覚醒編16話 ターンオーバー
防衛部隊は懸命に時間を稼ぎ、苦境を凌ぎきった。奮戦の甲斐あってめでたく
「シオン、カレル、スケアクロウとレイブン隊の負傷者を確認!手当を終えたら戦える者を戦艦に乗せろ!これより追撃戦に移行する!」
「
二人の副長は部隊状況の確認作業を開始し、追撃戦に備える。オレはナツメの持ってきたガムシロップを口に含みながら、次なる戦いのシミュレートを始めた。
ネヴィルさんよぉ、やりたい放題やってくれたな。今度はアンタが泣きを見る番だぜ?
「剣狼、ネヴィルは奪取した前衛都市のどこかに逃げ込むつもりだろう。すぐに追うぞ。」
蒼い狼の刺繍が施されたマントをなびかせながら、愛馬に騎乗したテムル総督が駆け寄ってきた。
「了解。平原で司令と合流してから本格的な追撃を開始しましょう。」
「おう。ネヴィルに目にもの見せてくれる。二度と平原に手を出そうなんて思わんようにな!」
ザインジャルガの外縁市街は深刻な打撃を被った。ローゼの護衛役、
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平原を疾走するジャダラン師団の艦隊、そこに純白の旗艦に率いられた救援師団が合流してきた。
「艦長、ミドウ司令から通信が入っています。」
アルマからそう告げられ、オレはメインスクリーンに目を向けた。通信手を含むクルー達は敵軍の動向分析に手一杯なのだ。
「繋いでくれ。」
メインスクリーンに映った司令から、お褒めと激励の言葉を頂く。
「カナタ、よくやった。だがもうひと働きしてもらうぞ。」
「言われるまでもなく。オレ達のひと働きで、機構領の葬儀屋にひと儲けさせてやりますよ。」
「フフッ、頼もしくなったな。眼旗魚を白蓮に接舷させろ。おまえから借りたいものがある。」
借りたいもの? 同盟一の
「了解。ラウラさん、白蓮と併走し、接舷通路をドッキングさせてくれ。」
「アイサー、艦長。」
高速走行する戦艦同士を、両艦の艦長は見事な操艦で接舷させてみせた。ラウラさんも凄腕だが、白蓮の艦長もいい腕だ。そりゃアスラ部隊の総司令の旗艦なんだから、いい腕に決まってるか。
「シオン、指揮官を作戦室に集めてブリーフィングを始めててくれ。シズルさんはオレと一緒に白蓮に。」
「ダー。」 「ハッ!お供つかまつりまする!」
シズルさんを連れたオレは接舷通路に向かった。
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白蓮の指揮シートでふんぞり返る司令、傍に佇立するクランド中佐、いつも通りの光景だ。
オレが指揮シートの傍まで行って敬礼すると、司令は純白のハーフマントを翻しながらシートから飛び降りた。マントの着用は将官にのみ認められた特権だが、司令にはよく似合ってるぜ。
差し出された拳に拳を合わせ、慰労の儀式は完了する。
「カナタ、天狼の目で私を睨め。大丈夫だ、跳ね返ったりはせん。」
「やっぱり司令は邪眼能力のコピーが出来るんですね?」
「ああ。イナホから聞いたが、私の目は御鏡家一子相伝の「聖鏡眼」という邪眼らしい。
神虎眼、天狼眼、聖鷹眼は照京御三家の持つ強力な邪眼。だが、神虎眼は機構軍の死神が持っている。ガリュウの愚行は、三つの人器を散り散りにしてしまった。聖鷹眼に関してはどうしようもなかったかもしれんが、神虎眼と天狼眼の流出は、自らが招いたコトだ。もし、叢雲一族が健在で、死神トーマがミコト様を支えてくれるのなら、どれほど心強かったコトか……
「了解。でもレンタル料は高いですよ?」
天狼眼に開眼するのは苦労したんだからな。この目はお安くないんだぜ?
