新生編25話 ブーケ争奪戦



落成式が終わったばかりのお社、厳粛で荘厳な雰囲気で行われた式を終えた三組のカップルは、お色直しをしてから教会に現れた。


午前中の挙式とはうって変わって、フランクで開放的なノリで行われる挙式。ガーデンで初めて行われる結婚式とあって、アスラ部隊の幹部達がほとんど顔を見せていた。元の世界でもこの世界でも結婚式に出たコトはないが、この式ってかなり変則だよな。和洋折衷はいいとしても、教会の座席を取っ払って丸テーブルとか置いていいもんなのか?


「隊長、三組合同だけあって盛大な式ですね。」


隣の席に座ってるシオンにそう囁かれる。シオンは礼装用の軍服も似合うな。オレも今日だけは礼装用軍服をしっかり着込んでる。着崩してたらホタルに一生小言を言われそうだからな。


「部隊長、中隊長はほとんどいるな。ガーデンに部隊が集結してる間に式を挙げた甲斐はあったか。」


「ご祝儀もたんまりね。」


リリス、ご祝儀目当てで式を急がせた訳じゃないぞ。


グルリと周りを見回して再確認、部隊長で顔を見せていないのはトゼンさんとダミアンだけか。


「私と少尉の式もここで挙げる事になるのかしらねえ。少尉は若殿様な訳だし、八熾の庄でかな?」


「あら、リリスが隊長と結婚するとは限らないわよ?」


「なの。私とカナタの結婚は確定してるけど。」


この話題には加わらない方がいいな。親友の晴れの日に痴話喧嘩はみっともない。


雛壇に座る三人の花嫁達は綺麗で可憐だったが、男どもの方はイマイチだな。なんとかサマになってるのはラセンさんぐらいで、後の二人はウェディングドレスの添え物にしか見えない。


う~む、ホタルはやはり午前中に見た和服の方が似合ってるかな。シュッとした京人形みたいな容貌だけに、和服姿が一番映える。対照的にリカさんはウェディングドレス姿のがいい。アスナさんはどっちもいける感じか。


「しっかしシュリのヤツ、カチンコチンじゃないか。」


もっとリラックスしろよ。午前中からそれじゃあ関節が固まっちまうぞ。


「ねえナツメ、カチンコチンからカとコを抜いてみて?」


「?……チンチ…」


素早くナツメの口を塞いだシオンさんは、返す刀でリリスにデコピン。シオンは格闘家だけに指力も高い。デコピンを超えるデコピン、スーパーデコピンをおデコに喰らったリリスのほっそいアゴが跳ね上がる。


「シオン、あんた自分が怪力だって、わかってる? 首がもげるかと思ったでしょ!!」


白煙を上げ、赤くなったおデコに手をあてながら、リリスはシオンに猛抗議する。


「お黙り小娘。本日この場でお下品トークは許しません!」


全くだ。さて、新郎三人が死ぬほど嫌がってた儀式の時間はもうすぐだな。


恥ずかしさが1/3に軽減されたっぽいトリオ・ザ・ちゅ~を見物したら、網膜にカンペを映して友人代表挨拶の準備でもしておくか。


──────────────────────


「え~、今述べたように空蝉修理ノ助君は大変真面目な…」


「ボーイ、そんな事はわかってる。つかみもなければ、ボケもない。ギャラリーの期待を裏切っちゃあいけないな。」


ライバルのダミアンがいないので、会場一の伊達男の地位にあるバイパーさんに茶化される。この程度の挑発に乗ってはいけない、平常心だ、平常心。


「アンちゃん、ボケろ。芸人失格だぞー。」


悪ノリ好きの弟まで加勢しやがったか。どこの世界に友人代表挨拶で笑いを取りにいくバカがいる!


「……情に厚く、誠実な修理ノ助君は、良き夫として、また…」


真面目くさった顔をしたダニーがホワイトボードにキュッキュッとマジックでなにやら書き込み、こちらに見せてきた。……"ここでボケて!!"だとぅ!


笑い声がしたので振り向いてみれば、新郎新婦の6人が爆笑してる。……オレは真面目にやろうとしてんのに、なんだってんだよ!


「おいコラ、ダニー!寄席やってんじゃねえんだぞ!」


最前部の席に座っていたマリカさんが、同じ席のシグレさんに手を差し出した。


「やれやれ、やっぱりキレ芸が出たよ。シグレ、賭けはアタイの勝ちだね。」


「うむ。まあ頑張った方だとは言える。」


丸めた紙幣をマリカさんに渡すシグレさん。滞りなく挨拶を済ませられるか賭けてやがったか。


「カナタ、ギャラリーの期待に応えて漫才の一つでも披露してやりなよ。真面目な挨拶は司令がやってくれたからさ。」


友にまで期待されてなかったか。……いいだろう、やってやろうじゃないか!


