新生編17話 最強兵士のイージーミス


今回までマリカ視点です。次回からカナタ視点に戻ります。


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「満腹なの!」 「ご馳走様でした。マリカ隊長、こんな美味しいミートソースは初めてです。レシピを教えて……くれそうにないですね。」


食べる気しかない妹と、作る気満々のシオンはフォークを置き、カナタは"言葉はいらない"とばかりに黙って皿に手を合わせた。


ここまでは予想通りの反応。問題はこの神の舌を持つ悪魔の出方だ。


「ご馳走様。マリカ、味付けに使ったワインにフェイクを入れたわね?」


バレたか。悪魔の癖に、ホントに神の舌を持ってやがンだねえ。一応、すっとぼけてはみようか。


「フェイク? なんの事だ?」


「わかってんのよ!ワインのラベルと味が一致してない。ラベルを貼り替えたか、それとも空き瓶に違う銘柄を入れて持ってきたかのどっちかだわ。」


お見通しか。大したおチビだよ。


「このミートソースパスタ、万人受けする逸品だけど、特に少尉の好みにピンズドだわ。何が何でもコピってやるから見てらっしゃい!」


ナプキンの端をギリギリ噛むな、お行儀の悪い。おまえ、ホントに元伯爵令嬢なのかい?


「この一皿は、司令には食べさせない方がいいですね。こんな旨いものを今まで隠してたって、世界を滅ぼしかねない。」


「カナタ、いくらイスカでもそこまではやンないだろ。第一、世界を滅ぼす手段なんて、いくらイスカでも持ってない。こっそり、探してそうなのが怖いンだが……」


アタイはジョークを言ってみたが、カナタは笑わず、あっけらかんと答えた。


「無駄を嫌う司令ですから、"もう持ってるモノ"を探したりはしてないでしょ。」


なに!? 世界を滅ぼす手段を……イスカは持ってるってのかい!


「カナタ!そりゃどういう意味だい!」


「珈琲が飲みたいなぁ。リリスブレンドもいいけど……」


「わかったわかった。淹れてやるから、ちゃんと話せよ?」


カナタは突拍子もない事を言い出す男だが、その言葉は理に裏打ちされ、正鵠を射る。アタイはカナタのダメな部分を愛し、怜悧な部分を尊敬しているンだ。


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卓袱台から上がる5つの湯気を前にカナタは話し始めた。ハクはウロコが心配するからか、食事が終わるとドアに付いてるペットドアを潜って、もういなくなってる。


「世界統一機構軍は、大気圏を飛行するあらゆるミサイル、航空機を撃墜可能で、どんな都市でも焼け野原に出来るリミットキャノンを持った攻撃衛星群を持ち、その力を背景に巨大都市達を支配していました。」


「ンなコタァ、ガキでも知ってる!」


前置きが長いのは梟お婆だけで十分だ。要点を話せ、じれったい!


「まぁまぁ、物事と話には順序がありますから。機構軍に搾取されていた有力都市は不平不満を貯め込んでいましたが、逆らうに逆らえなかった。叛逆すれば、都市は灰燼に帰する訳ですから。でも現在、攻撃衛星群はコントロールアウトの状態で、自己防衛機能しか働いていない。ヘリや飛行船以外はお空を飛べない不自由な世界はなんで出来たんでしょうね?」


「アスラ元帥が攻撃衛星をハッキングし、自己防衛機能以外を麻痺させたからです。」


シオンがそう言うとカナタは頷いた。


「そう。そして天空から降り注ぐ雷、そのくびきから逃れた都市達は、自由都市同盟軍を結成し、世界統一機構軍を相手に独立戦争を挑んだ。オレ達はその尖兵ってヤツになるのかねえ。」


「何が言いたいンだ、カナタ?」


「同盟設立の英雄、アスラ元帥は"攻撃衛星群にアクセスする方法を知っていた"ってコトですよ。元帥の死と共にその方法は失われ、現在は誰も衛星群にアクセス出来ないというのが定説ですが、その方法を知っているかもしれない人間がいます。」


あ!アスラ元帥が最重要軍事機密を伝える相手を選ぶなら……


「そう。実の娘である司令をおいて他にない。元帥の腹心中の腹心だったシノノメ中将も知っているかもしれませんが、司令が本命であるコトは疑いの余地がないです。さっき、"世界を滅ぼす方法"と、言いましたが、"世界を滅ぼす鍵を握っている"と、いうのが正確なのかな。そしていくつか推定出来るコトある。」


