第2話 うるさい王女にご用心

婚約破棄から数日、私はずっと部屋に閉じこもり勉強をしていた……

のだが。

「お嬢ー」

「……」

「お嬢様ー」

「……」

「レイシア様ー」

「……ッ。」

「レイシ……」

「……あぁもう煩いわね!!レオン、それ以上無駄な時間取らせるならクビにするわよ!」

「またまたー。お嬢何回もそう言って残してくれてるじゃないですかー」

私はスクっと立ち上がり、部屋の扉に向かった。

「ちょっとお父様とお話してくるわね」

にっこりと笑ってやると、レオンが血相変えて此方へ向かってきた。

「お嬢!ちょ、本気ですか!!」

「あら、私がそんな下らないことに時間を費やすとでも?」

「いやもうほんとにすいません。」

「……喉が乾いた。お茶を入れて頂戴。」

「仰せのままに。お嬢様」

「こんな時だけ従者っぽい返事しないで。寒気がするわ。」

「……え、そんなに従者っぽい俺変ですか?」

「変ね。」

「そんな……。」

「グズグズしてないでさっさと淹れなさい!」

「はいっ!!」

こんなやり取りがほぼ毎日続いている。




「……木材みたいな味がするわ。」

「そんな筈ないですよ!……あ、でも分かるかもしれない……。」

「お茶淹れる特訓を他のメイドに付けてもらったらどうかしら。」

を強調しないでください俺が悲しみます」

「あんたが悲しんでもどうってことないわよ!

……全く、本当に生意気な……」

「レイシア様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うわっ!?!?」

「レイシア様が婚約破棄されたと聞いて私居てもたってもいられずカミールから馳せ参じましてそれでなんなんですかあの王子とあの女まじであんな女ただのジャガイモじゃないですかあぁアルフォンスの王子様はジャガイモがお好きというわけですねそりゃこんな美しいレイシア様と釣り合わない訳だ。ジャガイモ王子は農民にでもなってジャガイモを育てとけば良いんですよ。」

呼吸しているのかと不思議に思うくらい饒舌に、早口で喋るこの女……。

そう。レイシアの親友。カタリア・カミール……隣国の王女だ。

「それにあのジャガイモ王子……」

「ストップ!!」

「はっ!」

「あのね……。話してる事全部時間の無駄よ!

婚約破棄のこと以外でここに来た理由は!?」

「特にないです。」

「はぁ!?他の用が特に無いのに隣国からわざわざこっちに来たの!?」

「そうです!あ、1つありました。」

「なによ……。」

「レイシア様に会いに来ました」

「それを理由とは言わないわよ!!」

「まぁ良いじゃないですかぁ。ねぇレオンハルトさん。」

「……はっ。えっと、そうですね。」

「ほら!!レオンハルトさんもそう言ってますよ!!」

「あいつ多分寝てたわよ。」

「えっ!!!そんな!!」

「あはは……。すいません。」

「……あ、そうですそうです!私、エドガー王子に直談判してきます!あと、レイシア様からエドガー王子を奪った泥棒猫!」

「……カタリア。ただの時間の無駄だからやめなさいな。それに私は殿下に爪の先程の興味も持っていなかったもの。」

「私の気が済まないです!!!じゃあちょっと行ってきますね〜」

「知らないわよ!!さっさと帰りなさい馬鹿王女!今頃大騒ぎでしょうに!」

「今時私の脱走なんて日常茶飯事ですよぉ。」

当たり前、とでも言うように笑うカタリア。

本当にコイツは頭が悪い。

「日常茶飯事にしたら駄目でしょ!時間の無駄よさっさと帰りなさい!」

「えー。でも……」

「レイシアぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

耳が痛い。この聞き慣れた声は……

「お兄様……」

「あらアルフレッドさん!」

「どうもカタリア王女!……レイシア……婚約破棄されたんだって?なんて可哀想なレイシア!!カミールに留学してる場合じゃないよ!!!あの王子め……。今すぐ息の根を……」

「ですよね!!早速講義しに行きましょう!」

「ですよねカタリア王女!本当に許さねぇあのガキ……

おいレオン!お前何故止めなかった!!」

「…………」

「レオンハルト!!!!!!」

「ふぁいっ!?」

「……あんたねぇ……。」

「お前なぁ……」

「あは、あはは……。」

「とにかく俺は許さん。婚約破棄する側ならまだしもされる側など……」

「そんなくだらない事を言うためにここに来たのであれば即刻カミールにお帰りくださいお兄様」

「えっでも僕はレイシアが心配で……」

「お帰りくださいお兄様」

「でも……」

「お帰りください」

最後強く言うとお兄様はとぼとぼと帰って行った。

……さて。お次は馬鹿王女だ。

「……あんたも早く帰りなさい。」

「えぇ〜。今日は泊まっていきます!!!」

「迷惑よ!!帰りなさいっ!!!」

「……。分かりました。

「全く、ようやく………ん?……?」

「はい。また明日。それでは!」

そう言い残してカタリアは帰って行った。


「……明日も明後日も来るんじゃないわよ!!!」


私は急いで窓の方へ向かい、帰って行く隣国カミール王家の紋章が入った馬車に叫んでやった。

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