度からのジャンピングサーブで挨拶する。


比喩ではなく強烈な炎を纏ったサーブを、真剣になった技師が華麗にレシーブ、そこからフィネル少尉が絶妙なトスを上げる。来るぞ、流星スパイクが!


「おまえら二人とも超再生持ちだったよな!だったら加減は要らねえだろ!」


ボールと同じ大きさの念真擊が織り成す流星群かよ!……面白え!


「オレが受ける!」 「あいよ、任せた!」


サイコキネシスでボールの威力を減衰させて、念真流星群は念真重力壁でブロック。ここで言ってみたかった台詞を言ってやんぜ?


「ひょっとして今のは攻撃スパイク……だったのかな?」


片手で真上にボールを跳ね上げ、やれやれポーズで挑発だ。


「ほざきやがるぜ、この小僧!」 「隊長、ツーアタックが来ますっ!」


真上に跳ね上げたボールの後ろには、腕を振り上げた赤い稲妻の姿。烈火の一撃がフィネル少尉に襲いかかり、先取点をゲットする。


「レティ、おまえはトスに専念しろ。レシーブは俺がやる!」


やはりそうなるよな。フィネル少尉もいい兵士だが、マリカさんの相手は荷が重い。


「面白い。その下品な偽金髪ごと焼き尽くしてやンよ!」


「やれるもんならやってみな!さあ、来やがれ!」


またしても繰り出されるマリカさんの炎のジャンピングサーブ、だがレシーブしたのは得意の念真衝撃球で威力を緩和させたフィネル少尉だった。


「なにっ!」


「一度見れば、もう十分ですっ!」 「トリックスターの言葉を額面通りに受け取るなっての!喰らえ!」


お得意のツーアタックときましたか。平手ではなく、固めた拳でどつかれたボールはナックルカーブみたいに不規則な変化をしながら襲ってくる。レシーブしようとする間際に、ボールの死角に隠れた念真擊に気付いた。咄嗟に防御はしたものの、オレの体はコートの外まで弾き飛ばされ、ボールはコート内を転々と転がる。


ナックルスパイクに隠れ念真擊たぁな。……やれやれ、く〇おくんドッジボールみたいな試合になってきやがったぜ。


──────────────────


もうバレーなんだか格闘技なんだかよくわからない試合は、先行するマリカナタ組に、死力と知恵を振り絞るトッドフィネル組が喰らい付く展開になった。きわどいところまでビキニをずらすフィネル少尉のお色気技にはホントに苦労したが、なんとかマッチポイントまで来たな。


「おいレティ。こりゃもうモロ出しするしか手はねえぞ?」


「おっぱい革新党の連中が、カメラを構えてる前でですか? そこまでサービスする気はありません。」


フィネル少尉のお色気写真は、なかなかにレアだからな。……おっぱいは堪能する、試合にも勝つ、両方やらなきゃいけないのが、幹事長の辛いところだ。ギャバン少尉から労働の対価を受け取るのが楽しみだぜ。


「じゃ、最後はオレがサービスエースで終わらせますよ。」


勝つ為の仕込みは完了している。マッチポイントを迎える前に波打ち際にボールを飛ばし、水で濡らしておいた。ここでポイントを許せばデュース、だが勝負をもつれさせるつもりはない。


「喰らえ、オレの"ゴールデンサーブ"を!」


黄金に輝くボールが一条の光となって、トッドさんを襲う。


「しゃらくせえ!そんな目眩ましに…イテッ!なんだこりゃ!」


痛いでしょ? 痛くなるように仕込んだんだから、当然です。


「濡れたボールには砂鉄がくっ付く。んで、砂鉄に狼眼の力を込めてみました。出来ればこの技は、決勝まで温存したかったんですけどね。」


サービスエースを決め、勝負も決めたオレの足をマリカさんが踏ん付ける。


「痛っ!勝負を決めたってのになんで!」


「フンッ!水着をずらされたぐらいデレデレしやがって!」


踏ん付けられて赤くなった足を擦るオレは当然、片足立ちになっていた。


「あら少尉、案山子みたいに一本足ね!」


残った足に銀髪が巻き付き、オレは不様に転倒させられる。そして転倒した先には、副長怒りの寝技サブミッションが待っていた。


「隊長、お仕置きの時間です!」


スライディングキックから流れるような動きで長~いおみ足が絡み付いてくる。シオンお得意の四の字フィギアフォー固めレッグロック、懸命に地面をタップしてみたが手は、いや、足は緩まない。そこに追い打ちのストンピングまでかまされる。