ポケットから取り出したシガレットチョコを齧るカナタ。脳細胞が糖分を要求しているようだ。


「少尉、推定出来る事って何?」


カナタの考えがまとまるのを察したリリスが問いかけ、カナタは答える。


「まず推定その一、アスラ元帥は攻撃衛星群を無力化は出来たが、コントロール下には置けなかった。それが出来てれば、独立戦争なんざ挑む必要はないから、これは推定以上の確実な事実だろう。」


確かに。衛星群を完璧に奪取出来たなら、機構軍を降伏させればいいだけだ。


「推定その一って事は二があンだね?」


「ええ。推定その二、司令はアクセスコードを持ってはいても、使う気はありません。おそらく機能を麻痺させる為に使ったウィルスの影響で、衛星群を正常に戻すコトが困難なのか、不可能なのだと思います。」


「使うつもりがないとなんでわかる?」


カナタは珈琲を啜ってから、アタイの顔を横目で見た。


「マリカさんがからです。司令が衛星を使うつもりなら、それに関する情報、機構軍が持っているであろう機密情報を、誰かに調べさせる必要があります。その誰かとは、信頼が置けて、最高の能力を持つ密偵か忍者。さて、その誰かとは一体誰でしょうね?」


アタイだな。イスカは火隠忍軍以外にも諜報部隊を抱えてるが、アタイら以上の能力を持つ密偵がいる訳ない。


「カナタの言う通りだねえ。イスカにその気があれば、アタイに機密奪取を命じているだろう。情報が機構軍中枢部にあって奪取不可能でも、そこへ至る道への鍵探しはやらせるはずだ。」


アタイの言葉に頷く三人娘。知ってか知らずか、カナタは頭と飲み込みのいい娘ばかりを集めてる。


「推定その三、司令がアクセスコードを知っているか否かは不分明ですが、ブラフの道具には使っているでしょう。同盟軍高官、おそらく三元帥には"私は攻撃衛星へのアクセスが出来るぞ"と匂わせています。」


推論に推論を重ねるのがカナタの得意技。だが、その推論が事態を打破する力になってきた。政戦両略においては、カナタはアタイの上をゆく。ここは素直にカナタの見解を聞いておくべきだ。


「その意図するところは?」


「保険と恫喝を兼ねています。司令だけがアクセスコードを知っているとなれば、迂闊に手出しは出来ない。そしてある程度は司令の意向を聞いてやらないと、無茶をしかねない。コントロールは無理でも、暴走させるコトは可能かもしれないんですから。司令ならそう思わせておくコトのメリットに気付き、恩恵を享受するでしょう。」


……あり得る話だ。カナタに聞かされるまで、そんな事にも気付かなかった自分の迂闊さに、歯軋りしたくなってきたが……


「わかった。カナタ、その話は誰にもするな。アタイら以外は知らない方がいい話だ。」


イスカはカナタを警戒し始めた風がある。才気が自分の首を絞めた事例は枚挙に暇がないンだからな。例え世界中を敵に回しても、アタイはカナタの味方になってやるが……


「オッケー、陰謀話はここまでにして、今日の仕事を始めましょう。」


そう言いながらリリスが立ち上がり、皆を促す。アタイも着替えるとするか。背嚢に軍服を詰めてきてたっけな……


「ちょっ!マ、マリカさん!!」


若いのは知ってるが、アタイの下着を見たぐらいで鼻血を吹くのかい? アタイが"男"にしてやったってのに、気分は今でも童貞貴族なンだねえ。


「ちょっと!痴女キャラは私のキャラでしょ!パクらないでよ!」


リリスほどの痴女じゃないっての。アタイのは正攻法の大人の色気だ。


「相変わらずいい乳。さすが姉さんなの……」


だろう? 自分でも思うが、モデル顔負けの…


「とにかく胸を隠してください!隊長が失血死する前に!!」


そこまで大袈裟に騒ぐ事かい。これだから純情屋は……あ!



……そうだった。アタイはノーブラで忍んできたんだったねえ。ま、カナタも幸せそうなツラしてるし、よしにしときな。


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