11.ごめん
ソファの上で寝てしまうことは週に何度もある。
「……」
それでも今日はまったく眠りにつけない。身体の熱がいつまでもこもり続け、胸が苦しい。徐に自分の薄い唇に触れた。先程まで瑠衣が触れていた唇。
触れたい。
数枚の壁を挟んだ先に欲しいものはある。
口寂しさを紛らわすために葉巻に火をつける。身体中に薬を循環させるイメージでゆっくりと煙を吸い込む。溜め息と共に煙を吐き出して、ずっと存在を忘れていたスマホを手に取った。
「ぅわ」
大量の通知。ほとんどがシャーロットからのものだったので、まずは通知を一つ一つ、手早く削除する。
【大丈夫?】
【今から行くけど、必要なものは?】
いくつかの短文と、三回の着信履歴は瑠衣からだ。
スマホをローテーブルの上に置いて、ふらふらと立ち上がる。
きっといけないこと、きっとひどいこと。分かっていても気持ちだけは正直に寝室へと向かう。
「イチ?」
足音で目を覚ました瑠衣がドアを開けて出てきた。
「どうしたの? トイレ?」
「……違います。ごめんなさい」
樹のジャージを着た瑠衣に抱きつく。
「ちょ!?」
一度押し返そうと瑠衣が肩を掴むが、躊躇った後に腕を樹の背中に回した。
「ヒート時期に抱きついてくるとか襲ってほしいの?」
彼女の胸に顔を埋めたまま言葉を発せず、首を縦にも横にも振らない。振れない。
「……廊下じゃ冷えるよ」
困ったような声で部屋の中へと促してくる。
「すみません」
瑠衣の体温で温まった布団の中に潜り込む。
「瑠衣さん」
同じ布団に入るか悩んでいる彼女を呼ぶ。
「はぁ……。イチは本当にわがままね」
覚悟を決めたのか、諦めたのか、瑠衣も布団に潜り込んできた。そのままぎゅっと樹を正面から抱き締める。
「瑠衣さんはいつも優しいですね」
「分からないでしょ。三分後には理性飛んで襲っているかもしれない」
「カップラーメンかなにかですか」
笑ってちゃかそうとしたところで首の付け根に痛みが走る。
「っ!」
瑠衣の口の中にうっすらと血の味が広がっていく。決して美味しくはない。
「瑠衣さん」
「……」
突き立てられた歯が離れ、今度は耳をかじられる。
傷口から熱が放出されるような感覚。気持ちがいい。
「ごめん」
「……瑠衣さん、座ってください」
彼女の一番熱いところを服の上からそっと撫でる。「うっ」と小さな苦しそうで、気持ち良さそうな呻き声が漏れた。
促しても瑠衣が離れようとしないので、樹は無理矢理布団の中で彼女のズボンを脱がすために下へ引っ張る。
「待っ、イチ!」
「出すものは出さないと治まらないじゃないですか」
「そうだけど、今はちょっと」
「させてください。私だって瑠衣さんにしてあげたいんですよ」
瑠衣の束縛から逃れ、布団を剥がす。
「口でしかできないですけど……」
こんなことをしても樹自身は楽にならない。自分の下着が冷たくなるのを感じながら、喉に流れてきたものをむせながら飲み込んだ。
「……」
瑠衣の方は少しばかり落ち着いたようだ。
ティッシュで口元を拭いながら、
「着替えてきますね。先に寝ていてください」
汗もかいているし、シャワーを浴びよう。着替えて、ナプキンをつけて、もう一度薬を射ってから寝よう。
背中で再度「ごめん」の言葉を聞いてから部屋を出る。
――出た後の瑠衣さんの顔、やっぱり可愛い。
思い出すだけで体温が上がる。
体力を使ったこともあり、眠気も出てきた。
――早く、早く終わらないかな。
ただ瑠衣に触れたい。罪悪感、猜疑心等なしに純粋に好きな人に触れられれば、それほど幸せなことはないのに――
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