第4話 どっちを選ぶんだ

 かたや男だけのむさ苦しいパーティが『サッコマーニ隊』。

 かたやリーダー以外全員見目麗しい若い娘なハーレムパーティの『チョー強い俺様と仲間たち』。

 対照的な二つのパーティだった。


「ジャイアントキマイラの身体にあんなに身軽に登れるなんて、凄いなお前ぇ!」


 ラルフと名乗ったハーレムパーティのリーダーがにこにこと話しかけてくる。

 うっ、リア充の側の人間だ……。


「しかもこの人はソロでここまで潜ってきたらしいぞ」


 うわ、眼鏡魔術師のサッコマーニにバラされた! 俺の無知を!

 俺を晒し者にして楽しむ気か!


「ソロで!? 命が惜しくないんですか?」


 ハーレム隊の聖職者っぽい女の子に驚かれてしまった。

 ええ、そんなに命知らずなことしてたのかな俺。


「しかしそりゃまた随分な実力者だな」


 むさ苦しいサッコマーニ隊の中で一番むさ苦しい戦士が顎に手を当てて唸る。

 そんなに珍しいことなんだろうか……?

 道中の魔物もあんまり強くなかったけれど。


「まあいい、とにかく強敵も倒したことだし休憩しながら解体しようぜ」

「何故貴様が仕切るんだ」


 へらへらと提案したラルフにサッコマーニが噛み付く。


「あ? 別に誰が音頭を取ったっていいだろォ、もっともなことを言ってるんだし」

「いいや、常々思っていたが貴様の態度には我慢がならん。大体さっきジャイアントキマイラに遭遇した時も……」


 そのままくどくどとサッコマーニの小言が始まってしまう。

 どうやら二つのパーティのリーダーたちは仲が悪いようだ。


「うちのリーダーたちはいつもああなんだ。落ち着くまでゆっくりしてようぜ」


 サッコマーニの小言にラルフが言い返し、二人の喧嘩が始まった。

 パーティメンバーたちはそんな二人を差し置いてさっさとキャンプの準備を始めてしまう。

 慣れてるのだろう。


「では私が陣を張ります」


 聖職者の女の子が前に進み出て、ワンドを掲げる。

 するとジャイアントキメラの死体を中心に、四方が半透明の壁で囲われた。

 一体何をしたんだろう?


「そういえばあんた、一体ソロで陣はどうしてたんだ? 聖術使いには見えねぇが」


 むさ苦しい戦士が話しかけてくる。


「陣?」


 俺は眉を顰める。一体何のことだろう。

 ううっ、俺の知らないことが多すぎる。


「……まさか魔除けの陣を張らずに休憩してたのか?」

「いや、まっすぐにここまで下りてきた」


 道中楽勝だったし、さして魔物の数も多くなかったから休憩を摂る必要はなかった。


「まっすぐにって……魔物の解体は?」

「?」


 魔物の解体って絶対にしなきゃいけない作業なんだろうか。

 そういえば他のパーティメンバーたちがデカキメラことジャイアントキマイラを解体する準備を着々と進めている。


「魔物の解体をしてない、だと……っ!? なるほど、理解した。戦いの場だけを求めて此処まで来た修羅ってことか。流石この階層までソロで来る奴は違うな」


 いや、食い扶持を稼ぐために来たんだけど。

 でもそれを口にしたら馬鹿にされそうな気配を感じたので、黙る。

 どうやら俺は何かを決定的に間違えてしまっているっぽいぞ。


「魔物を倒したら魔除けの陣を張り、解体しつつ休息を摂る。それがダンジョン探索の基本です。だって狩った獲物の素材を売って日銭を稼いでいるのですから。でもそれを度外視して突き進めばソロでも深くまで潜って来られる……盲点でしたわ」


