新生編22話 新たな敵、生活指導委員会(通称SS委員会)



円卓会議を終えた十二神将は席を立ち、退出してゆく。ガーデン三バカと揶揄されるトリオはなんだかんだで仲が良く、一緒に飲みに行くみたいだ。


「おう、カナタもキャバクラに行ってみっか?」 


実に魅力的な提案をバクラさんから受けたが、音もなく背中に忍び寄る気配を二つ、感じ取れる。


「口先だけのおめえのこったから、まだキャバクラ童貞なんだろ?」


「カーチス、カナタはキャバクラ童貞じゃなくて、ガチの童貞だろうがよ。おい、カナタ。この夜遊びの達人が…」


トッドさん、オレは童貞貴族は卒業したんです。キャバクラに興味はありますが、命と天秤に賭けるほどじゃない。ここは首を振っておくしかないな。


「トッド、私の弟子を悪の道に誘うな。飲みに行くぐらいならいいが、キャバクラは許さん。」


オレは水商売だって立派な商売だと思ってるけど、オレの師の見解は違う。ま、師弟といえども見解が異なる場合はある。シグレさんの水商売への考え方は"必要悪"なのだ。


「そういやアタイはまだカナタのサロンに行った事がないねえ。」


背後から囁かないでください。返答によっては刺されそうな怖さがあります。


「じゃあオレのサロンで軽く飲みますか。センスの良さは保証しますよ。」


「おや、"自信あり"なのかい。」


「ええ。全部、"リリスがコーディネートした"んで。」


「……あのちびっ子に依存し過ぎだ、馬鹿野郎。歳が倍以上違うだろうが!」


「もうじき倍以下になりますよ。4月4日がリリスの誕生日ですから。」


「カナタ、4月4日は…」


「ナツメの誕生日でもある。プレゼントの相談でもしましょうか。」


オレやシオンみたいに"戦地で迎える誕生日"なんてコトにならなきゃいいんだがな。オレと同じ月生まれのシオンも、大戦役のさなかに誕生日を迎えてしまったのだ。形ばかりの祝いはしたが、激戦の真っ最中に呑気にバースデーパーティーをやる訳にもいかない。オレはともかく、シオンには悪いコトをしちまったぜ。


「そうだな。シグレも行くだろ?」


「残念ながらまだ仕事が残っている。司令、前から言っているが、実戦部隊と憲兵を兼任するのはいささか無理がある。対策は打ってくれているのだろうな?」


「ああ。ロールマリーを中心にした生活指導委員会、通称"SS委員会"を設立させた。今からマリーを憲兵局に向かわせるから、仕事の分担について協議してくれ。00番隊の出撃頻度は他隊よりも低い。相当量の仕事をマリーに振ってくれて構わん。」


SS委員会ねえ。地球生まれのオレにはSSって言葉は不吉に響くぜ。ちょび髭の独裁者を支えた親衛隊と比べたら失礼なんだろうが……


「助かる。ではマリーと相談して治安向上の策を練ろう。」


「そうしてくれ。昨今、我らが薔薇園で「おっぱい革新党」を名乗る不逞の輩が跳梁跋扈していると聞いた。奴らを徹底的に取り締まり、風紀を守るのだ。」


なぜ、そこでオレを見る。しかもみんなして。オレがおっぱい革新党のナンバー2であるコトは、まだ立証されていないんだぞ。一度も検挙されたコタァねえんだからな。


「そういう事だ、カナタ。推定無罪の原則が生きていてよかったな。だが今までとは違う。師である私をしのぐ力を身につけた以上、一切加減はしない。憲兵局局長として不逞集団の首魁に出会えば、全力で殺りにいくから、覚悟するのだ。」


宿敵"凛誠"に、新たな敵"SS委員会"か。ガーデンに全部隊が集結している間に臨時党大会おっぱいマニアフェスを開き、対策を協議しておく必要があるな……


──────────────────────


オレのサロンのミニカウンターにマリカさんと並んで座り、深みがある赤いワインが注がれたグラスを持って、乾杯する。


「フフッ、凛誠だけでも大変だってのに、SS委員会まで設立されるたぁねえ。おっぱい革新党の幹事長さんはどうするんだい?」


オレのプライベートサロンにはマリカさんの好きなワイン"ムーランルージュ2085"が常備してある。こんな風にマリカさんと飲む機会に備えてのコトだ。


「なんのコトだかわかりませんね。おっぱい革新党? そんな組織、初めて聞きましたよ。」


マリカさんは着崩した軍服のボタンをさらに外し、ブラを思いっきり寄せてくれた。い、今、一瞬だけど、ピンクの丸みが見えちゃったぞ!


