南国編6話 夏だ、海だ、南国だ!
夏だ、海だ、南国だぁ!
ここはイズルハ列島最南端の島、龍球。リゾートアイランドとして有名な地だ。龍球に寄港する戦艦に便乗したオレ達は、機構軍に襲撃されるコトもなく、目的地に到着した。
ウンスイ代表が手配してくれた龍球ドレイクヒルホテルがアスラ部隊御一行の常宿。これはバカンスを装った部隊移動でもあるのだが、作戦発動の日までは楽しんでもいい。
泡路島の攻略は激戦が予想される。今のウチにたっぷり羽を伸ばして英気を養おう。ホテルの部屋に荷物を運び込んだオレは、さっそくアロハシャツを買いにホテルのショッピングモールに足を運んだ。
「あれ、マリカさんも買い物ですか。」
「ああ。サングラスを買おうかと思ってね。アタイのこの目はちと目立ち過ぎる。」
ショーケースを覗き込むマリカさんは夏の装いだ。初夏とはいえ、夏はいい。女の子が薄着になるからな。
「サングラスをかけたって、美貌は隠せないからおんなじだと思いますけど。」
「世辞なんざ言って、何を狙ってるんだい? ははぁん、アタイの体にオイルを塗りたいってんだね?」
ばれてーら。
「そ、そんなコト、考えていないですじょ……」
「ドモるな、キョドるな、おっぱい小僧。ゲンゴを速攻で悪たれ仲間に引き入れやがって。しょうがない奴だねえ。」
引き入れたとは心外な。ゲンゴが乳頭したいって言うから、方法を教えただけですよーだ。
「おや、ツアー客の団体さんが来ましたね。……なんで先頭にウォッカがいるんだ。ツアーガイドのバイトでも始めたのか?」
「あれはゴバルスキー中隊の遺族御一行だよ。ウォッカが率いていた中隊のご遺族には、ジャルル前総督からたっぷり見舞金が出た。それはウォッカ自身にも支払われたが、アイツはその金で、部下の遺族を豪華ツアーに招待したんだとさ。お大尽ツアーを楽しみながら、死んだ部下の思い出話をしたいって事だろう。鬼瓦みたいなツラをしてるが、部下想いの男なんだ。」
部下を大事にしていただけに、失った時のショックも大きかった。だから、"もう部下は率いない。ドジを踏んでも自分の命でカタをつける"というポリシーのガード屋が誕生したんだ。
「部下の仇も自害したコトだし、そろそろ整理をつけて欲しいですね。面倒見のいいウォッカは、指揮官になってしかるべきなんだ。」
入隊した頃はオレもさんざん世話になったし、今もビーチャム隊を支える縁の下の力持ちだ。脇役に徹しているウォッカだけど、本来なら中隊を率いてもおかしくない逸材なんだ。
「ビーチャムやノゾミにはまだ経験豊富なウォッカの助けが必要だろう。あまり事を急くな。急いては事を仕損じるって言葉もあるからね。」
「……そうですね。さて、アロハシャツを買ったら、ホテルのプールサイドで一杯飲るかな!」
「到着早々、昼酒かい。ま、ガーデンマフィアに昼酒は常識だねえ。」
昼酒、昼寝を楽しんでこそ、バカンスですよ。ガーデンにいる時にもやってますけどね。
────────────────────
プールサイドのバーカウンターには、先客がいた。ガーデン一の色男こと、ダミアン・ザザだ。
オレの姿を見たダミアンは、グラスを掲げてみせた。サングラスをかけ、浅黒い肌を真っ白なシャツとスラックスで包んだ姿は、実に絵になる。サングラスが似合う女ナンバー1は間違いなくマリカさんだが、男ならダミアンだろう。両名とも、何をやっても絵になるってだけかもしれんが……
「ダミアンも昼酒かよ。ドレイクヒルは気に入ったかい?」
「ああ。婦女子が少ないのが、なにより助かる。静かな休暇を楽しみたいからな。」
トッドさんとは真逆の感想だな。ギャルが少なけりゃ、間違いなく文句を言う。
「ここは龍球一の高級ホテルだからな。客はそれなりの地位や身分がある人間だ。本来、会員カードがなければ、予約も出来ない。」
「なるほど。俺達は株主様の招待客という訳だ。」
ダミアンといえば、少し気になるコトがあんだよな。探りを入れてみるか。せっかく南の島に来たコトだし、トロピカルカクテルをオーダーして、と。
「ダミアン、シオンから聞いたんだが、ナツメの個人訓練を手伝ってくれてるみたいだな。お礼に次の一杯はオレが奢るよ。」
「妙な誤解をされてもかなわんから、事情を話しておく。俺はナツメによく似た女を知っている。だから、死んで欲しくない。……それだけの事だ。」
