新生編21話 円卓会議



シュリと飲み明かした翌日、訓練を終えたオレは命龍館に赴き、姉さんに事情を説明した。


「じゃあ姉さん、そういうコトですので、よろしくお願いします。」


「はい。姉さんに万事お任せあれ。盛大な式になりそうですね。三組合同の挙式となると。」


「そっちはまだ確定じゃありませんけどね。シュリ達の挙式は姉さんのお社で、その後にお色直しをしてから教会、という流れになると思います。バイトシスターのキワミさんは、"さすがに式を挙げるのはプロに任せます"と言ってましたから、ロックタウンから神父様に来て頂くコトになりそうです。」


「ふふふ、シュリさんがどんな顔で式を迎えるのか、とても楽しみです。」


「オレもですよ。あの堅物がどんな顔して新郎席に座るのやら。ま、固い表情&真面目くさったままで、椅子の上に固まってると思いますけど。」


ん? オレのハンディコムが鳴ってる。おどろおどろしいラスボスのテーマは司令からの着信だ。


「はい。こちら…」


「つかみは要らん。カナタ、円卓の間までこい。」


手短に要件を伝えた司令は、すぐに電話を切ってしまった。


……円卓の間。部隊長だけが入室を許されるあの部屋か。ってコトは円卓会議とやらが行われるんだな? 現在、部隊長全員がガーデンに集結している。新たな作戦が発令されるのかもしれない。


「カナタさん、なにかあったのですか?」


心配そうな姉さん、何事もない風を装ってもきっと見抜かれてしまうだろう。オレの秘密を全て知っている姉さんに隠し事をする気もない。だったら、素の自分でいい。厳めしい顔を作ったオレは答えた。


「これからある、みたいです。それでは。」


司令は龍の島を舞台に大規模作戦を計画しているはず。その打ち合わせ、という可能性が濃厚だな。


──────────────────


円卓の間にはオレ以外の部隊長が勢揃いしていた。


「来たな、末っ子。オメエの席はマリカの隣だ。」


バクラさんに促され、大きな丸いテーブルを横切って、椅子の前に立つ。


勾玉を模した見事な出来栄えの握り手飾り、艶のある天然革の背もたれには狼のエンブレム。位負けしそうなぐらい立派な椅子だぜ。


オレが着座すると、トッドさんが感想を述べた。


「まあまあサマになってるじゃねえか。カナタの事だから"パイプ椅子でいい"とか言い出すだろうと思ってたんだがな。」


そのつもりだったんですよ。でも……


「カナタの椅子はアタイとシグレからの贈り物だ。ほっとくとカナタは本当にパイプ椅子に座りそうだからねえ。」


「カナタはトッドのような目立ちたがり屋ではないからな。」


「座るのが勿体ないぐらいいい椅子です。マリカさん、シグレさん、ありがとうございます。」


左右に座る椅子の贈り主二人にお礼を言い、ボスの到着を待つ。


「皆、揃っているようだな。トゼン起きろ!始めるぞ。」


1分もしないうちに中佐を伴った司令が現れ、舟を漕いでいたトゼンさんを起こした。


円卓の間に置かれている13の椅子は埋まった。部隊長達の集う円卓会議が始まる。


──────────────────


中佐が手元のパネルを操作すると、円卓の中央に地図が浮かび上がり、腕組みした司令が説明を開始する。


「我が第11師団が中核となり、龍足大島の攻略に着手する。最初の攻撃目標は大島攻略の橋頭堡となる泡路島だ。」


泡路島、元の世界でいうところの淡路島だ。だがこの島は……


「おい、イスカ。島全体が要塞化されてる泡路をどう落とす。まさか力押しって訳じゃああるまい?」


体を要塞化してるカーチスさんの問いかけに司令は答えた。


「お望みならそうしようか? フッ、そんな顔をするな。策は考えてある。作戦の第一段階として、ステルス揚陸艇で侵入した精鋭が高々度砲撃が可能な砲座を潰す。そして飛行船に搭載した後続部隊が島を目がけて高々度降下する。実にシンプルな作戦だ。」


憮然とした表情のイッカクさんが、面白くなさげに述懐した。


「八岐大蛇攻略作戦の時といい、またマリカ頼みの作戦か。だがいかにマリカでも、島に点在する高々度砲座全部を潰すのは容易ではないぞ。」


「イッカク、第一陣がマリカだけとは言っておらんぞ。それを相談するべく、招集をかけたのだ。マリカ、迅速に砲座を潰すのに必要な人員を挙げてみろ。第一陣が高々度砲座を潰すのが、この作戦の大前提じゃ。」


