南国編3話 また変人が増えるのかよ!
姉さんと姉御から耳かきをしてもらった翌日、万全の状態になった耳で姉さんのお説教を聞いてから、ライゾーに剣を指南してやる。
皆が才気に期待しているだけあって、ライゾーはずいぶん腕を上げていた。子供ゆえにパワーには欠けるが、かなりすばしっこい動きをする。剣の上達も大したものだが、雷撃のパイロキネシスはもっと凄い。開発部がライゾー専用に新開発してくれたグローブのおかげで、強すぎる雷撃で自分がダメージを喰らう事はなくなった。だからパイロキネシス能力の鍛錬も許可したのだが……これほどの雷撃が扱える者はそういまい。雷神ナルカミはライゾーがよほど気に入っているようだな。
「お館様、ライゾーは援護要員としてなら実戦に出られる程の成長振りですね。」
剣の師はオレだが、パイロキネシスに関しては同系統の能力者であるシズルさんが指導している。そのシズルさんの目から見てもライゾーの成長振りは著しいようだ。
「ホントですか!お館様、僕も兄者と一緒に戦いたいです!」
気負う少年は一刻も早く戦場に出たいようだ。
「まだ早い。今少し成長するまで待て。」
「リリスさんは僕と同じくらいの子供なのに、11番隊の主戦力じゃないですか!僕だって…」
リリスがウチの主戦力であるコトは事実だが、あの小悪魔は特別なんだ。
「ライゾー、リリスは別格だ。」
「リリスさんが10年に一人の天才だと仰るのはわかりますけど…」
「違う。10年に一人の天才なんて、10年待ってりゃ現れる。リリスはな、"不世出の天才"なんだ。膨大な念真力と異常なレベルの頭脳を併せ持った超早熟児。賭けてもいいが、同年代でリリスに勝てるヤツなんざいない。最終的にどうなるかは成長してみないとわからんが、才能の発露する早さと範囲でリリスは抜きん出ている。だから、精鋭部隊の主戦力たり得るんだ。」
シズルさんが、オレの言葉を補足してくれる。
「お館様の考案した奇策、戦術は、リリスが分析したデータが基になっている。兵は詭道なり、だが詭道を歩むには正道を知らねばならない。リリスは機略の面でもお館様を支えられる人材なのだ。わかるな、ライゾー?」
「……はい。」
うんうん、兄貴のトシゾーもそうだが、物分かりがいい。
「ライゾーもよく頑張っているが、"無理をすれば連れていけるレベル"だ。オレ達に無理をさせたいか?」
「いいえ!さらなる修練に励み、立派な戦力になれるようにしますっ!」
それでいい。見ていた感じでは、ライゾーのパイロキネシスは1対1よりも範囲攻撃に向いているようだ。
「ライゾー、おまえは範囲攻撃能力を磨け。オレがチャッカリマ…ラセンさんに範囲攻撃を指南してもらえるように頼んでやろう。」
「はいっ!ありがとうございます、お館様!」
火炎の強度ならマリカさんだが、範囲ならラセンさんだ。系統が違うといっても、やるコトはそう変わらないはず。
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昼メシ時になったので、シズルさんとライゾーを伴って大食堂に行こうとしたのだが、シズルさんはガーデンの視察に来たハウ保安官と会食する予定があり、ライゾーはイナホちゃんの料理を手伝う約束があるとのコトだった。
そういうコトであれば、致し方ない。一人で大食堂に向かったオレは、食堂内に行列を発見した。悲しき小市民のサガで、オレはなんとなく列に並んでしまう。オレの前に並んでいたのはガーデン一の色男、ダミアン・ザザだった。
「ダミアン、この列ってなんなんだ?」
畏まった話し方をする度に訂正を求められてきたので、ダミアンに対してだけはタメ口を使っている。ダミアンも先輩部隊長なんだけどなぁ。
「臨時出店しているカレーショップの並びだ。」
……カレー……カレーと言えば……
振り向いた背後には、チャッカリマン改め、カレー教の教祖がしれっと立っていた。
「……やっぱり現れたか。」
「人を妖怪みたいに言うな。源悟、カレーは好きか?」
ラセンさんの連れは源悟というらしい。見ない顔だが、見たような顔だ。そう、ゲンさんが若返ったら、こんな感じ……
「好きですけど、ラセンさんほどじゃないですね。はじめまして、天掛隊長。俺は田鼈源悟と申します。」
「田鼈、というコトはゲンさんの身内か?」
「はい。田鼈源五郎は祖父になります。」
源悟はガラクやトシゾーと同じぐらいの年頃のようだが、もう顎髭を生やしていた。それにもみあげも剛毛で長い。田鼈一族は体毛を武器にするだけあって、毛深い者が多いそうだが……
