第22話 諸葛孔明
「良い? 詩ちゃん……運命の人だからって油断しちゃ駄目よ」
「油断ですか?」
「そうよ!」
詩ちゃんが今度の日曜日遂に運命の人という中学生と会う約束をしたと報告された。
さあ、ここからが私の出番よ! 恋愛マスターの私が詩ちゃんを完璧に導いてあげなければ。
「でもでも……たっくんは私の事大好きっていってくれたですう」
「──あ、あまーーーーーーーい」
「ひううううう」
「甘い、甘いよ詩ちゃん……コーヒーに砂糖じゃなく、砂糖にコーヒー入れたくらい甘いよ詩ちゃん!」
「……美味しそうですう」
「……ジャリジャリするから止めようね……いい詩ちゃん、相手は中学生、詩ちゃんは小学生、でもね詩ちゃん……貴女は見た目は大人の女なの!」
「大人?」
「そうよ、ランドセル背負ってる事に違和感しか感じられない程の大人の身体を持っているの! もう転生かよ! そっちの方がブクマ増えたんじゃない? ってくらいの違和感しか無いのよ!!」
「……ブクマ?」
「そこはスルーで!」
「スルスルスルーですか?」
「そうよ! まず詩ちゃん……そのしゃべり方なんとかならないの?」
「しゃべり方ですか?」
「そうよ! 何故敬語? あとですますの位置が変よ! 作者の文章力が疑われるのよ!」
「作者?」
「それもスルーで!」
「スルスルスルーですう」
詩ちゃんは満面の笑顔でそう言った……いや可愛いけど! 子供か! あ、子供か……。
「それよ! その……ですううぅ、を止めなさい!」
「……私……そんな風に言ってるですか?」
「気付いて無いんかーーい、言ってるなんてもんじゃないから、その容姿でそのしゃべり方ってもう違和感しか無いから!」
今時ギャップ萌えとか流行らない……相手は中学生……ここは大人の女で行くべきよ!
「まあもう今からしゃべり方を矯正しても間に合わない……だからいい? デートの時、詩ちゃんはあまり喋らずに頷いたり首を振ったりしなさい!」
「ふええ? たっくんとお喋りしてはいけないですか? 悲しいですうぅ」
「詩ちゃんいい? 今はまだ釣りでいうと針に付いてる餌をお魚がちょんちょんとつついてる段階なの! だからまだじっとして、相手が針を飲み込んでからグイッと竿を上げるのがセオリーなのよ!」
「さお? ですか?」
「……詩ちゃんが『さお』とか言うとちょっとエロいなあ……」
そう……そうなの……詩ちゃんって……なんかエロいのよ……小学生離れしたスタイルにランドセル……何このコスプレ? って感じだし……さらに夏であるがゆえの薄着が追い打ちをかける……とどめにミニスカート……スラリと伸びた長い足を惜しげも無く出していた……なんでも門限は18時とか……詩ちゃんのお母さんも色々危惧しているのでは無いだろうか?
「エロい?」
「それはまだいいから! とりあえず『うん』と『はい』って、うつ向き加減で言ってれば良いから!」
「う、うつ向くですか? でもでもそれだとたっくんのお顔が見れないですう」
「今は我慢しなさい! 男はね! べらべら喋る女には萌えないのよ!」
「もえ? ですか?」
「そう! 萌えよ萌え、うつ向き加減で首を振る姿に燃えあがるのよ!」
私はそう力説しながら握りこぶしを詩ちゃんの顔の前に突きだした。
「ほええええ……」
キョトンとする詩ちゃん……うーーん大丈夫かなあ?
「──いい詩ちゃん、今が一番大事なの! 相手に舐められちゃいけないの! 男の子にね、こいつ俺に惚れてるなって思わせたら負けなの! 私は……そうでも無いわ……って態度で接する事が大事なの!」
「でもお……私はたっくんが大好きですう」
「駄目よ! それを気付かれては向こうの思う壺よ! 相手はやりたい盛りの中学二年生! すぐに詩ちゃんの貞操が!」
「貞操?」
「三國志に出てくる人物よ!」
「曹操?」
「知ってるのね……」
「三國志は漫画で読んだですう、面白いですう」
意外ね……詩ちゃん歴女なの?
「なら話が早いわ、『優れた人は静かに身を修め、徳を養なう』『穏やかでなければ道は遠い』よ!」
「諸葛孔明ですう……でもなんかここで言うには違うような?」
「細かい事は良いのよ! 要するに騒ぐのは良くないって意味でしょ!」
詩ちゃんがうーーんと考え混む……まずい……ここは勢いで誤魔化そう……。
「今はまだ攻める段階じゃないのよ!」
「ああ、『内部の守りを固めずに外部を攻めるのは愚策である』ですか」
「そ、そうよ!」
それも諸葛孔明?
「わかりましたですう、守りの姿勢が大事って事ですね?」
「そう……今は相手の出方を探る時よ、だから受ける事が大事、総受けの姿勢で行くべきよ!」
「そううけ?」
「それもスルーで!!」
詩ちゃんの初デート……とりあえず相手は告白してくるだろう……詩ちゃんから告白は避けたい……主導権はこっちが奪う。
さあ、詩ちゃん! 恋愛は戦いだ!
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