ダミアンの表情がなんとも形容し難い複雑さを帯びる。懐かしさ、それに哀しみ、色々と織り混ざる男の横顔。ダミアンにはダミアンの物語があるのだろう。
「……どんなコだったんだ?」
オレのお節介癖が首をもたげたか。でも、オレはお節介になった自分が嫌いじゃない。そのお陰で生まれた繋がり、絆があるんだから。
「……無邪気で明るくて……そんな彼女が俺には眩しく見えたよ。陰気な月は朗らかな太陽に憧れる、と言ったところか。」
陰気ねえ。オレがダミアンの真似をしたら根暗呼ばわりされそうだけど、ダミアン・ザザならクールで通る。しかしよく素直に答えてくれたもんだな。てっきり茶を濁されるかと思ってたんだが……
「……そうか。きっと太陽みたいな女の子だったんだな。」
リリスがオレの闇と同居する月なら、ナツメはオレを明るく照らしてくれる太陽だ。灼熱の太陽の妹で、明るく無邪気なお日様娘。シオンは……乾いた心に慈雨をもたらしてくれる雲かな。時々、雷も落とすけど……
「……俺は彼女を守れなかった。カナタ、おまえが得ているモノは、おまえが思っている以上に大きい。……しくじるなよ?」
モテまくる色男が、言い寄る女達を一顧だにしない理由がわかった。ダミアン・ザザの胸の内は、彼が守れなかった太陽が独占しているのだ。
「カナタ、み~っけっ♪」
噂をすれば影。お日様娘がやって来たか。
ナツメはオレのトロピカルカクテルのグラスに刺されたパイナップルを摘まんで、口に咥える。
「ダミアンもいたんだ。せっかく南の島に来てるんだから、カナタみたいにアロハを着ればいいのに。」
「俺には似合わん。ナツメは麦わら帽子がよく似合ってるな。」
「でしょ♪」
ダミアンは世辞もベンチャラも言わない男だ。つまり、掛け値なしで似合っている。そういやさっきのショッピングモールに、ハイビスカスの花柄が入った帽子があったな。あれはリリスに似合いそうだ。シオンは……やっぱりサンバイザーだな、うん。
「ダミアン、アロハが似合うかどうかは、試着してみないとわかんねえぞ? ナツメ、ダミアンを連行せよ!」
「アイサー、ボス!」
敬礼したナツメは渋るダミアンの腕を取り、強引に歩き出す。
「待て待て!俺は行くなんて言ってない!」
「いいから行こっ♪ ほらダミアン、諦めてキリキリ歩くの!」
ナツメに引っ張られるダミアンの困り顔が秀逸だな。この傑作は写真に撮っておきたいぜ。
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結局、ダミアンはナツメさんオススメのアロハシャツを買う羽目になった。男前だけに何を着ても様になるのが、なんだか腹立つけど。
この島に到着したのが正午を大きく回った時間だったので、一騒ぎすれば、もう夕方だ。
せっかくリゾート地に来たんだ。オレはホテルのプライベートビーチで、沈みゆく太陽を三人娘と一緒に眺めてみる。黄色のワンピースを着たリリスが、海岸に落ちていた貝殻を拾って耳にあてた。珍しく童心に返っているようだ……って、まだ本当に童女なんだったな。でもリリスが暖色の衣服を着てるのはホントに珍しいぜ。
「隊長、夕焼けが綺麗ですね。」
オレがプレゼントしたサンバイザーを付けたシオンが、そっと手を握ってきた。
「そうだな。南国の日没ってのは、こんなに映えて見えるものか。」
「綺麗に見えるのは、みんな一緒に見てるからなの!」
シオンの反対側に立ち、空いた腕に腕を絡ませてくるナツメ。
「あ~!私がちょっと目を離した隙に何してんのよ!」
貝殻を手にしたリリスが駆け戻ってくる。
「ほら、少尉も貝殻を耳にあててみたら? 波の音が聞こえるわよ。」
……それはどうだかな?
「その貝殻、よく見せてみろ。……やっぱりな、ヤドカリさんのお宿じゃねえか。」
「てへっ♪ バレてたか。」
悪戯好きのおまえが考えそうなコトだからな。
オレは悪戯のダシに使われそうになったヤドカリさんを、砂浜に帰してやる。ヨチヨチ歩きで去ってゆくヤドカリさんに、みんなで手を振り、見送った。バカンスの初日は最高の気分で送れたなぁ……
こんな一日がずっと続けばいいんだが……戦争が終われば、こんなゆったりとした日々が待っているのだろうか?
……きっとそうだ。だから必ず生き残る。大切な仲間達と共にな!
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