第20話 何でもします!

 

 常に誇り高い人だった。


 入学式、元生徒会長はその美しい黒髪を靡かせ、美しい所作で俺の前に立った。


 壇上に立つ彼女を見た全ての生徒は尊敬の念を彼女に抱く。


 入学僅か半年も経たずに全生徒の憧れの存在となった彼女は学校史上初、高校入学組、いわゆる外進組初の生徒会長に就任した。


 外進組トップクラスの頭の良さ、クラスは学年トップが集まるA組、さらにはスタイルも抜群で勿論顔もフランス人形の様な美しさ、生徒どころか教師にも信頼は厚く、学校一のスーパースターと言っても過言ではない。


 その彼女が、元生徒会長が……俺の前で、俺の目の前で……頭を床に擦る様に、美しい黒髪を床に散らばしながらひれ伏していた。


「か、かかかか、会長?」

 普段絶対しない、してる奴を見た事無い漫画の主人公の様な噛み方をしてしまう……いや、わけのわからない物を見ると、こうなるよ本当に……。


「私は今は会長ではございません……」

 いつもの様に、いつもとは違う言い方で会長では無いと否定する元会長……。


「あ、あの……何をされているんですか?」


「土下座です」

 うん、見ればわかるよ……。


「いや……だから……何で?」


「言えません……」


「は?」


「今は……言えません……」


「えっと……何で?」


「匠様が私の顔を思い出す迄は……言えません」


「顔?」

 匠様……一体何がどうなってるやら……全く意味不明の事態が発生している事だけはわかった。


「……はい」


「……ど、どういう事?」


「それも言えません……」


「言えないって……とりあえず頭を上げて貰えませんか? 理由がわからないのに土下座されるのって、気分が良くないから」


「畏まりました……」

 そう言うと彼女はゆっくりと顔を起こした。あの気高き元生徒会長が俺の足元で正座をして涙目で俺を見つめる。


「あの……えっと……理由は言えないって……何故?」


「……今は、今は言えません……匠様が私の事を思い出される迄は……」

 一体どういう事だ? 俺は彼女とどこかで会っているという事か? 入学する前……子供の時とかか?

 自分の記憶を探るが思い出せない……神宮寺 早苗という名前でも思い出す事は出来ない……。


 そもそも俺は事故の影響で事故前後と一部過去の事柄も思い出せない事があった。

 忘れているのか、事故の影響か……判断がつかない事がままある。


 消えた記憶……その中の一つなんだろうか……。


「無理に思い出さ無いで……下さい……貴方をこれ以上苦しめたくありません……ごめんなさい……」


「……どういう事?」


「……それも言えません……ただ、私は最低な事を貴方にしてしまいました……その償いをいつかしなければと……ずっとずっと思っていました……」


「最低な……事?」


「はい……本当に申し訳ありません……」


「いや……理由もわからないのに謝られても……」


「それも含めて……申し訳ありませんでした」

 彼女そう言って涙をポロポロと流し始める……いや……泣かれても、謝られても理由がわからないから俺にはどうする事も出来ない。


「えっと……とりあえず座って話しましょう」


「……はい」


 そう言うと彼女は立ち上がり軽くスカートについた埃をはらい、冷蔵庫の前に立つ。

 勝手知ったるという感じで冷蔵庫の中からお茶を取り出しコップに注ぐ……俺には来賓様の綺麗な湯飲みに注ぎ、テーブルの上に置くと俺の正面に腰をかけた。


「──言えない理由も言えないって事?」


「…………はい」


「そか……じゃあもう理由は聞かない……意味無いからな」


「……申し訳ありません」


「それで……その償いはすると」

 そもそもの目的は彼女に相談に乗って貰いたいって事なので、これは好都合と俺はその確認をした……。


「はい! 何でも致します……」


「何でも……例えば?」

 俺がそう言うと彼女は椅子から立ち上がり、躊躇いも無く着ていた服のボタンを外し始めるって……えええええ!


「……何でも……です」

 うちの学校は基本私服、当然制服もあるが私服が面倒な人間か生徒会や委員会に属している者以外はほぼ私服だ。元会長も引退するまで制服だった。

 今日は清楚な白のブラウスに紺のスカート姿……そして今そのブラウスのボタンを全部外し、するりと脱ぐ。


 彼女は着痩せするタイプなのか青のストライプのブラジャーは妹のブラジャーとは比べ物にならないくらいに大きかった。


「いや、ちょっと……」

 俺は思わずガン見してしまう……いや綺麗な人が目の前で突然脱ぎ始めたら、見るでしょ?


 そして彼女はスカートに手をかける……俺がどうするか迷っているうちに彼女のスカートが床に落ちた。

 上下お揃いのストライプの下着姿……俺はその美しさに絶句した。


 そして……彼女は続けざまに背中に手を回す……全く躊躇わない、一連の動作の様に服を脱いで行く……俺は何も言わずにその姿を見つめていた……しかし、ブラジャーの紐が緩み、2つの膨らみが見える寸前……俺の脳裏に詩ちゃんの顔が浮かんだ……駄目だ……俺はこんな事をする為に、彼女にこんな事をして貰う為に……ここに来たわけじゃない……。


「もういい……わかった……止めてくれ……」


「……でも……」


「そんな事は望ま無い……元会長が、神宮寺さんが……俺に何をしたかはわからないけど……だからって俺はそんな事を望んだりはしない、どんな理由があったって……そんな事を貴女にさせたりしない……」


「……匠様……」


「とりあえず……着てください」


 俺は後ろを向いた……これ以上は見てはいけない……彼女の為にも自分の為にもそして……詩ちゃんの為にも……。


「畏まりました……」

 元会長はそう言い少し間を開けると静まり帰った部屋から服を着ているのだろう、衣擦れの音が聞こえて来た。


 相談を持ちかければ、彼女の正体がワカルかと思って藪をつつきに来たら、大蛇どころか龍が出てきた……。

 益々謎が深まってしまった元会長……彼女は一体俺に何をしたのだろうか?


 そして俺はこんな人に恋愛相談なんてして良いのだろうか?





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