「踏み踏みなの!」


ナツメは割と容赦なく土手っ腹を踏み付けてくる。踵を捻り込むように蹴ってくるあたりがえげつない。


「ギブギブ!決勝を控えてる体なんだから、勘弁してくれ!」


「……カナタさん、お仕置きには私も加わりますからね。」


笑顔だけど目は笑ってない姉さんが、足型だらけになったお腹に油性マジックで顔を描き上げ、ようやくお仕置きは完了した。姉さん作の下手絵を、絵を描くのが趣味のイナホちゃんが手直ししたせいで、無駄にクォリティが上がってしまい、滑稽さに拍車がかかる。無論、ゴロツキ達は遠慮なく笑い倒す。


「これでよしです。ミコト様、いい出来映えでしょう?」


「イナホは本当に絵が上手ですね。うふふっ、カナタさん、よく似合っていますわ。」


……せめて水性マジックにしといてくれよ。洗い落とすのが面倒じゃんか……


──────────────────


お腹に描かれた芸術作品ボディペイントは、思わぬカタチで役に立った。決勝の舞台、平常心の塊の師匠は涼しい顔だったが、アブミさんがオレの一挙手一投足に笑い転げてしまい、まともな勝負にならなかったのだ。イナホちゃん、動くと表情が変わったみたいに見えるボディペイントとか、作画レベルが高すぎだろ……


才能の無駄遣いなんて、リリスだけの専売品にしといて欲しい。


「ぷぷっ、カ、カナタ。頼むから向こうを向いててくれないか。」


勝負が終わった途端、吹き出すシグレさん。試合の最中は笑いを堪えていただけらしい。さすがの平常心だって感心して損した。


「なんだか勝った気がしないねえ。ま、お遊びなんだし、こんなオチもあるか。」


勝負を台無しにした元凶イナホちゃんから賜杯を受け取ったマリカさんは苦笑した。


「不本意だろうと勝ちは勝ちです。素直に喜びましょうよ。」


ビーチの笑いものになってまで掴んだ勝利だ。こんな勝ち方じゃ、おっぱい閲覧はお預けだろうけどさ。


(心配すンな。ちゃんと約束は守ってやンよ。)


(マジで!?)


(ああ。作戦会議が終わった後、アタイの部屋に来な。とっておきのテクで、愉しませてやっからさ。)


やったぁ!恥をかいた甲斐があったぜ~!


おっと、浮かれモードに入る前に、真面目に考えないとな。部隊長級の慰労会という名目で、「バブルクラウド作戦」の打ち合わせが今夜行われる。美威血刃麗大会の前に入った新情報を伝達しておかないと。


(マリカさん、バブルクラウド作戦にはケリーも部隊を率いて参戦してくれるそうです。)


(本当かい? 後遺症は大丈夫なンだろうね?)


(御門の新薬が効果を発揮しました。万一の場合の保険もかけてありますし、問題ありません。)


(わかった。それを踏まえて作戦を考えておく。アタイはアタイの作戦プランを用意しておくから、カナタはカナタの作戦プランを考えておいてくれ。擦り合わせは、作戦会議の場でやろう。)


(了解。)


作戦プランは以前から考えてあったが、ケリーが参戦してくれるのなら修正が必要だ。作戦会議が始まるまでに、じっくり練り直しをしてみよう。




いつものコトだが、今作戦にも失敗は許されない。常勝無敗がオレ達アスラ部隊のモットーだからな。



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