 聖職者の女の子が納得したように頷く。

 何か彼らの認識の中で俺が凄い戦闘狂みたいな感じになってしまっているんだが。


 それにしてもそうか、魔物の素材って売れるのか。

 それが冒険者の主な収入源らしい。

 知らなかった、そんなこと……


「ところで、あなた方のリーダーは仲が悪いようだがどうして一緒に?」


 何とか話の矛先を逸らしてみることにする。


「ああ、それな」


 戦士のおっさんが答えてくれる。


「俺たち二つのパーティは実力が伯仲していてな。大体同じような階層の同じような場所を探索することが多い。だから偶然鉢合わせることも少なくないし、獲物の取り合いをしたことも何回かある。だからか俺たちのリーダーはライバル意識があって張り合ってるんだ。

 それで今日はジャイアントキマイラを見つけて様子見してたら、ラルフたちのパーティがやってきてな。俺たちだけではジャイアントキマイラを狩れるか怪しいが、合同で狩ればいけるだろう。ということでさっきは協力していたって訳だ。コンビネーションは最悪だったがな」


 おっさんはおどけて肩を竦める。


「ふうん……」


 二人のリーダーを見やると、今度は分け前の配分で言い合いをしているようだった。

 ちょっとこれは口を挟まなければならないのではないだろうか。


「ちょっと、いいか」


 白熱している様子のラルフとサッコマーニに話しかける。


「あ?」

「どうした?」

「あの魔物を倒した分け前の話ならば、俺にも参加する権利だと思うのだが」


 正直喧嘩をしている二人に話しかけるのは、汗が滲むほど緊張する。

 でも俺は魔物の素材を剥ぎ取らなければいけないことを知らず、ここまで全部魔物の死体を棄てていってしまった。

 ここで俺の分の分け前を貰えなければ今日の収入はゼロになってしまう。


「あっ、すまない。忘れていた」

「そういやそうだったな。ついヒートアップしちまってな」


 危ないところだった……。

 自分から言い出さなければどうなっていたことか。


「それで俺は新参者だから、こういう時冒険者はどのように山分けするのか教えてくれないか?」

「ああ、もちろん」

「まず素材を売り払ってから売り上げを山分けするのか、それとも素材を直接山分けするのかどっちなんだ?」

「そりゃ素材を山分けだな。素材を持ち帰るのだって一苦労なんだ、素材をより多く持ち運びしたパーティがより多く儲けるべきだ」

「その点では私もラルフも一致している」


 なるほどな。

 あれ……俺、大きな荷物を持ち運ぶためのもの何も持ってないんだけど。

 ずた袋一つしかないぞ。俺ヤバくね?


「じゃあ貢献度に関係なく素材を多く持ち運べるパーティが得をするのか?」

「いや、持ち運べる量はあくまでも上限だ。そこからさらに戦闘に貢献した順に配分したいとは考えている」

「そしてそれが問題なんだ」


 どうやらどちらのパーティがどれだけ貢献したかで揉めているようだ。


「前衛の多い俺様たちのパーティが長い間身体を張って敵の攻撃を受け止めてたんだ。命を張っていた方が貢献したと言えるんじゃねえか?」


 『チョー強い俺様と仲間たち』パーティはリーダーラルフが剣士でその他にもう一人斧を持った美少女の戦士と、あとアサシン?盗賊?みたいな美女とさっきの魔除けの陣を張ってくれた聖職者の女の子の四人のようだ。


「最後に後衛が集中砲火した時以外ろくにダメージを稼げていないだろう。後衛の多い私たちの方がダメージのほとんどを稼いだんだ。私たちがいなければあのジャイアントキマイラを倒せなかったと言い換えてもいい」


 『サッコマーニ隊』は隊長のサッコマーニが魔術師。あとさっきのおっさんの戦士と、のほほんとした青年の聖職者。そして金髪をなびかせた伊達男っぽそうな弓兵の四人だ。


 確かに彼らは前衛多めのパーティと後衛多めのパーティと見事に傾向が分かれているらしい。


「何を言うんだ、俺様たちがいなかったらキマイラの猛攻に耐えられなかった癖に」

「それを鑑みても貢献度が高いのは私たちの方だ。君もそう思うだろう?」

「えっ」

「あ? それを言うなら俺様たちの方だろ、な?」

「えっ」


 突然矛先が俺の方に向く。

 ど、どうしろって言うんだ俺に!?

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