南国編23話 姉・姐御戦争は終わらない
「……う~ん……ハッ!しょ、勝負はどうなった!?」
ビーチマットに横たえられていたトシゾーが目を覚まし、周囲を見渡す。
「兄者!目が覚めたんですね!」
南国風団扇で兄貴を扇いでいたライゾーが、クーラーボックスをまさぐり始める。姉さんの視察にはイナホちゃんとライゾーも同行してきていた。清涼飲料水のボトルを弟から受け取ったトシゾーは、ストローを咥えて水分と塩分を補給する。
「そっか。僕がサクヤさんの竜巻スパイクに直撃されて、ノックアウトされちゃったんだな……」
弟に格好悪いところを見られたトシゾーは渋面になった。
「勝敗は兵家の常だ。生き死にの懸かった勝負でもあるまいし、気にすんな。」
パイプ椅子に腰掛けて相棒の覚醒を待っていたガラクがそう言い、缶ビール(ノンアルコール)の蓋を開けた。陰では本物を飲んでやがるに違いないが、オレの前ではノンアルコールで通している。
「さあ、トシゾーさんも目を覚まされた事ですし、カロリーを補給しましょう。当主様、どうぞ上座へ。」
砂浜に敷かれた御座の上には広げられたお重が並んでいる。オレは上座とおぼしきビニール座布団に座り、イナホちゃんがビールを注いでくれた紙コップを持って乾杯の音頭を取った。
オレ、イナホちゃん、射場兄弟、ガラクの5人で熱戦をツマミに宴席を催していると、そこに「
「うえっ!? 緋眼の姐御!」 「マリカ隊長、いつの間に!?」 「しゅ、瞬間移動みたいです!」
未熟者三人には動きが見えなかったか。相手が世界最速の忍者だからって、まるで捉えられないようじゃ困るんだがな。ま、オレも新兵だった頃は、まるで見えなかった訳だし、あまり高望みはすまい。
「マリカさん!そこは私の席です!」
ピキッとなった姉さんの主張に、マリカさんはラセン流忍術"しれっと顔"で応戦する。
「早い者勝ちだ。ほれカナタ、一杯飲れ。」
「カナタさん、元上官に何かお言いになったら?……まさかとは思いますが、姉たる私を粗略に扱おうなどとは思っていませんよね?」
まーた、姉・姐御戦争が始まったよ。……なんで
「姉さん、左隣が空いてますから…」
オレが敷いた座布団の上には、ヒラリとリリスが舞い降りてきた。飛来した小悪魔は、ラバニウムコーティングで生やした黒い翼を髪に収納しながら空いた銀髪でクーラーボックスを開け、子供ビールの瓶を取り出す。
「はい、これで満席。ミコト、残念だったわね。」
おまえが無頼なのはわかってるが、せめて"さん"ぐらいつけろ。相手は龍の島最高のロイヤルなんだぞ。
「それはどうかしら。特等席が空いていますわよ?」
龍紋入りのビキニが眩しい姉さんは、"オレの膝の上"に着座した。
「おい待て!」 「しまった、その手があったわね!」
太股の上で感じる姉さんのお尻……布地一枚しかないから、否が応でも肉感が伝わってくる……姉さんは細身の体なのに、胸とお尻の肉付きだけがいい反則ボディの持ち主なのだ。
「少尉!ンまい棒が大きくなってるわよ!」
この小悪魔、いらんコトを言うんじゃねえ!必死で隠そうとしてんだろうが!
「……このまま握り潰してやろうか……」
マリカさん、どこ握ってんの!そこはデリケートなデンジャラスゾーンなのよぉ!
せめてもの救いは、紛争の気配を察したイナホちゃんが、ライゾーの目を両手で覆って隠してくれたコトだけか。
「イナホ様、どうして僕の目を覆うんですか? これでは何も見えないです!」
「男女の醜態を目にするのは、少し早いからです。……当主様は、教育に良くない御仁のようですね……」
え!? オレが悪いの?
