第11話 結婚するです!


「ねえねえ匠知ってる? なんか伝説の美少女がいるらしいって」


「あ? 何それ」

 昼休み隣のクラスの純が教室に入ってきた。そして空いていた俺の前の席に座ると何も言わずに弁当箱を俺の机の上に広げた。


 他クラスの生徒が堂々と教室に入って来るも、いつもの光景なので誰も何も言わない……まあそもそも皆俺には無関心を装う。

 1年の時、かかってきた一人をあっという間にぶっ飛ばし、残り数人も目線だけで戦意喪失させた。あの事件以来年上という事もあって、それから皆、俺を避ける様になった。


 なので今俺に話しかけてくるのは純や元会長、後は数人程しかいない。


 そういえばまた今朝も元会長は教室の横を行ったり来たりしていたが、あの人は一体何をしているんだろうか? 謎だ。


「えっとねえ、なんか近所の中学校にふらふらと現れては、じっと生徒を電柱の影から見つめる美少女がいるんだって」


「へーーーー」


「興味無いの?」


「特には……」


「ふーーん、つまんない」


 元生徒会長といい、その美少女といい、暇な奴が多いもんだ。


「なんだろうねえ、一体……なんか妖精みたいだって」

 純そう言うと俺の弁当のおかずを一つ摘まむと自分の口に放り込んだ……ちっ……俺の好きなミーボールを……勝手に食いやがって。

 でも日頃から家の事で世話になってる純にはこれくらいの事で文句は言えない、特に食事に関しては今でもわざわざ作りに来たり、差し入れしてくれたりしている。


「ねえねえ、今日帰り、新しく出来たタピオカ屋さんに付き合ってよ~~」


「いや俺はちょっと……」

 今日も詩ちゃんを探さなきゃ……でもどこを? もう探す所なんて無い……。


「ねえねえ、最近全然付き合ってくれないじゃない、ねえねえ」

 

「わ、わーーった、いくよ」


「やったああああ!」

 

 もう偶然どこかで会える事を願うしか無い……いつか、いつか必ず逢えると信じるしか無い。

 一体彼女はどこにいるんだろうか…………。



◈◈◈



「どうぞ~~~」


「お邪魔しますです」


 放課後詩ちゃんを家に連れて来た。


「今日……誰もいないんだ……」


「そうなのですね」

 新しく友達を家に連れて来た時のお約束、イケメン男子の台詞をぶっ混むも純粋詩ちゃんには通じなかった。このままの流れでやるお約束の壁ドンは止めておこう……。


「良かった、お兄ちゃんは帰って来てないみたい」

 玄関に靴は無かった……最近遅いし、今日も遅いだろう。

 詩ちゃんはキョロキョロと家を見回している。こんな美少女を家に入れてお兄ちゃんに見られたら、本当に惚れかねない。私でさえむしゃぶりつきたいのを堪えてるんだから、お兄ちゃんなんてイチコロだよ。


 恋愛マスターが百合だったとか洒落にならないと、頭を振り煩悩払う。


 詩ちゃんを私の部屋で待たせてお茶を入れお部屋に持って行く。


 部屋に戻ると詩ちゃんはなにやらポーーっとしていた。


「どうしたの?」


「いえ、何かいい匂いするです」


「そう?」


「はい……何かほんのりと……です……なんだろう?」

 目を閉じてクンクンと鼻を鳴らす詩ちゃん……何このヤバい位可愛い生き物は……私は思わずキスしちゃう所だった。


「……おっと、危ない……百合物になる所だったぜい」

 私はヨダレを袖で拭ってから、持っていた紅茶とお菓子をテーブルに置くと天使は目を開けてニッコリ笑った。


「この匂いだったかもしれませんです。美味しそうです」


「あははは、良かった」

 目の前に大人っぽい美少女がいる。でも私は別に緊張しない……こう見えて中身は完全に年下だし、そもそも私は年上のお姉さんには慣れている。


 うん、そうだ……なんか純ちゃんと一緒にいるようなそんな気分になる。


「それで……運命の人ってどんな感じの人なの? カッコいい?」

 学校で詳しく聞くと盛り上がり過ぎちゃうので、私が代表で聞くという空気が出来ていた。勿論言っていい事と駄目な事は詩ちゃんに確認する。


「えっとですねえ、顔はぼんやりとしか覚えてないのです」


「そ、そうなの?」


「はい、たっくんの光が強くて眩しかったです」


「イケメンとかじゃないのか?」

 いくら何でもそれで一目惚れって……あり得るの? 


「うーーんお顔は普通の人だったです、でも凄く優しい感じがしたですうう」

 詩ちゃんは真っ赤になると顔を手で覆った……完全にベタな恋する乙女状態だ。


「えっと……じゃあ次あったら付き合うんだね」


「付き合う?」


「え? 違うの?」


「結婚するですよ?」


「は?」


「運命の人とは結婚するです!」


「えっと……」

 あ、この感覚……これは……完全にヤバい奴だ……たまにいる……恋に恋する子供……知識が全く無い、「私パパと結婚するううう」って言ってる純粋少女……いや……純粋幼女……と同じだ。

 

 純粋なのはわかっていたが見た目が見た目なのでここまでとは……詩ちゃんは……何も知らないのだ……恋愛って何かという事も、大人が何をしているかという事も……汚い所もずるい所も全部知らない……。


 私は震えた、この天使はヤバすぎるって……この容姿でこの知識で運命の人という中学生に遭ってしまったら……。


 狼の前に無防備に立つ赤ずきんちゃんになっちゃう……。


 これは……私がなんとかしなければ……でも……どうやって?

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