「おまえももう結構な金持ちの癖に細かい事を言うな。さあ、睨むんだ。」
オレは天狼眼を発動させ、司令の瞳を覗き込んだ。オレの瞳が放つ黄金の光を司令の瞳は映し出し、その能力を写し取る。
「よし、完了だ。いつもはマリカの緋眼を借りているのだが、これからは用途によって天狼眼と使い分ける必要が出てきたな。選択肢が増えたのは結構な事だ。」
天狼眼をチョイスしたってコトは、司令も徹底的に殺る気だな。汎用性なら緋眼だが、殲滅力なら天狼眼だ。邪眼能力を跳ね返し、コピーも可能。聖鷹眼は強力な邪眼だ。伊達に「三種の人器」の一つじゃねえな。
「せっかくレンタルしたんですから、有効活用してくださいよ。」
アスラ部隊に天狼眼は二つある、か。しかしオレの邪眼の名称が、聖狼眼じゃなくてよかったぜ。せいろがん、だと地球育ちのオレはどうしてもラッパのマークのアレを連想しちまう。正露丸はもとは征露丸、つまりは
「無論だ。さて、ネヴィルには"完全適合者三人を相手に喧嘩する恐怖"を味わってもらおうか。」
「ってコトはトゼンさんも来てるんですね?」
マリカさんが来てるなら、通信の一つも入れてくるはずだからな。
「奴らにとっては不幸な事にな。マリカなら雑魚は捕虜にしてくれるだろうが、トゼンだとそうはいかん。綺麗に殲滅、皆殺しだ。」
だろうな。武器を捨てて投降すれば"殺し合い"が好きなトゼンさんは命まで取らないが、大抵は投降しようとか考える前に斬り殺されてる。だが可哀想だとは思わない。あんな常軌を逸した殺し屋相手に戦おうなんて思った時点で、詰んでたんだからな。
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撤退するネヴィル師団の後続部隊を追撃師団が捉え、砲火と共に戦端が開かれる。
第零大隊「インフィニティ」、第四大隊「羅候」、第十一大隊「スケアクロウ」が中陣に陣取り、右翼には「衛刃」と「クピードー」、左翼には「スレッジハマー」と「ヘッジホッグ」、十二神将と呼ばれる部隊長が7名も揃った陣容は壮観だった。
戦場を見下ろす丘の上、愛刀「絶一文字」を指揮棒代わりに携えた司令の左右には、オレとトゼンさんが立っている。
「ケッヘッヘッ。おうイスカ、はええとこおっぱじめようぜぇ。」
舌舐めずりしたトゼンさんの懐からハクが顔を出し、舌をチロチロ出し入れする。ガーデン可愛い生き物ランキングで雪風パイセンと人気を二分する白蛇、だけど可愛さは鳴りを潜め、野生の目に戻っていた。ハクも紛うコトなく、死の四番隊の隊員なのだ。
「少し待て。チッチ、写真の撮影は終わったか?」
カメラを構えたチッチ少尉は頷き、上機嫌で答えた。
「バッチリです。タイトルは「完全適合者、揃い踏み」ですかね。」
「チッチ少尉、揃い踏みには一人抜けてる。一番絵になるお人がな。」
マリカさんは、ガーデン美人コンテストの一位を譲ったコトがないんだぞ。どんな時でも絵になる女だけど、戦場では特に映える。
「カナタ、一番絵になるのは私ではないのか? 大人げないからコンテストには出ていないが、私が出れば…」
不満そうな司令、でもマリカさんが一番ってのは譲れねえな。
「誰がなんと言おうが一番はマリカさんです。悔しかったらコンテストに出ればいい。」
司令なら票の買収ぐらいはやりかねないが、そうなったらおっぱい革新党を総動員してでもマリカさんにトップを取らせるまでだ。そんなコトしないでもマリカさんが勝つだろうけど。
「……ほう。あくまでマリカが一番だ、というのだな?」
「凄んでも無駄です。譲れないモノは譲れない。」
断言し、怯む様子がないオレの姿を見たトゼンさんは心底愉快そうに笑った。
「カッカッカッ。カナタも言うようになったじゃねえか、ええ、おい?」
「トゼン、黙れ。」
司令は怖い目でトゼンさんを睨んだが、そんなコトで萎縮する人斬り先生ではない。つーか、トゼンさんをビビらせるなんて、閻魔大王だって不可能だ。恐怖なんてどっかに置き忘れてきちまったお人なんだからな。
「神難の麒麟児がなぁ、"何をやっても二番にしかなれねえ"とか嘆いてたけどよぉ。イスカ、おめぇもたまには二番になってみりゃどうだ? そうすりゃちったぁ凡人様の気持ちがわかろうってもんだぜぇ。」
「黙れ、と言ったはずだが?」
……ミドウ師団の先鋒部隊が敵の殿部隊を突破出来ないでいる。そろそろ動くべきだな。
「司令、そろそろ…」
「わかっている。頃合いだ。」
司令は腰の長脇差、天魔刀「伏滅」を引き抜いた。右手に至宝刀「絶一文字」、左手に天魔刀「伏滅」の二刀流、夢幻双刃流継承者にして完全適合者、「軍神」イスカ見参か。
「トゼン、カナタ、私に続け!」
走り出した完全適合者に続く完全適合者二人。
「軍神」、「人斬り」、「剣狼」のトライアングルアタックとは豪勢だな。ネヴィル師団の兵隊どもは、阿鼻叫喚に包まれるのを待つばかりだ。
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