終わりは呆気なく。

私はベランダに出てみた。


あぁ、何が起こったのだろう。そこはもう、私の知る街ではない。全てがぐちゃぐちゃだ。寝る前に見た鉄塔も、ご近所さんのお家も、恐らくこの世界全てが。


地は裂け、街は沈んでいく。私の周りには、小さな妖精が沢山飛んでいる。その子たちはとても嬉しそうに私の周りを飛んでいる。状況が全く理解できない。


私はこのまま、訳の分からないまま死んでしまうのだろうか。それとも、これは夢なのだろうか。目を覚ませば、またあの平穏な毎日に戻ることができるのだろうか?


私は空を見上げ、空に落ちたいと願った。


東の空には今までに見たことのないほど大きな月が昇っていて、私の目は月に釘漬けになった。なんと大きな月だろうと。


私がしばらく月を見つめていると、月は突然動き出した。いや、月が動き出したというよりも、地球の自転速度が上がったのかもしれない。本当に一瞬で私の頭上へと昇ったのだ。


月は真上に来ると動きを止めた。すると、少しだけ明るさを増した。私はそれをずっと凝視していると、意識だけが月の近くまで引っ張られたのかと思うほど月の表面がよく見えた。月の表面上には、かぐや姫が住んでいるのかもしれないと思わせるほど立派な寝殿造の建物が見えた。その周りにも沢山の家が建ち並び、そこには街が形成されていた。


私の意識は一瞬で引き戻された。そして、月は空に飲み込まれるように姿を消した。


月がなくなるのと同時に、地球の中心からエネルギーが放たれているのを感じた。月があったことで抑え込まれていたのかもしれない。私は落ちていたはずなのに、次は空に向かって飛んでいる感覚がしている。


いつも通りの日々を送りたかっただけなのに、最後は全てが消滅するのか。平穏な毎日を守りたかっただけなのに、その行い全てが無意味だったのだろうか。そんな今となっては意味をなさないことばかり考えてしまう。


あぁ、いつから狂い始めたのだろう…私の平穏な世界。


もう考えるのはやめよう。私は最後はせめて夢を見ていたいと、ベッドに戻った。妖精たちは私に着いてきて、私を囲んだ。


私の狂ってしまった世界よ、さようなら。

いつも通りのあの夢を。おやすみなさい。

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