新生編23話 おっぱいプリンは蜜の味
深夜の格納エリア、08区画1番倉庫。おっぱいを病的に、もとい、こよなく愛する同志達によって結成された秘密結社、「おっぱい革新党」の党本部がここだ。そして秘密結社だけに、集会は夜の帳が降りた後に開幕する。
党則に則り、イカ頭巾を着用しての秘密集会、だが栄えある革新党幹事長であるオレのイカ頭巾の額には"幹"、党首である同志アクセルの頭巾の額には"首"の一文字が縫い取りしてある。世俗の身分立場に左右されるコトなくおっぱい談義に花咲かせる為に、"集会時にはイカ頭巾を着用する"というルールがある我が党ではあるが、例外的にオレと同志アクセルだけは見分けがつくように講じられた措置だ。
なぜそんな措置が必要なのかと言えば、党首と幹事長は党員同士の論争がヒートアップし、収集がつきそうにない場合の調停者も務めるからだ。同好の士とはいえ、いや、一切の妥協なくおっぱいを愛する者達であるがゆえに、諍いが起こるコトがある。我が党の二大派閥、巨乳派と貧乳派の間では特に。
「おまえはホテルに置いてあるようなミニボトルの酒ばっか飲んでんのか? 違うだろ? おっぱいだって容量の多い、つまり巨乳の方が人気に決まってるじゃん!」
「家で安酒かっ喰らってんのとは違うんだよ!だいたいだな、ミニボトルが安宿に置いてあるか? 市販品そっくりに作られたミニボトルは高級ホテルにだけ置いてある芸術品だろうが!」
「そうだそうだ!あのちんまり可愛いミニボトルの隊列を見るだけで"いい部屋に泊まってる感"を実感出来るだろう!バーカバーカ!」
「じゃあおまえははあんな小さなミニボトルの酒だけで満足なのかよ? 質が同じならデカい方がいい。当然の話だろうが!ボーケボーケ!」
巨乳派の二人と貧乳派の二人の論争が白熱して掴み合いに発展したか。仲裁の必要があるな。
「まあ落ち着け。巨乳派のお二人、ホテルのミニボトルを見て"よく出来てるなあ"と感心したコトはないか?」
「そりゃあるよ。」 「よくこんなリアルにミニサイズにしたもんだって感心したが……」
「だろう? 量の多寡など関係なく、いいモノはいい。いや、ミニボトルは小っちゃくて可愛いから、一段と価値があるのだ。」
飲酒するようになってからいい部屋に泊まってわかったが、ミニボトルってウチに持って帰りたくなるほどの魅力がある。いい車を持ってるのに、ミニカーを集める人がいるのも道理だな。
「幹事長は貧乳派なのか?」 「おっぱいは巨乳に限る!俺達は譲らんぞ!」
「譲れだなんて言ってない。貧乳派のお二人も考えてみてくれ。ミニボトルの魅力は"ミニ"だからこそなのだと。」
「そうだ!貧乳こそ芸術なんだ!」 「貧乳サイコー!」
「では同志達に問おう。ミニボトルはなにゆえミニなのかと。」
「なにゆえ?」 「小っちゃいからミニなんだろ?」
「違う。レギュラーサイズ、ラージサイズと比較して初めて"ミニ"なのだよ。世界に貧乳しか存在しないのなら、それ即ち貧乳にあらず。貧乳が貧乳である為には、並乳や巨乳が存在しなければならない。」
「あっ!」 「た、確かに!」 「言われてみれば…」 「…そうだな。」
論点のすり替えに成功。本質的な存在意義は嗜好とは全く無関係なのだが、煙に巻いたぞ。
「わかってもらえたかな? 貧乳は良し、だが並乳巨乳があってこその貧乳。巨乳も良し、だが貧乳並乳があってこその巨乳なのだと。」
「話がまとまったところで新作「おっぱいプリン・改」などいかがで? こいつぁ自信作なんでさぁ。」
プルンプルンと小刻みに震える、おっぱい革新党の定番スィーツの登場か。同志磯吉、いや、イカ吉もいいタイミングで現れるな。
「改、ときたか。こ、これは!」
前回のおっぱいプリンとは違い、プリンの先端にピンクのお豆が乗っかってるぅ!