中佐の提案を聞いたマリカさんは煙草に火を点け、思案し始めた。2分ばかり考え、短くなった煙草を灰皿に押し付けてもみ消したマリカさんは、トッドさんに目を向ける。


「まずはトッドだね。」


「だろうな。不測の事態が確実に想定される以上、どんな状況にも対応出来る俺の力は必須だろうよ。」


危険な任務に選抜されたトッドさんは満足げだった。


「後はシグレとダミアン。」


「心得た。」 「了解だ。」


シグレさんはマリカさんのベストパートナー、最強忍者のやり方を一番熟知している侍。ダミアンを選んだのは、けれん味がなく、戦闘能力もメンタルも十二神将随一の安定感を持ってるからだろう。


「それにカナタだ。」


え!? オレかよ!


「マリカさん、オレですか?」


マリカさんはホログラムの地図を指差しながら、頷いた。


「ああ。カナタ、島の防衛施設をよく見てみな。高々度砲座は大きく分けて南北に分布している。つまり、二手に部隊を分けて、同時攻略する必要があンのさ。」


……なるほど。揚陸可能と思われるポイントは一つ。そっからは別行動を取らなきゃいけないな。北を潰してから南、という訳にはいかない。機構軍に奇襲から立ち直る時間を与えてしまう。しかも攻撃目標が高々度砲座となりゃあ、"降下部隊が控えてます"ってバカでも悟る。南北の砲座を同時攻略、間髪入れずに部隊を降下、それがこの作戦の生命線だ。


「アタイがシグレを連れて北側、カナタはダミアンを連れて南側の砲座を潰す。トッドは陽動、撹乱をやって南北の部隊をサポートだ。イスカ、アタイのプランはこんなもんだが?」


マリカさんから編成を聞かされた司令は、腕組みしたまま頷いた。


「いいだろう。だがマリカ、トッドにはトキサダ先生もつける。軍略に秀で、シグレの師でもある「達人マスター」トキサダだ。トッド、役不足とは言うまいな?」


「俺にお守りをつけようってのかよ。まぁ壬生の親父っさんならいいか。用心棒の先生、よろしく頼まぁ。」


「うむ。「流星」トッドの手並みを間近で拝見させてもらうよ。」


要塞化された島の攻略作戦だ。十二神将全員でかかる必要がある。姉さんの安全確保に関しては、司令と直に相談しておく必要があるな。


「イスカ、アタシも第一陣に加わった方がよかないかい? 硬くてトロいもんをぶっ壊すのはアタシの最も得意とするところだよ。」


「アビーの部隊は機動力に欠ける。第一陣は電撃戦をやるのだぞ?」


部隊ごとの参加は無理でも、アビー姉さんやキーナム中尉みたいな、パワフルだけど足もそれなりって兵士に個別参加してもらう手はありだよな。


「司令、検討する価値はあると思います。アビー姉さんやキーナム中尉なら、並の軽量級にスピード負けしてない。第一陣が高々度砲座を沈黙させられなきゃ、作戦そのものが成立しないんだ。第二陣との戦力バランスの兼ね合いは難しいところですが、第二陣にはよその師団から助っ人を借りるって手も取れます。」


「……ふむ。カナタの言う通りだな。第一陣が任務を達成出来なければ、第二陣の投入もかなわず、極めて危険な戦場からの撤退戦を余儀なくされる。ならば、第一陣の成功に注力すべきか。我々の辞書に「作戦失敗」の文字はない。……ハク、トゼンを起こせ。」


トゼンさんの襟首から顔を出したハクが、コックリコックリとまた舟を漕ぎ始めたトゼンさんのほっぺを尻尾でペチペチ叩いて起こしにかかる。


「……んあ? もう話ぁ終わったのかい?」


「まだ始まったばかりだよ。トゼン君、今度居眠りを始めたら、私は昔話を始めるかもしれないよ?」


「しつけえ親父だぜ、まったく。いつまで昔の証文を振りかざしやがるんだ。そのうちバッサリ殺っちまうぞ、コラァ!」


「その時は司令に預けた遺書が公開される事になる。内容はお察しの通りだ。」


「無論、私はその遺書を同盟広報誌リベリオンに掲載させて、全兵士に見せてやるぞ?」


「………ケッ!勝手にしやがれ!」


そっぽを向いたトゼンさんは捨て台詞を吐き、司令と「人斬り」以外の十二神将は笑った。




その様子を見ていたハクは、トゼンさんの首にネックレスのように巻き付いた。アニマルエンパシーを持たない部隊長にも、"首が締まりまちた"と言いたいハクの意想は伝わっただろう。


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