第13話 応援する……


 匠と一緒に学校を出た。まだ残暑厳しいこの季節……早く寒くならないかなあって思う。

 夏より冬の方が好き……だって匠に甘えられるから……沖縄出身のお母さんの影響で私は寒がり……って事になっている。


 だから寒い日に匠と一緒なら、くっつける……匠寒いって言って腕に抱き付ける。


 でも……夏も勿論は嫌いじゃない、半袖だから匠の肌と私の肌がピトピトくっつく、もっと腕とか絡めたいけど、匠暑がりだから……。


 私達は並んで歩いている。腕がピトピトくっつく距離で歩いている。目的はタピオカ屋さんだ。


 ふふふふ、ひさしぶりに匠とデート……まあ匠はデートとは思ってないけど。


 でも嬉しい……匠が元気になって……。


 この2年間は悪夢の様だった……匠が事故に遭い長期入院そしてリハビリ……。

 

 匠は左足にほんの少し後遺症が残った……日常生活には問題無い……でも空手は駄目だった。


 蹴りの反応が遅いって言っていた……それ以上にまた頭を打ったら……。


 私は匠に空手を辞めてと言った。匠も了承してくれた。


 そしてようやく同じ学校に入ったと思ったら喧嘩して停学に……空手辞めた意味ないじゃんって怪我したらどうするの! って匠に怒った……匠は謝ってもうしないますって言ってくれた。


 だから私はもう匠に……これ以上求めないって誓った……忘れてしまった約束の事を言って匠を困らせたくない。


 これ以上匠を苦しませたく無い……匠には幸せになって貰いたいって……それが私の幸せだからって思った。



 タピオカ屋さんに着くと私はイチゴミルク、匠は普通にミルクティーを選んだ。

 この店は持ち帰り中心だけど、店の奥に数席だけ座れるスペースがある。

 店は混雑していたけど、偶然にも丁度のタイミングで二席空いたので匠と一緒に座った。


 匠と向かい合って座る……店内は狭くテーブルも小さいので匠との距離が凄く近い……。


 匠は太いストローをかき混ぜながらタピオカを吸っていた。ストローからタピオカが吸い込まれ匠の口の中に入って行くのが見える。


「あははは、面白い」

 毎回見てもこの光景は笑ってしまう……ううん、違う……匠だから……匠と一緒ならなんでも楽しい……でも匠は最近浮かない顔をしている……少し心配……だから今日はこうやって連れ出した。


「ねえねえ、最近匠の帰りが遅いって菜ちゃん心配してたよ?」


「ああ、うん……」


「ねえねえ……」

 やっぱり少し元気が無い……私も心配……でもなんて聞けば良いのか。


「……あのさ……うちの婆ちゃんの事覚えてるか?」


「あ……えっと……うん、勿論」

 あれ? え? これって……あの時と同じ展開? 匠ひょっとして?


 記憶が戻って来た?



「一緒に聞いてたよな、婆ちゃんの運命の人の話」


「うんうん聞いてたよ」

 来たあああああああ、やっぱり来ました! 匠は思い出した! ううん、思い出していない……でもこの展開は……そうだあの時と同じ……匠は全ての記憶を失ったわけじゃない、私との思いでは残っている。


 もう一度あの時の、あの事故前の再現をすれば……私が匠の運命の人ってなる……。


「運命の人にさあ……俺会ったんだ」

 うんうんそう……もう会ってるって、目の前に居るって……匠……。

 私の心臓が高鳴る、これだけ近いと匠に聞こえちゃう……。


「うんうん」


「夏休みの時に……実は会ったんだ、覚えてるか? 俺が夏期講習を休んだ時……あの時会ったんだ……銀色の髪の女の子に……」


「え?」


 それから匠はその女の子の話を続けた……でも途中から私の耳に何も入って来なかった……。

 匠の顔だけが、少しはにかみながら話す匠の顔だけが見えていた……。


「なあ、なあってば」


「…………あ、うん」


「どう思う?」


「え、えっとごめん……何が」


「いや、運命の人だよ、その娘って婆ちゃんが言ってた運命の人なのかなあ?」


「……うん、匠がそう思ったなら……」


「そ、そうか、そうだよな! 会えるかな? 運命の人なら会えるよな?」


「そ、そうだね……うん……会えるよ、絶対に会えるよ……私応援してる」


「そうか! ありがとな! 本当お前にはいつも感謝してるんだ」


「ご、ごめん匠……私急用があったの忘れてた」


「え? そうなの?」


「うん……ごめん行くね」


「ああ、うん、じゃあ……」

 私は席から立ち上がると、急いで店を出た……。


 だって涙が溢れて来たから、匠の前では泣けない……から。


 最後の言葉……聞きたくなかった……あの時と同じセリフを聞きたくなかった。


 私は走った……泣きながら走った……。


 匠に何も求めないって……そう思っていたのに……なぜこんなにも涙が溢れるのだろう……。

 

 ううん……なんでかは……わかっている。

 

 私は匠が運命の人なんて会えなければ良いのにって思ったからだ。


 匠の幸せを願っていると、何も求めないと言ってる側からそんな事を考えてしまった自分が許せなくて、憎くて……だから泣いた……涙が溢れた。


 私は最低だ……だから匠は私を選らばなかったんだ……。



 やっぱり私は運命の人じゃなかった……やっぱり……。



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