「小豆を水飴で甘く煮込み、食紅でピンクに着色してみたんでさぁ。乳輪部分はチョコレート。チョコは加工も着色も簡単なんでねえ。リアルな質感を出せてるはずさな。仕上げにこれまた白く着色したカラメルをかけると……」
息を飲んで見守るイカ頭巾に見守られながら、同志イカ吉の新作「おっぱいプリン・改」は真の姿を見せてくれた。我が党の定番スィーツは、さらなる進化を遂げ、蠱惑的スィーツとしての地位を不動のモノとしたのだ。
イカ頭巾達に凝視され、恥ずかし気に震えるおっぱいプリン・改。これほどの逸品を生み出すとは……見事だ、同志イカ吉。
─────────────────────
「おっぱいプリン・改は完璧な出来栄えだったよ、同志イカ吉。」
絶品スィーツを堪能したオレはイカ頭巾を直し、仮面の紳士としての体裁を整えた。
「オイチャンが腕を振るった甲斐があったみたいで。そういやあカナタさん、新たな乳頭申込書を受け取りましたよ。党首が決裁して、今夜の集会から参加してるはず……」
イカ吉さんは普段の癖が抜けないみたいだな。
「オレはこの場では同志カナタ、もしくは同志イカナタだ。……やっぱ面倒だから同志磯吉でいいか。」
「でしょ。呼び方には慣れってものがありまさぁね。さぁて、新たな同志はどこにいるのやら……」
我が党は規模を拡大中で、その窓口は同志磯吉が務めてくれている。ガーデンの全隊員、職員に接触する機会の多いガーデン大食堂の板長という立場にある同志磯吉は、窓口役にうってつけなのだ。党員だけが知る秘密の合い言葉を同志磯吉に囁けば、配膳トレイの下に入党申込書ならぬ乳頭申込書が貼り付けられて希望者の手に渡る。その申込書に必要事項を書き込み、ガーデンで鍛冶屋をやってる鍛冶山さんに渡せば、同志アクセルかオレが決裁する。そういうシステムだ。
……ん? コンテナの上に座っておっぱいプリンを楽しんでるあの二人は……
「板長は何を作らせても一流だね。そう思わないか、同志ギデオン。」
「さいでやんすな、同志坊ちゃん。」
……新たな党員ってギャバン少尉とギデオンかよ。ギャバン少尉はまた"こう見えて僕は~"とか言いながらおっぱい談義に加わってたんだろうなぁ……
二人がスィーツを楽しむコンテナの上に新たなイカ頭巾。"首"の縫い取りが入った頭巾、我らが党首、同志アクセルの登場か。
「ジークおっぱい!同志諸君、党大会を楽しんでいるか!」
党首の言葉に党員達が応える。
「「「ジークおっぱい!」」」
「うむ、おっぱいは世界を救う!革新党幹事長、同志カナタ、登壇せよ!」
呼ばれたオレはジャンプ一番、コンテナに飛び乗った。
「我が党の役職は党首であるこの私と幹事長を務める同志カナタだけであったが、党勢の拡大に伴い、副党首を2名、選任する事にした!同志バクラ、同志カーチス、壇上へ!」
貨物用フックにぶら下がってコンテナに上がってきた二人に、同志アクセルは"副"の縫い取りが入ったイカ頭巾を手渡す。風紀委員との戦いで主戦力となるお二人には、是が非でも副党首になってもらわねばならない。そのコトを理解しているお二人は、快く新しいイカ頭巾をかぶり、就任の挨拶に挑んだ。
「お呼びとあらば仕方ねえ。俺が副党首をやってやらあ。」 「これは極秘情報だが、SS委員会とかいう新しい風紀委員が編成されたらしい。野郎ども、締めてかかれ!」
"おお!!"と鬨の声を上げて応える同志達。熱狂が冷めやらぬ前に、今夜の党大会の目的を話しておこうか。
「敵が戦力を増強してきた矢先に臨時党大会を開催したのには訳があります。"売られた喧嘩は買ってやる"までのコト!」
望遠鏡を持って高台に陣取っていた物見のイカ頭巾が大声を上げる。
「幹事長!その凛誠がやって来たぜ!見慣れねえ連中も混じってる!」
さっそく来たか。
「同志バクラ、党首と職員党員を連れて地下道から脱出を!同志カーチスは裏、オレが表を抑えます!」
摘発慣れしている我が党の党員達はテキパキと動き、トンズラの準備を始める。
作業用フックをブランコ代わりに使って正面入り口に立ったオレは、訓練刀を抜いてガサ入れに備えた。
力尽くでシャッターを押し上げて姿を見せたのは怖~い顔したアビー姉さん、やはり正面担当はこの人だったな。
「……アタシはねえ、マジでムカついてんだ。前回の押収物の中に、アタシのアイテムは一個もなかった。一応、ガーデン一の巨乳のはずなんだがねえ。アタシにゃ、そんなに……そんなに色気がないってのかい!」
なんで激おこなのかと思ってたら、そんな理由でしたか。
「アビー姉さんのアイテムは激レアなので、いの一番に持って逃げるからですよ。市販品みたいな健全健康路線じゃなく、艶のあるお写真がホントに少ないですから。」
司令の話じゃ「壊し屋」アビーの人気は、キッズに集中してるらしいからな。市販されてるグッズも、子供向けが多いんだそうだ。
「へ? そうなのか?」
「ええ。ノーブラタンクトップでお酒を飲んで、はにかむ表情を見せてるお写真、"恥じらい姐さん"は党員投票でSSランクの付いた希少アイテムです。正直、オレも欲しいです。」
「な、なんだか照れるねえ……」
「アビー!照れてる場合か!」
シグレさんに喝を入れられ、我に返るアビー姉さん。気を引き締めたアビー姉さんが正面、シグレさんはサイドに回る。
部隊長二人が相手か、しんどそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます