第十七話 困惑 3
二次会に行くという一行を見送って、ククルと河東は帰路についた。
なぜこのふたりかというと、ユルが河東にククルを送るよう頼んだからだ。
「雨見くんは、強制二次会かあ。大変だね。主役だから仕方なし、だけどさ。さっ、行きますか和田津氏! 雨見くんに頼まれた以上、しっかり送り届けるでござるよ!」
「あ、ありがとう河東さん」
「でも、途中から元気なくなったね。雨見くんに説教でもされた?」
「そんなところ……」
夜道を歩きながら、会話を交わす。
「あーあ、またお助けキャラみたいなこと言ってるなあ。でも、君たちってくっつくかくっつかないかハッキリしないから周囲が困るんだよね」
「困る?」
「僕はともかく、エルザとかは苦々しく思ってるんじゃないかな」
「…………そう言われても、難しい。私とユルの関係は、一言で言えるものじゃないし」
「んじゃ、エルザと雨見くんがくっついてもいいの?」
「それは――」
「ほーらね。今日見てても思ったけど、和田津さんは嫉妬してるんだよ。ただ、その嫉妬を見せたくないと思って隠しているだけで。うおう、僕マジでお助けキャラだな!」
嫉妬をしていると指摘されて、ククルはぎくりとした。
(当たってるのかも……)
「だーかーらー、そこで落ち込むんじゃなくて行動に出ればいいじゃんって話だよ。僕は三次元には詳しくないから、上手いアドバイスはできないけどね」
「行動って、どういう行動?」
「う、それを聞きますか。まあ、一番いいのは告白じゃないかな。多分、このまま待ってても雨見くんは君に手を出すとは思えないんだよね。雨見くんって、何か君にすごく遠慮がない?」
「遠慮……?」
あの傲岸不遜とも言えるユルが、ククルに遠慮なんてしているだろうか。
「よく、わからない。でも、私はこのままの関係を変えたくない」
「あー、それか。多分、雨見くんもそれを察しているんだ。君が一歩進まない以上、関係は変わらないよ。それがいいのか悪いのか、僕にはわからないけどね……。うわー、お助けキャラを通り越して
河東が喋っているうちに、アパートの前に着いた。
「送ってくれてありがとう、河東さん」
「どういたしまして。なんちゃって、僕は紳士だなあ……ぐふふ。またね」
「気をつけてねー!」
手を振って河東を見送り、ククルは階段を上がった。エレベーターもあるのだが、あの閉塞感が好きになれなくて、大荷物でないとき以外はいつも階段を使っていた。
階段を上り切って、息をついた瞬間――ククルは青ざめた。
目の前に、白い琉装をまとった女が立っていたからだ。
「……ウイ」
殺したはずの、毒蛾の
「お久しぶり」
「なぜ、ここにいるの! あなたは死んだはず!」
「ふふ。あれほど時が流れれば、残ったかけらが再生することもできましょう」
ウイは目を細め、艶やかに笑った。
「あなたは、何をしに来たの」
気圧されずに堂々と問いかけると、ウイは首を傾げた。
「何だと思います? それを教えるほど、親切ではありません。私は、あそこにいますよ。来るなら来なさい。それでは……」
ふっ、とウイの姿が消えた。
気が抜けて、膝をつきそうになる。
もう誰もいない空間を見つめて、ククルは唇を噛む。
ククルがひとりのところに来たのに、何も仕掛けてこなかった。
(「あそこにいる」って言ってたし、あれは分身? そもそもウイの気配って、あんなのだっけ……?)
ウイは、まるで手招いているかのようだった。やはり彼女は琉球にいるのだろうか。
いるなら、八重山ではなくて本島だろう。八重山ではククルの力が増すから、今までは手を出せなかったのかもしれない。
(ウイは、何を考えているかわからない。あの
ユルに言えば、退治すると言い出すだろう。いくらユルや天河が強くても、ウイに何か策があるなら、どうなるかわからない。危険だ。
ククルは考えた結果、今回の
夜中に物音がして、ククルは目を覚ました。
部屋から出て、居間に行く。ちょうど、ユルが帰ってきたところだった。
「何だ、お前。寝てたんじゃないのか」
「……うん。音がしたから、起きちゃった」
「悪い」
「ううん。少し、私が過敏になってたせいだと思うから。ユルは悪くないよ」
ククルの言葉を聞いて、不審そうにユルが眉を寄せる。
あれ、と気づいてククルは手を伸ばしてユルの額に触れる。
(
しばらく琉球に戻っていないせいだろうか。
大和でも命薬で浄化は行っていたが、やはり琉球の海でないと完全に浄化はできないのだろう。しかし、それだけではない気がする。
「何やってるんだ?」
「……ううん。ユル、体の調子悪かったりしない?」
「別に。何か、変なのか?」
「うーん。少し、違和感があるんだよね。でも、もうすぐ琉球に戻るし、そこで完全に浄化すれば大丈夫だと思う。……じゃあ、おやすみ」
くるりと踵を返し、ククルは自室に戻るべく歩を進める。
背中にユルの視線を感じる、と思ったところで閃いた。
(……そうだ。濁りじゃない。まるで、霊力が削れているみたいだった……)
ようやく言語化できたところで、ククルは振り向く。もうユルはいなかった。
琉球に戻ればもっと詳しくわかるだろうと考え、ククルは一旦忘れることにした。
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