新生編24話 壊し屋&雷霆VS剣狼



凛誠局長、壬生シグレと助っ人のアビゲイル・ターナー、この二人とのマッチアップは十分あり得る事態なので、事前にシミュレートしてある。


「いっくぜえ!そりゃあ!」


訓練用のパイルバンカーなんてものがないので、アビー姉さんの得物はモールだ。緩衝材が付けてあるっつってもアビー姉さんの怪力だからな。喰らうと酷い目に遭いそうだ。スイングスピードは見切れなくはないんだが、アビー姉さんもそれは承知の上、二刀流のモールを交互に繰り出し、反撃の暇を与えない。とはいえ、問題はアビー姉さんよりもシグレさんだな。


シグレさんは"組んだ相手の長所を引き出す闘法"が抜群に上手い。強い兵士はどうしても"オレがオレが"になりがちなんだが、シグレさんに限ってそれはない。なんせ白ご飯みたいなお人だから、トンカツと組んだらカツ丼になるし、麻婆豆腐と組んだら麻婆丼になる。極上白米と組めれば、並の料理でも美味しく頂けてしまうみたいなもんだな。並の兵士と組んでもイケるんだから、アビー姉さんみたいな手練れと組んだら……始末に悪い。パワーに偏りがちなアビー姉さんの攻撃の隙を突こうにも、要所をシグレさんにカバーされ、為す術もなく防戦一方かよ。


……なるほど、オレがこの状況を想定してきたように、シグレさんもこの状況を想定してきたってコトだな。アビー姉さんらしからぬ小刻みな連擊は、打ち合わせ通りってか。


これはいい訓練だ。名を上げれば研究され、対策を練られる。十二神将になったオレは、機構軍からもターゲットにされているだろう。だが、アスラの部隊長達は、さらにその上をいくからこそ、その名を轟かせているのだ。


「ほらほら、防戦一方かい、剣狼カナタ!」


「アビー、油断するな!カナタは何か考えているぞ!」


オレはカナタじゃなく、謎のイカ頭巾ですよ。勝って頭巾を剥ぐまで名前で呼ばないでもらえます?


さて、どうしたもんか。……オレとの戦いをシミュレートしたのはシグレさんで間違いない。アビー姉さんは"知恵の輪を引き裂くのが趣味"なんて言ってるお人だからな。それで、いつものアビー姉さんだったら得意の超高速タックルを狙ってきそうな場面でも、仕掛けてこないのか。シグレさんはオレなら躱すと読んでるんだな?……だが、人間の本質ってそう簡単には変えられない。チマチマした戦いを強制されてるアビー姉さんには、ストレスが溜まってるはずだ。


シグレさんが知らないオレの技術……腕の爆縮だな。よし、やってみるか!


戦いながら片袖を脱いで、脇から迫るシグレさんの刀を小袖返しで巻き取る。もちろんこれは読まれているから、すぐさま脇差しの攻撃がくるが、羽織空蝉で回避だ。そして上着をシグレさんに投げ、視界を遮る。その隙をカバーするのはアビー姉さん、これでこの瞬間だけは1対1だぜ!


迫るモールに刀を合わせた瞬間に腕の爆縮!よし!予想外のパワーに意表を突かれたアビー姉さんの表情が変わった!ここで……口擊だ。


「あらぁ。ひょっとしてパワーで押し勝っちゃいました?」


「なんだとぅ!このアタシがパワーで負ける訳がないだろ!」


やっと地金が出たな!待ってましたの超高速ショルダータックル!装甲車を弾き飛ばしたって逸話のあるド迫力タックルだが……当たらなければどうというコトはない!


側転して躱したが、アビー姉さんも咄嗟の判断で小指をオレのベルトに引っ掛け、指一本で投げを打ってくる。小指がベルトから離れた瞬間にその手を掴み、即座に空中に念心皿で足場を形成、アビー姉さんの投げの力にオレの力をプラスした一本背負いをお見舞いした。


「アビー!カナタ相手にゴリ押しは通じないと言っただろう!」


「イテテ。ちょっと見ない間に反応速度がアホみたいに早くなってやがるし、パワーもテクニックも段違いに成長してらぁ。……なるほど、人斬り先生が"言動行動はともかくよぉ、あの小僧の中身、本質は俺と変わりゃしねえよ"なんて嘯く訳だねえ。」


「やっとわかったか。チッチが記事に書いた通り、カナタはアスラ十二神将"四天王ビッグフォー"なのだ。とはいえ、時間は稼げた。観念しろ、カナタ。もう数人しか残っていないぞ。」


