第四章 覚醒編 地球から来た来訪者、最強兵士に覚醒す

覚醒編1話 ダムダラス平原の会戦



「ソードフィッシュ発進!目的地、自由都市ロスパルナス!」


戦争は仕掛ける場合もあれば、仕掛けられる場合もある。今回は後者だ。ロスパルナスにはまだカレル率いる御門グループ企業傭兵団が駐屯している。それを承知で攻撃を仕掛けてきた以上、かなり大規模な攻勢だと考えなければならない。同時期に各方面に仕掛けられた大攻勢、ネヴィル元帥の本命の標的がわからない以上、アスラ部隊は各地に散って対応するしかない。司令は各攻勢地点の中継地点でシノノメ中将と共に待機、本命の攻略対象を防衛するという作戦を立てた。……気になるのは兵団の動きだ。奴らはどう出る?


進発してから数日、ロスパルナスのカレルから通信が入った。


「侯爵、ロスパルナスは完全に包囲されました。曲射砲の砲声が聞こえるかと思いますが。」


「……そうか。かなりの数のようだな。俺が行くまで持ち応えられそうか?」


「ご心配には及びません。協定によりこの街には各地から来た援軍が集結していますし、新しい防衛司令はザラゾフ元帥の側近だけに有能。すぐさま街が陥落する事はあり得ませんが、ロスパルナスを通過してそちらに向かう敵軍を阻止する事は……」


「そりゃ無理だ。グラドサル方面から来援する友軍を参集しながら進軍し、コッチに向かってくる敵軍を撃破する。問題ない。」


前回の大戦役で、要衝シュガーポットを攻略した甲斐はあった。あの大要塞と巨大列車砲「八岐大蛇」がある限り、グラドサル方面の守りは万全。で、あればシノノメ中将は主力を率いて出撃出来る。


また師団級の戦争を指揮せにゃならんな。やれやれ、こいつぁ将校のやる仕事じゃないぜ。でもグラドサル方面からの援軍分隊を率いるウタシロ大佐に"前回の防衛戦同様に、また指揮を取ってくれ。私には手柄だけくれればいい"なんて言われちまったんだよな。チャッカリマンは結婚したばっかの上忍筆頭だけで十分だっつーの。


────────────────────


ネヴィル元帥はロンダル閥、地球で言えばUKの親玉だ。ロンダルは英国と同じで連邦王国制度を採用していて、島に点在する自由都市は世襲貴族が統治している。今回の相手はアリングハム公サイラスか。


「公爵様がお相手か。爵位じゃ負けても戦争で負ける訳にはいかないな。」


「そうね。でも6000対5000、ほぼ同数の相手に少尉が負けるなんてあり得ないわ。」


本革貼りの補助シートでふんぞり返るお子様の期待にゃ応えないとな。とはいえ、やっぱり敵の数のが多い。オレって数的優位な状況で戦ったコトがねえな。


「陣形から見て艦砲射撃の応酬がお望みのようだな。ハム公のご要望にお応えしよう。」


「少尉、ハム公なんて呼び方じゃあ、ハムスターみたいよ?」


短軀を気にしてシークレットブーツを愛用してる公爵様だ、ハム公でいいだろ。


小手先の砲撃戦術を応酬した後、本格的な作戦を開始する。序盤戦はオレの思惑通りに進んだ。そして敵将の力量も掴めた。ハム公改め、サイラスは平均以上の戦術家だ。だが、やはり自身は最前線には出てこずに、奥に引っ込んでいる。ま、こっちもウタシロ大佐には下がってもらってるけどな。とはいえサイラス、ウタシロ大佐はアンタと違って前に出れない訳じゃないんだぜ!


「ウタシロ大佐、正面の攻勢を支えて下さい。その間にオレが側面に回って、横腹を食い破ります。」


公爵様が側面突破を阻めるかどうか、試してやるぜ。さあ、そっちのエースを出してこい!


───────────────────


ソードフィッシュから出撃した案山子どもは、乱戦状態の最前線に突入する。砲撃戦は分が悪いと判断したサイラスが、歩兵部隊を繰り出してきたからだ。敵味方入り乱れての乱戦では支援砲撃は手控えなければいけない。友軍誤射が生じるし、前に出すぎて歩兵に乗り込まれたら艦を破壊、最悪乗っ取られる可能性があるからだ。砲撃の応酬から始まって白兵戦での殴り合いに発展が、この戦争で一番繰り返されてるパターン。戦いは中世さながらの白兵戦フェーズに移行した。オレ達の本領発揮の時だ。


オレを起点に左右に展開するスケアクロウは敵軍を圧倒する。乱戦は望むところ、狼眼の強みは大量殺戮能力だ。視界に入れば弱兵は即殺、少々出来る相手でも脳にダメージが入った状態なら、案山子どもの敵ではない。戦術を駆使しても、単純に強い兵士の力押しを止めるのは難しい。どうした、サイラス? そろそろエース部隊を出して食い止めないと、側面から痛撃を喰らう羽目になるぞ?


ほう……ステルス車両が数台、戦場に急行してきたな。やっとお出ましってコトらしい。


陸上戦艦主砲の射程外で停車した車両からゾロゾロ降りてくるゴーグル着用の兵士達。少し妙だな。あのゴーグルはご大層過ぎる。少なくとも機構軍の正規装備じゃない。


「ちょっと特殊な目を持ってるぐらいでいい気になっているようだな。戦場にはたまにいる。少し特殊な芸を身に付けただけで天下を取った気になる粗忽者が……」


ゴーグルマンどものリーダー登場か。この雰囲気……なるほど、大口を叩くだけの腕は持ってそうだな。


「名乗れ。何者だ?」


「狼狩り部隊を率いる、バーナビー・ホッジ。剣狼、ここがおまえの墓場だ。」


バーナビー・ホッジ? ゴーグルで顔の下半分しか確認出来ないが、コイツは確か他の部隊を率いていたはずだが……


「オレは戦場で死ぬ気はない。孫やひ孫に囲まれながら、畳の上でくたばる予定だ。」


「ほざけ。我々、ウルフバスターズが貴様を仕留める!」


そうかよ。能書きは言い終えたみたいだし……死ね!……なんだと!?


