第5話 さぁ、序章はおしまいだぉ

  母さん。お元気でしょうか?

 地元の尾道おのみちは今現在、冬でしょうか? それとも夏でしょうか?

 どちらにせよもう母さんも若くはありません。季節の変わり目には風邪などひかぬよう身体を温かくされてお過ごしください。


 ――って!


 何だ。このラベンダー畑を思わせる様なBGMの元俺の語りから導入される冒頭は!


 第一、ここはどこなんだ!

 あのジジイの所から飛ばされたのはいいがそこは何も見えない暗闇だ。

 更に、腕と足を縛られてるのか全く動きゃしない!

 まぁ……腹の空き具合からして大した時間は経過って無いと思うが……。


 そもそも、俺は何であんな爺さんの言葉を信用したのだろう。

 いやでもしょうがないじゃないか。

 死んだ先の世界なんて俺も初めて行ったんだから、あいや逝ったんだから。そういうもんだって言われたらそれを信用するしかないじゃない。

 しかも、生前の業の事とか褒められたご褒美だなんて言われたら。

 もう信じるしかないじゃない。


 くそ。涙も出て来やしねぇ。

 しかし、どうしたもんかねぇ。

 俺の状況は一体どうなってんのかねぇ。

 そして、この暗闇が晴れたその時は。

 本当に、俺は異世界に送られてるのかねぇ……。


 そうなのだ。

 今までの俺の運の無さを考慮すれば、異世界転生なんて大技が失敗する可能性は充分すぎる程に高い筈だ。開けて出てみてジャンジャジャジャン。前居た世界でした~。

 なんて事もあるかもな。

 ははは。となれば、ここは墓の下か? 俺が蘇ってきたら異世界ファンタジーから一転ゾンビホラー作品にジャンル変更だな。

 ……。いや、それはシャレになってないんじゃないか?

 あ~~もうっ! そろそろ何か展開が有れよ! なんだ。この俺の心理描写だけで進んでいく構想は! 昨今流行りのなろう小説とかだとこんなん、まず読まれずに底辺決定だぞ!

 なんにしても、展開。展開が昨今のWEB小説のキモだろうよ!


 そんな事を激おこぷんぷん丸な俺がふんがふんがと鼻息荒く思っていた時だった。


「あ~、のう。のう玉木健司や。聴こえるか? 」

 そこに響き渡ったのは、間違いなくあの時の神のジジイのものだった。


 じ、爺さん。そこに居るのか⁉


「いや、残念じゃが神が直接世界に関わる事は出来んでな。今、わしの思念だけを其方に送っておる」

 聴こえますか? 今貴方の脳内に直接語り掛けてますってやつか。くそ、神らしい事しやがって。それなら、むしろ……。

「……まぁそう言うなや。

 そもそもわしがイッショーケンメー転生呪文唱えとる時に、おまぁがえんやわんや言うたんが失敗の元なんじゃし……」


 ‼ やっぱ、失敗してんのか⁉

「あっ、やっ、そうじゃなくての? 異世界転生は成功しとるんよ? いや、これマジで。

 ただのぉ……ほれ、お主もう気付き始めとぉかんもしれんが……」


 この、何か暗闇で動けない状況の事か。

 ……うん? いや、それ以上にも何か違和感があるぞ?


「ま、ま。そんな訳での?

 興奮したり驚いたりせんといてほしいんじゃがの?

 あれや。あんさんの願いで、魔法が在って自分を剣士にって言ってたじゃろ? あれがね? ちょっと混ざってしもうての。ほほほ」

 爺さんのもじもじとした言葉が脳裏に流れている時、俺の視線に随分と久方ぶりの『眩しさ』という概念が入って来た。

「ガラガラ」と何か崩れる様な音がする。音の重さからして……岩?

 と、するとここは岩に囲まれた空洞か。今までよく酸素が保ったもんだな。


「その~……まっこと申し訳ないんじゃが」

 爺さんのごにょごにょと耳元をうろうろと彷徨う声が未だに流れ続けている。


「んだぁ⁉ おい村長‼ 岩山の中に何かあっぺぇよ! 」

「いや、わしが悪いんじゃないよ? 何度も言うけど、いっちゃん大変な時にごちゃごちゃ要望言ってわしの集中力を切らせたお主にも責任はあるんじゃけえね? いやむしろお主にしか……」


 おい、ジジイ。会話文が繋がると誰が喋ってんのか文法的によう解らんだろうが。最初のが視界の先から聴こえた声だな。


 あ……今、気付いた。先の違和感の正体。

 かぎかっこだ。

 俺、喋って無いのに神の爺さんと会話が成立してるんだ。てゆうか、会話してる実感はあるのに……。

 口が動いてない?


「んだぁ? こりゃあ……」

「というわけでの? 」


 俺は、かくはずのない冷や汗を感じた。

 おい……嘘だろ?

 目の前に光の先からぞろぞろと現れる人影よりも。

 さっきからずっと俺に責任を問うてくる爺さんの言葉よりも。

 俺は2000文字前から迫ってくる伏線に戦慄した。


「こりゃあ……「ちゅうわけで、呪文の手違いでの? でも、ある意味お主の注文通り」だべ。なしてこげなとこに……」

 天丼繰り返しで食らわせられるしつこ過ぎる非常識にツッコミを入れる余裕すら俺にはもう無い。


 俺……俺……。


「魔法が使える剣に転生させちゃったテヘペロぉ」


 魔剣に転生されちゃったのーーーーー⁉

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