イナホちゃんの冷ややかな視線が、オレの周りの温度を下げてくれる。いや~、涼しい涼しい……背筋は寒いけど……
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冷気渦巻く宴席をよそに、コートでは熱戦が続く。準々決勝まで残ったリックビーチャム組だったが、
バレーに限らず、点を取れなきゃ勝てないのが球技だ。大師匠は手に負えないと判断したリックとビーチャムは、セイウンさんに的を絞ってよく粘ったが、最後には根負け。鏡水次元流の真髄、ここにありって勝ち方だったな。
反対側のブロックからは、トッドフィネル組が上がって来てるか。アスラ部隊のスーパーサブ的存在のトッドさんだけど、遊びとなれば主役も主役だ。ボーリング爺ィことクランド大佐を、玉転がしで負かしたコトがあんのはトッドさんだけだったりする。ダーツ、ビリヤード、釣りにサーフィン、果てはけん玉までが達人級。歌も上手けりゃダンスも得意。遊びも仕事も多芸多才な軽薄男なのだ。
そんなトッドさんは自分のコトを"ランサム伯爵家の次男坊"なんて吹聴しているが、そんな貴族は同盟にはいない。軽薄男のフカシだろうってみんな笑ってるけど、オレはトッドさんは本当に貴族出身ではないかと思っている。三バカなんて揶揄されているけど、実はとても頭のいい人だ。貴族としての習慣、癖が出てしまっても、貴族を自称していれば"また貴族を気取ってる"で済むからボロは出ない。貴族の出であるコトを隠したいからこそ、平素から似非を吹聴しておく。嘘の高等テクニックとは、そういうものだ。
「そらよっと!」
フィネルさんがレシーブミスしたボールを、スライディングトスでフォローか。高さも位置も絶妙、スライディングしながらでこれだ、本当に上手い。
"俺の本職は
そして準々決勝で一番の盛り上がりを見せたのはシオンナツメ組VSサクヤヒサメ組の一戦だった。氷結能力を持つシオンとヒサメさん、颶風能力を持つナツメとサクヤ。希少能力も伯仲する組み合わせは一進一退の攻防を繰り広げる。スピード自慢のナツメとサクヤは速さで競り合い、シオンのパワーには次元流高弟のヒサメさんがテクニックで応戦する。
勝敗を決したのは、ナツメの颶風で援護されたシオンの氷結スパイク、その名も"スーパーウルトラグレート
これで準決勝の面子は揃った。シグレアブミ組VSトキサダセイウン組の次元流師弟対決と、トッドフィネル組VSシオンナツメ組だ。
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「いよいよ準決勝第一試合が始まります!この試合、なんと鏡水次元流の前継承者"
みんなビキニや海パンだってのに、なんで
「そうですね。勝負のカギを握るのは前、現継承者ではなく、パートナーである高弟二人ではないかと思います。」
修羅場を逃げ出して辿り着いた先がこの解説席。ま、こういうノリは嫌いじゃない。
「ほうほう。それは一体どういう事ですか?」
「達人と雷霆は似たタイプの選手で、読み合いも互角。しかしセイウン選手とアブミ選手は系統が違います。同じ次元流の高弟ではあっても、パワー型のセイウン選手に対し、アブミ選手はバランス型、この違いが勝負に反映されるのではないかと。」
「なるほど。今、責任審判を務めるローエングリン嬢がホイッスルを鳴らしました。いよいよ試合開始です!セイウン選手の力強いジャンピングサーブをシグレ選手が華麗にレシーブ、アブミ選手が高~く上げたトスに向かって、雷霆は稲妻のようにジャンプしました!さあ出るか、雷光の一撃!」
チッチ少尉はホントに楽しそうだなぁ。民放で実況担当でもやった方がよかないか?
「楽しんでるなら何よりだけど、広報部って暇なのか?」
確か、最強中隊長決定トーナメントにも駆り出されてたよな? あれはまだ仕事の一環と言えなくもなかったが、美威血刃麗大会は、完全にお遊びのイベントだぞ。
「お~~っと!スパイクと見せてのチョコンアタックが炸裂!達人ブロックをかい潜りながらライン際ギリギリに落とす絶妙なコントロール、セイウン選手も懸命に飛び付きましたが一歩届きませんでした。先取点を取ったのはシグレアブミ組。……暇な訳ないでしょう。猛烈に忙しいです。いいじゃないですか、たまにはバカンスを楽しんだって!」
キレ気味に喚くチッチ少尉。ストレス発散にバカンスにやって来て、仕事まがいの実況やってりゃ、世話ないが……
少尉はまだ知らされていないんだろうが、司令はお気に召りのチッチ少尉に、泡路島攻略の特報を報じさせるつもりだな。如才のない事だ。
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