第23話 セイレーンの歌声
「ぼ、ぼぼぼ、僕と……付き合ってくだたい」
「……また噛みました」
「ち、違うわざとじゃない!」
「わかっておりますが?」
会長相手に告白の練習をする俺……くっそう……何でこんなに緊張するんだ。
俺は会長に今回の事について一通りの説明をした。
すると会長いわく、告白とかはわからないが、皆の前で行う大事なスピーチ等は前もって準備をし、さらに何度も練習をして本番に望むとか……なので俺も事前に言いたい事をまとめて本番の様に練習したらいいとアドバイスをされた。
俺は昨晩ほぼ徹夜で言われた通り話したい事ををまとめ、本日また生徒会室にて先輩の前で告白の練習をしている所だった。
しかしまた生徒会室にいるけど……昨日といい今日といい、俺達に部屋を明け渡して……現生徒会は大丈夫なんだろうか?
「さあ、もう一度どうぞ」
「あ、はい……えっと……運命の人は貴女でした……ぼ、ぼ、僕と……」
「また噛みました」
「失礼かみました」
緊張する……何がって、元会長の……早苗先輩の視線が……。
昨日の土下座をした時の表情とは全く違う、いつも通りの冷静沈着、アルカイックスマイルの会長。
俺が噛んでも笑うでもなく怒るでもなく、ただただ問題点を指摘してくる。
ホントになんの得があるのか? こうして付き合ってくれる元会長……一体俺は過去何を会長にされたのか?
「うーーん……私はこういう事には不馴れで本当に申し訳無いんですが、一体何を緊張されているのですか?」
「あ、うん……すみません……」
週末への緊張、早苗先輩に対しての緊張……その両方プレッシャーとなって自分にのし掛かって来る。
「……私相手に緊張していたら始まりませんよ?」
「そうなんですが……早苗先輩綺麗なのでやっぱり緊張するって言うか………………!!」
俺がそう言うと正面に立っていた早苗先輩はゆっくりと俺に近づきそして唐突に……抱き締められた。
「な! なななな!?」
「…………じっとして……」
「え? あ、いや……えっと……」
俺の耳元でそう囁くと早苗先輩は更に俺を強く抱き締めて来る……な、何で突然? 俺の身体の正面から先輩の胸の柔らかい胸の感触が拡がる。さらに髪の毛の香りが、甘い先輩体臭が俺の鼻腔をくすぐる……。
その直後今度は早苗先輩が歌を歌い出した。
「眠れよいこよ~~♪」
子守唄?! な、何でここで子守唄?
歌いながら、俺を強く抱き締めながら、背中に回した手で、リズムを取る様に軽く背中を叩き始める。
「…………」
そのまま子守唄を歌い終わるまでの数分、俺は抱き締められたままじっと早苗先輩先輩の歌を聞いていた。
鈴の様な早苗先輩の歌声に聞き惚れる。いきなり抱き締められドキドキと早鐘の様に打っていた俺の心臓が先輩の歌とともに段々と落ち着きを取り戻す。
それと同時に俺の身体が弛緩していく……緊張がほどけてくる。
先輩は歌い終わると同時にゆっくりと俺から離れた。
「どう?」
「……落ち着いて……来ました」
「良かった……昔お婆ちゃんがこうやって寝かしつけてくれたから……」
そういうと早苗先輩は今まで見せた事の無いくらいの満面な笑みを浮かべた。
もし俺が詩ちゃんに出会っていなければ……運命の人に出会っていなければ、早苗先輩の歌声とその笑顔で恋に落ちていただろう……俺はそれくらいの衝撃を受けていた。
セイレーンの歌声……俺は昔この人の歌声で遭難したのかも知れない……。
「さあ、では……もう一度」
「……はい」
こうして俺は早苗先輩の力を借り運命の人に告白する準備を整えた……。
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