「ゲンさんには新兵の頃から世話になっている。よろしく頼む、源悟。」
「カナタ、モノは相談なんだが、しばらく源悟を預かってくれないか?」
教祖から上忍筆頭の顔になったラセンさんから、思いもかけない提案をされた。
「え!? ですが、田鼈一族は火隠の忍び。クリスタルウィドウに入るのが筋でしょう?」
「源悟はマリカ様やゲンさんから、カナタの話をよく聞かされていたそうでな。その狡っ辛さを学びたいのだそうだ。」
「……ラセンさん、もうちょっと言い様があるでしょう……」
「ハハハッ、そうとしか言い様がないのでな。源悟はいずれ"源五郎"の名跡を継ぐ男だ。首尾よく名跡を継げれば、相談役にも任命されるかもしれん。ならば、狡智さを身に付けておいた方が良い。バカ正直では相談役は務まらんからな。」
「小狡さならラセンさんから学べばいいと思いますけどね。けど源五郎の名は名跡だったんですか。」
「はい。田鼈一族の長が"源五郎"を名乗ります。お
なるほど。歌舞伎役者みたいなもんだったのか。何代目源五郎、とかいう世界なんだな。しかし、オレみたいになりたいモノかねえ……
「源悟、その話、マリカさんは承知しているのか?」
「マリカ様のお許しがないのに、こんな話は出来ません。"いい事だ。
「………」
短所だらけで悪うございました。好きでこうなったんじゃないやい!
「カナタ、真面目な話、田鼈一族は火隠忍者の中でも特異な一族でな。忍ぶ隠れるより、正面切って戦う事が得意なのだ。源悟は忍者よりも、侍から得られるモノが大きいだろう。足手まといにならん事は保証する。田鼈一族に伝わる技は全て、修めているからな。」
戦い方に幅を持たせる為の武者修行、それがマリカさんやラセンさんの考えのようだな。
「わかりました。オレのところで預かりましょう。源悟、オレに力を貸してくれ。」
「ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」
天羽の爺様からの報告では、八熾の庄で教練を終えた新兵がいるようだ。もっと戦力を増強したいというのが司令の意向でもある。少し編成を考える必要があるな。
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オレが源悟を預かり、ラセンさんはライゾーを指南する、そんなバーター取引が成立した頃に、臨時カレーショップの前までたどり着いた。
カレー専門店"
「ダミアン、ありがとなのネ~。お陰で帰って来られたのデ~ス!」
ターバンを巻いた浅黒い肌の店主はダミアンの知り合いらしい。しかし、妙なイントネーションで喋るなぁ。見た目の印象で言えば"謎のインド人"ってとこだ。
「気にするな。仲間を助けるのは当然の事だ。ハッサン、俺が不甲斐ないせいで迷惑をかけたな。」
「なに言ってるのネ~。ミーがドジ踏んだのが悪いのデ~ス。ハイ、チキンカレー上がったのネ~!」
まさかこの店主、捕虜交換で帰ってきたってのか!?
「ハッサンのカレーを食うのは久しぶりだな。いい匂いだ。」
あまり表情を変えないクールキャラのダミアンが、珍しく相好を崩している。この笑顔を見れば、婦女子はメロメロだろうな。
「ダミアン、ひょっとして、この店主さんは兵士だったのか?」
「だった、じゃない。今でも現役の兵士だ。レイニーデビル大隊副長、バム・ハッサン中尉。闘神の異名を持つ男さ。」
レイニーデビル大隊の副長が空席だったのは、そういうコトか。ダミアンはハッサン中尉の帰還を待っていたんだ。
「ノーノー!ダミアン、ミーは副長じゃなくて料理長なのデ~ス!」
両手を合わせたハッサン中尉は、顔と手を別方向にスライドさせるポーズを決める。地球にもいたな、こんなポーズで躍るエセインド人が……
オレと目が合ったハッサン中尉はウィンクしてから、カレーパウダーを口に含んだ。そして変顔をキメてから、天井目がけて火を吹いてみせる。
「ミーはスパイスの効いたカレーが得意なのネ~!辛さのあまり、火を噴いちゃったのデ~ス!」
……また変人が増えたよ……どこまで行くんだよ、一体……
「カレーが
バクラさんと差し向かいでカレーをかき込むジョニーさんが含み笑いする。
「天掛隊長、噂には聞いていましたが、この基地ってこんな人ばっかりなんですか?」
「言うな、源悟。もう手遅れだ。」
変人どもの巣窟に迷い込んだ子羊に問われ、オレは静かに首を振った。
……この基地はもうダメだな。オレも大概変人だと思うが、上には上がいる。
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