同志達を逃がす為に時間を稼いでるんですから、時間の経過と共に人が減っていくのは仕方ないですよ。逃げ損ねて検挙されちゃった人もいますが、そこは必要経費ってコトで。


「前回のように屋根伝いに逃げるのも不可能だ。アブミやコトネの姿が見えないだろう?」


屋根の上で待機中ですか。ご苦労様です。


「同じ手は二度は使いませんよ。シグレさんにアビー姉さん、まだ気付きませんか?」


「……なにを言っている?」 「出たよ。カナタ得意のハッタリ芸が……」


ハッタリは得意ですけどね。今回は違うんです。


「……アビー、前回よりもコンテナの数が多くないか?」 「そんなのアタシが覚えてる訳ないだろ!アタシの記憶力の無さをナメんな!」


そこ、自慢するトコじゃないと思いますけど……ではポッケに隠したスイッチをポチッとな。


コンテナの扉が開き、スモークが噴き出される。


「猪口才な!目眩まし程度で…」 「待て、アビー!この音……バイクだ!」


はい、正解。コンテナの中にはバイクに乗ったイカ頭巾さん達が隠れていたのでーす。もちろん、ダミー人形を乗せた偽装バイクも走ってますよ~。脳波誘導操縦システムってホント、便利ですよね~。


「毎回毎回、手を変え品を変え、我が弟子ながら本当に悪知恵の回る男だ……」


「褒め言葉と受け取っておきます。バイバイキ~ン!」


走ってきたオレの赤兎馬、カブトGXに跳び乗り、逃走開始~!あ、行き掛けの駄賃代わりに検挙されちゃった同志を一人もらっていきますね。


「いやぁ、助かった。明日は"鍛冶茂"を休業するしかないなと思っていたんだが。」


「鍛冶山さん、職員党員は先に逃げてって言ったでしょ!」


「スマンスマン。正直に言えば、武器を打ったり研いだりしている相手がどんな強さなのか、この身で確かめてみたかった。腕っぷしには自信があったんだが、やはり本職は違うな。」


「ったくもう!次からは速攻で逃げてくださいよ!」


山海磯吉と鍛冶山茂吉はガーデン名職人の双璧、検挙されたら目も当てられない。適当に奪い返したイカ頭巾が茂吉さんで良かったぜ。


───────────────────


逃走に成功したオレは自分のサロンに戻り、同志アクセルと祝杯を上げる。


「犠牲は払いましたが、上手くいきましたね。隠し撮りの方はどうでした?」


「バッチリだ。SS委員会とやらの面子はほぼ特定出来た。00番隊の1/3が参加してやがったよ。」


プリントアウトされた写真を見ながら同志アクセルと対策を話し合う。SSに入った00番隊隊員のリストは同志達に回し、党員有志による独自会合を摘発されないようにしないとな。我が党のメイン活動は邪魔させん。


「シェーファー・モス少尉まで参加してたんですか。モス少尉って御堂家とは無関係の人間ですよね?」


「ああ。司令が自分で引っこ抜いてきた人間だな。そんだけ有能って事だ。」


「御堂家ゆかりの子弟で構成されている00番隊で中隊長やってる訳ですからね。面倒だなぁ。」


「全くだ。ま、営倉モンキーハウスで冷飯食ってる連中に顔向け出来るだけの成果は上がった。上出来だろう。営倉入りした連中には俺が厳選した"テンガロンハウスのバーメイド"のおっぱい写真集を贈呈する事にしよう。」


やっぱ同志は目の付け所がいい。テンガロンハウスの女の子って可愛いコばっかだからなぁ。


「バーメイドのおっぱい写真集!いいカゲチョウフですね。」


「カゲチョウフ? なんだそれ?」


「組のお仕事で刑務所に行ったヤの付く自由業の方が、出所した時にもらう報奨金のコトです。ウロコさんから教わりました。」


「ウロコ姐さんは女親分だったからな。組員に払った事もあるんだろう。」


「トゼンさんを雇ってからは、子分を懲役に行かせるコトはなくなったそうですけどね。大抵の相手はトゼンさんにビビって手出ししてこなかったそうですし、身の程知らずがちょっかいをかけてきた時には……」


「ああ、うん。言わなくていい。」


軍人が束になってもどうにも出来ない人斬り魔神を、ヤクザやマフィアがどうにか出来る訳もない。


「同志カナタ、ウロコ姐さんのいたストリートってどうなったんだろうな。ヤクザやマフィアはほとんど悪党だが、稀にウロコ姐さんみたいな"街を守ってる無法者"もいるんだ。ウロコ姐さんは麻薬や人身売買は絶対に許さなかっただろうから、いなくなっちまったら……」


「ウロコさんの縄張りの住人は司令の母都市、神楼の拡張区画に引っ越し出来たらしいです。それがトゼンさんとウロコさんの入隊条件だったみたいですから。」


気っ風が良くてカッコいい女任侠、蛇鱗くちなわりんは軍務と引き換えに住人達を守ったのだ。そんな女親分を慕う組員達も足を洗って、ウロコさんについてきた。個人技主体の羅候でも、ウロコ隊だけは抜群の連携を誇り、組員……隊員同志の絆が固いのはそういう経緯があるからだ。



ヤクザ上がりの軍人といえば……ギンのヤツ、元気でやってるのかねえ?


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