第2話 神様の居る場所
……………あれ?
俺は、奇妙な感覚の中に居た。
まるで温水に包まれている様な。温かく、そして懐かしいこの感じ。
静かに目を開くと、そこは見た事も無い黒と蒼の世界だった。
「目が覚めたかね」そう声を掛けられて俺は慌てて瞳を見開く。
そして、声の方向を見るとそこには頭が禿げて髭が腹の方まで伸びて、布切れで大事な所だけ隠した筋骨隆々のほとんど裸に近い恰好の老人が居た。
一目で思った。俺やばいわ。
逃げようとしたが、足が動かない。いや…………俺の……足が……ない⁉
「そう、ここは生と死の狭間。言うなれば『はじめと終わりの世界』じゃ。玉木健司。お主は今日人間として三十年の人生に終止符を打ち。ここに魂だけの存在として在るのじゃよ」
そう。とか言ってる。
ちょっと、なに言ってるのか解らないお爺さんだ。子どもの頃に近所にこういう老人が居たけど、知らない間に山奥の病院に入院させられていた事を思い出す。
俺が、そういう目で見ているとその爺さんは「ふんーーーー」と鼻で溜息をついた。
「信じられんのも無理はない、わしは……お前達、魂を導く存在。つまり、神じゃ」 あ…………。俺の中で、最後のピースがはまった。
この爺さんマジ吉だ。関わると面倒になる。
「あ、あの~ぼ、僕お家に帰って~、再就職の為の履歴書とか書かないといけないんですよ~? 出口って、何処ですかねぇ……」
その言葉を聞いた爺さんは、しばし固まり、そして涙を溢した。
「そうか………まだ自分が死んだ事に気が付いておらぬようじゃな。よかろう。辛いかもしれんが……お主の死の前の映像を見せてしんぜよう」
そう言うと、爺さんが誰かを呼ぶ。
「! 」
なんと、爺さんと同じ様な格好のお姉さん達が現れて、せっせと何か用意している。お姉さん達は背中に羽根のアクセサリーなんかつけてまるで天使の様だ。
皆、外国人みたいだしスタイルレベルたっけー。え? ここってそういうお店なん? と、俺が久々のそういうお店の雰囲気にドギマギしていると、そこには変わった形のモニターがセットされる。
「さて、ではお主には辛い記憶かもしれんが、全てを理解する為じゃて。どうか堪忍せぇ」そう言って、爺さんはモニターに何やら映像を映した。
「なぁ⁉ 」
そこに映った映像に俺は声を挙げた。そうそれはあの公園。なんと俺とあの男が揉み合っているあの時の映像だったのだ。
「こんなもの、いつの間に。」俺は、呆れる様に独り言を呟いた。
「これは、お主の思っている録画映像ではなく、現実世界の生物の記憶から呼び出した記憶映像じゃ」爺さんの訳の分からん説明は無視した。
「さて、ここじゃな」爺さんがそう言って、なにやらリモコンをいじり、画面がスロー再生になった。
それは、俺の胸に男が突っ込んできたあの瞬間だった。
「まず左肺に、一刺し。次にそのまま空気を入れる様に刃を動かして。ほほ。これで大動脈弓をばっさりとイっておる。こら堪らんな」
爺さんは、ものすごーくあっさりと詳しい解説を入れてきた。
「さて、ここで間もなくお主は意識を失い、助けがやってくるんじゃが。ここで、この犯人はなんと、もう逃走を諦めた様での。なんとこの後お主の亡骸を痛めに痛めつけて最終的には、首ちょ………」
「やめろおおおおおおおおおおお⁉ 」
俺の怒声に、爺さんは目を点にしてこちらを見る。
慌てて咳払いを一つ入れると、表情をキリリッと引き締め、こちらを見つめ直してきた。どうやら威厳を一瞬失った事を誤魔化そうとしているらしい。
「理解出来たかの? そういう訳で君は通り魔にぶっ殺されて、挙句仏をこれでもかと痛めつけられて、ここにやって来たのじゃ」
「死んだ後の事まで、知りとうなかったわ‼ 」思わず、目玉が飛び出そうになる。
「まぁ、じゃあ話を戻そうかの………」
そう言うと爺さんの周囲に煙の椅子が出来上がり、そこに爺さんが腰かけた。
「
だが其方は、生きた世界で全くといってもいい程『業』を負わなかった珍しい人間じゃった。
故に、世界統率の神の名において、宣言する」
そう言うと、俺の方に、いつの間にか手にしていた杖を向けた。
「汝、玉木健司の長年の願いを聞き入れ『異世界』への転生を許可する」
…………
なんとなく。
なんとなく、自分があの男に殺されて。
ここが、そういう、死んだ先にある世界なんだという事も解って。
でも、なろう小説みたいにそんな、すぐに受け入れる事も中々出来ず……。
母さん………俺はどうなってしまうのでしょうか?
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