「目が口ほどにモノを言ったな。やれやれ、今さら赤くなンな。チラ見するどころか、ガッツリ見たし、入念にたっぷりと、これでもかってくらいに触ってイジってこねくりまわした乳だろうが。」


「……がっつきまくって、すいません。でもオレの中ではマリカさんのおっぱいは"乳神様"なんです。」


「女神様扱いは気分がいいねえ。だったら少しサービスしてやろう。」


マリカさんは背中に手を回し、プチッとブラの留め金を外して、上着を着たまま、器用にブラを外してみせた。ピンクのいけない丸みが軍服のシャツからギリギリ見えないぐらいに胸を寄せて、ワインの瓶をアゴでしゃくる。


「ワイン? ワインを飲ませろってコトですか?」


「違う。注げって事だよ。ここにとっておきのグラスがあンだろ?」


マリカさんは寄せた胸の谷間をアピールしてくる。寄せ上げられた艶のある巨乳の谷間は、最高の芸術品グラスとしての役割を果たしてくれそうだ!


「いいんですか!いいんですね!」


「早くしないと、アタイの気が変わっちまうかもしンないねえ?」


ここで気が変わられでもしたら、オレは一生後悔する!震える手でマリカさんの胸の谷間にワインを注ぐオレ。な、なんて蠱惑的な光景なんだ!生きててよかった!神様、いや、眼前の女神様、ありがとう!!


「フフッ。最高にヤ二下がった、みっともない面してンねえ。」


悪戯っぽく笑う女神様。オレは一生、この人の胸心の前で踊ってるコトになるんだろうが、こんな素敵なお胸の前で踊り続けるなら本望だ!


「飲み頃に冷やしただけに、少し冷たいねえ。さぁ、アタイを熱くさせてみな?」


頷いたオレは胸の谷間に顔を近付け、ワインを舐めるように啜る。いや、本当に胸に舌を這わせていた。


「……ンッ!……そう、そこ……いい……いい…感じだよ……」


オレの後頭部を両手で抱き抱え、胸に押し付けるマリカさん。……こ、これって据え膳、だよな? いっていいよな!


オレの煩悩は、ブーと鳴ったブザーによって邪魔された。


「カナタ、マリカさんがここに来てるってシグレさんから聞いたんだけど……」


……親友を絞め殺したいと思ったのは初めてだ。ま、シュリならしゃあねえ。


「カナタ、レッスンの続きはまた今度だ。」


外したブラをポケットに突っ込み、素早く着衣を整えたマリカさんは、何事もなかったかのように、インターフォンに応答する。


「シュリかい。入ンな。今、カナタと飲んでたトコだ。」


サロンに入ってきたシュリにマリカさんが椅子を勧め、オレはサイコキネシスで冷蔵庫から白ワインを取り出す。


「白も開けるよ。シュリの好きな銘柄も揃えてあんだぜ。」


「コルクを抜くのは少し待ってくれ。飲む前にマリカ様に報告がある。」


「報告? なンだい?」


椅子にお行儀良く座ったシュリは、お行儀悪くカウンターに腰掛けたマリカさんを見て咳払いした。


「コホン。マリカ様、火隠の里長ともあろう…」


「アタイの行儀は今更直らん。報告ってのは何だ?」


「……え、え~と。実は、その、僕は妻を娶ろうかと…」


「かと、じゃない。アタイが反対したら諦めンのかい? "僕はホタルと結婚する事にしました"と言え。」


「はい!里長であるマリカ様を差し置いてとは思いましたが…」


「そういうのを"いらぬ気遣い"って言うンだよ!ま、めでたいこった。幼少期からおまえらを知ってるアタイにしてみりゃ、"やっとか"という感じがしないでもないが。」


「少しは驚いてくださるかと期待したのですが……」


無理な願望を抱くな、友よ。おまえらの結婚にサプライズの要素なんか何一つない。せいぜい幸せになりやがれ!


「期待に応えて驚いてやりたいが、本日二人目の結婚報告だからな。新鮮味という点でも二番煎じだ。」


本日二人目?……あ!カレーの教祖様も……


「ラセンさんもゴールインですか。めでたい話ですね。」


めでたい、と聞いてマリカさんは苦笑いした。


「"めでたい"は、正確じゃないね。"おめでた"というべきなのさ。」


……マジかよ。あのチャッカリマンめ、本当にチャッカリしてやがるぜ。


「……マリカ様、とりあえずラセンさんを呼び出しましょう。」 「以下同文。」


「そうだねえ。ついでにヒムノンも呼んで"バチェラー独身さよならパーティー"でもやるか。」


女性マリカさんが混じってたら、バチェラーパーティーになんないと思うけどな。




これで独り者が圧倒的多数を占めるガーデンに、少数派がちょっとばかり増えるコトになるな。結構、結構。


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