「効かん効かんよ!狼眼など我らの前には子供騙しに過ぎん!」


一斉に嘲笑うゴーグルメンこと、ウルフバスターズ。……なるほどな、そういうコトか。


「兄貴の狼眼が効かねえだと!」 「た、隊長殿、この兵士達は……」


「リック、ビーチャム、慌てるな。ヤツらの装備してるゴーグルをよく見ろ。サイドにカメラが付いてるだろ? あれはゴーグルじゃなくてディスプレイ、カメラで捉えた映像をモニタリングしてるんだ。」


狼眼はゴーグル越しにでも効果を発揮するが、カメラを通してモニターで見るなら通じない。直接見てはいないからだ。


「そういう事だ!邪眼さえ封じれば少し腕が立つ程度の兵士。我々の敵ではない。かかれぃ!」


少し腕が立つ程度の兵士に総掛かりかよ。ま、好都合だがな。


「斬り合いなら勝てるとでも思ったのかよ、チョーシに乗んな!」


叫ぶリックを先頭に応戦を開始する案山子ども。ほう……ホッジの部下は精鋭のようだな。オレの部隊と勝負にはなってる。テレパス通信で戦術指示、部下を死なせる訳にはいかない。


(全員聞け!守備重視だ。頃合いが来たら仕掛けろ。)


「覚悟せい、剣狼ぉ!」


ホッジの刃を躱そうとしたが、左右は配下にブロックされている。後退するのは癪に障る、ホッジの刃は刀で受け、左右からの攻撃はピンポイント展開の念真重力壁で食い止めた。


「なかなかのパワーだな!俺の刃を片腕だけで止めてみせるとは。」


両手持ちの長剣を力任せに押し込もうとするホッジ。かなりの腕力、身体能力は高いようだ。


「もう片方は別なコトに使いたいんでね。……ポチッとな。」


空いた手を軍用コートのポケットに突っ込んだオレは安全装置を外してスイッチを押した。


「ぬわっ!」 「見えない!」 「一体何が!」


視界を奪われたウルフバスターズ、その隙を見逃すヘボはスケアクロウにはいない。全員が一刀の下、交戦相手を仕留めてみせた。


ホッジは指揮官だけあって、視界を失った瞬間にバックステップ。納刀したオレはホッジに構わず、左右の精鋭隊員の首を掴んで捻じ曲げた。頸椎の折れる音と、跳び退ったホッジがゴーグルを投げ捨てた音が同時に響く。


デカいゴーグルが外れ、驚愕の表情を隠すものが無くなったホッジ。部下全員を失った指揮官の前に、首の折れた二つの死体を投げ捨ててやる。


「アンディ!ロバーツ!……お、おのれ……」


「戦場にはたまにいる。ちょっといいアイデアを思い付いたぐらいで天下を取った気になる粗忽者が、な?」


「き、貴様ぁ……」


オレはポケットの中の装置を取り出して死体の傍に投げてやる。


「※超小型EMP爆弾だ。モニタリングするコトで邪眼の無力化を考えるヤツが出て来るだろうと開発させておいた。備えあれば憂いなし、と言ったところだな。」


レンズを使わないカメラはない。被覆出来ないパーツがある以上、この戦法はEMP爆弾が天敵になる。カメラの死んだモニターなど、ただの目隠しだからな。


「お、覚えていろ!この借りは必ず…」


「覚えておく訳ないだろ。おまえはここで死ぬんだからな!」


逃げようとするホッジとの距離を爆縮で潰し、刃を交える。


「ぐぬぅ!後続部隊、援護しろ!」


「様子を窺っていた後衛部隊が前進してきたわ!隊長がホッジを仕留めるまでの間、近寄らせてはダメよ!」


敵の尖兵を狙撃で倒したシオンが、案山子どもに号令する。


「喰らえ、これが狼の目だ!」


「ぐがが……な、なんのこれしき……」


やるじゃないか。小細工抜きで戦っていれば、それなりの勝負にはなっていたのにな。ならば、天狼眼発動!ついでに未完成の技も試してみるか!……雌雄一対、二つの勾玉よ、一つの至玉となれ!


オレの瞳に浮かぶ二つの勾玉が組み合わされ、眩く輝く至玉に変わる。至高の輝きを放つ狼眼で滅せよ!


「ぎぃやあぁぁぁぁ!!」


至魂の勾玉と夢見の勾玉が結合した姿、天威無双の至玉。この至玉を自在に操るコトだけは、爺ちゃんにも、歴代の当主達にも出来なかった。オレもまだ、ほんの一瞬、顕現させるだけしか出来ない。至玉は狼眼の威力を上げるというより、念真力そのものを上げてくれているようなんだが……


苦悶の表情のまま絶命したホッジの顔を見下ろしながら、心中で呟く。



歴代の当主達が至るコトが出来なかった域に……オレは到達出来るのだろうか……



※EMP爆弾とは 電磁波を発生させて電子機器を破壊する兵器です。核爆弾が爆発した場合にも同じような効果が生じるそうです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る