「よぉし、とっておきの新ネタを披露宴で披露してやろう!リリス、こい!」


オレは真面目くさった祝辞を述べるより、アドリブ漫才で笑いを取りにいく方が得意なんだ。


「ちょっ!? 何よ、新ネタって!」


「いいからこい!ガーデンのお笑いスターの実力を見せてやるんだ!」


ジタバタあがくリリスをアビー姉さんが雛壇前まで連行し、舞台は整った。


「……あの、これをハリセンの代わりに……」


リカさんに手渡された花束を受け取ったリリスは、ヤケクソ気味に開き直った。


「はいはい、夫婦漫才でもやればいいんでしょ!……リリカナコンビの漫才、始めるわよ!人でなしども、耳クソをかっぽじりなさい!」


ふんぞり返ったちびっ子に降り注ぐ万雷の拍手。こうして即興のショーが開幕した。


─────────────────


笑いに包まれた披露宴を終えた花嫁さん達を、出口の付近で出待ちする出席者達。最前列で見守りたかったのになんで後列にいるんだろ。"助走が必要だから"とかナツメは言ってたけど、意味がわからん。


「……はぁ、なんで披露宴で漫才を披露しなきゃなんないのよ。そもそも教会で漫才とか、罰があたるんじゃない?」


言うな。ウケてたんだから、よしにしとけ。だいたいリリスは無神論者だろ。


お!ブーケを携えた花嫁さん達が教会から出てきたぞ。クラッカーを鳴らして、紙吹雪を投げてっと!


……花嫁達が背中を向けると同時に、参列してる女性陣の目が妖しく輝く。この緊迫感……な、なにか始まるのか!


空中にトスされた3つのブーケを狙って、女性兵士が何人か跳躍した。助走がいるってそういう意味かよ!


マリーさんとコトネの蹴りが空中で交錯し、その間隙を縫ったフェネル少尉が一歩先んじる。だがジェット気流を纏ったサクヤにブロックされ、アブミさんとヒサメさんがブーケに迫った。しかし赤い閃光、アスラ最高のスピードと跳躍力を誇るマリカさんが二人の足を掴み、地面に投げ落とす。


姉のアシストを受けたナツメが宙を舞うブーケ二つを手刀で弾いてリリスとシオンにパスし、残る一つをガッチリとキャッチ。ブーケを胸に抱えた妹をお姫様抱っこしたマリカさんは、華麗に着地してみせた。


そして気が付けば、ナツメを両手で抱えたマリカさん、それにシオンとリリスにオレは包囲されていた。


「……え、え~と……」


「……カナタ、ついでにおまえも式を挙げるか? 幸い神父もまだいるしな。」


冷やっこい目の司令から冷ややかなお言葉を頂き、オレの背筋を冷たい汗が流れる。なんでオレは親友の挙式で絶体絶命の窮地に陥ってるんだ……


「……あの、隊長……」 「少尉、これは運命よ。」 「カナタは私達から逃げられないの。」 「さあカナタ、どうする気なンだい?」


ジリジリと距離を詰められ、オレは後退ったが、おっぱいの壁でブロックされる。


後ろからオレを抱きしめた姉さんが、ブーケで武装した三人娘プラス1を威嚇した。


「カナタさんは私の弟です!弟の嫁御は姉が選ぶのが当然!下がってください、下がって!」


姉さん、さすがにそれは、当然ではないと思います……


「弟子の嫁取りには師の意向も反映されるべきだな。私も物申すぞ。」


え!? 師の意向も反映されちゃうんですか!


「待て待てい!お館様のご新造様は、すなわち我らの奥方様だ!八熾一族の賛同がなければ、縁組など認められぬ!」


シズルさん、これ以上話をややこしくしないで!


元上官と三人娘のオフェンスチームカルテットに立ちはだかる、姉、師、家臣のディフェンスチームトリオ。そして無責任に囃し立てるギャラリー達。おいコラ、チャッカリマン!何事もなかったかのように嫁さんを連れてオープンカーで逃げ出すんじゃない!


「……グダグダだ、ああグダグダだ、グダグダだ。」


大師匠、下手な川柳とかマジでいらないです!




……オレもなんとか逃げ出してえ。友の良き日を祝うだけのはずが、なんでこうなるのやら……



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