第3話 妹登場

 


「ちょっとお兄ちゃん! どこ行ってたの!」

 詩ちゃんと別れ家に帰ると、俺の妹(小6)の菜が玄関で仁王立ちしていた。


 俺の妹、水無瀬菜みなせ あや、黒髪ロングで今日は何故だかツインテール、俺と同様遺伝なのか周りの年代よりも若干小さめの身体だが、手足は長く俺と違ってあまり小ささを感じさせない……うるせえ誰が短足だ! 


 ちなみに菜をあやとはあまり読まない為、皆は妹の事を「さいちゃん」と呼ぶ。正式にあやと呼ぶのは俺と親父くらいだろう……。


 何故そんなややこしい名前にしたかと言うと、親父が出生届を提出する際に彩と書くつもりが間違えて菜と記載してしまったのが原因だったとか……届けが受理されると読み方は変更出来るが、漢字の変更はかなり大変と言われ、結局そのままにしたそうだ。


 しかし親父はずっと気にしていたらしく、後々『菜』と書いて『あや』とも読めると言う文献を見つけ出し、妹が物心ついた時、胸を張りつつその本を見せつけていたが、妹はそれを一瞥した後「別にどっちでもいいし」……と言って親父の事を撃沈していた。


 その妹の『あや』はいつから玄関先に立っていたのか、手を腰に当て、俺を睨み付け仁王立ちしていた。


「いや、どこって……か、夏期講習って言っておいただろ?」


「嘘! 私迎えに行ったけど、今日は休んでるってじゅんちゃんが言ってたもん!」

 迎えにって……わざわざ講習会場に? ストーカーかよ……。


 ちなみに純と言うのは近所に住む幼馴染の事で、俺と同じ学校、同じ塾に通う同級生の事で、妹は純を姉の様に慕っていた。


「来たのかよ……あ、今日は気分が乗らなかったから図書館に行ってたんだよ」


「家の近所の図書館って全部勉強禁止でしょ!?」

 俺は玄関から家に上がると仁王立ちしている妹の横をすり抜けキッチンに向かう……妹は俺の後ろを追いつつ、しつこく話を続けた。


「いや、勉強じゃなくて本を探してたんだ、ってなんでお前に一々いう必要があるんだよ、ストーカーかよ」

 キッチンに入り冷蔵庫を開け牛乳を取り出しコップに注いで一口飲む……いや……詩ちゃんと背があまり変わらなかったショックに……まだ身長が伸びる要素があるかも知れないと一気に牛乳を飲み干す。


「何よ! お母さんに水着買って貰ったから、モテないお兄ちゃんと一緒にプールにでも行って上げようって思って迎えに行ったのに!」


「恩着せがましいわ、素直に連れていって下さいだろ?! そもそもお前となんていかねえよ! 小学生の水着姿なんて興味無い無い」


「当たり前だあああ、興味あったらキモ過ぎる!!」


「俺はツルペタには興味無い!」


「……うん、わかった純ちゃんに言っておく」


「や、やめれええええ」

 純……ペタは知ってたけど……ツルツルなのか……。


「ツルペタ以前に、幼なじみには興味無いんだよねお兄ちゃん」


「それツルペタ関係無いし、なんで俺が純と付き合わなきゃならん」


「……もう、そんな事言ってるから18歳になって彼女も……あ……ご、ごめんお兄ちゃん……」

 そう言ってさっきまで強気だった妹は突然顔を伏せ肩を落としてシュンとなった。


「ん? ああ、良いよ……」

 俺がそう言うも妹はシュンとしたままだ……でも俺はわかっている……妹は俺に彼女がいない事ではなく、年を言ったからだと言う事を……そう……俺は現在高校3年生では無く……2年生だからだ。


 高校2年生で……年齢は……18歳なのだ。


 俺はわけあって昨年周りの人よりも1年遅れで高校に入学した。


 まあダブりというわけじゃないからそれほどでもないが、やっぱりクラスでは俺が一つ年上という事と、とある事情で少し距離を置かれていた。そしてその事は妹も知っており、こうして気に病んでくれる。


「えっと……じゃ、じゃあお兄ちゃん! お詫びに……今日久しぶりに一緒にお風呂に入ってあげるよ!」


「じゃあって、そもそもお詫びになってないい!!」


「えーーー良いのかなあ? こんなピチピチの女子と一緒にお風呂とか、もう今後無いかもよ?」


「毛も生え揃って無い子供の裸に興味は無い!」


「な、なんで知ってるのよ!! エッチ!! 変態!!」


「……いや、さっきツルペタって言って否定しなかっただろが……そもそも一緒に入ろうって言っておいて……それぐらいでエッチとか言われても……」


「ううう、うるさい童貞!」


「お、お前それは兄には言ってはいけないセリフ……って意味知ってるのか!」


「知ってるよ? エッチした事の無い男の人で……」


「──いや……お前まさか……エッチの意味知ってるのか!!」


「セックスの事でしょ?」


「あああああああ、言うなああ……い、今時の小学生って……い、いつ、どこで……ま、まさかお前!」

 誤魔化したのに、俺はせっせせとか言って誤魔化したのに、言うか、お前が言うのか? 

 しかし……マジか……俺が知ったのは中学の時だぞ! どこでそんな事を……ま、まさかお前小学生で既に……兄ちゃんよりも先に!?


「えーー、どこでってそんなの……お兄ちゃんの持ってる本でに決まってるよーーー」


「決まってねええええ、うわ、まさかの俺が原因だった」

 俺はその場で頭を抱えた……マジか……てか、俺の部屋に勝手に入るなとあれ程言ったのに……。


「お兄ちゃん……あのね、黙ってたけどさあ……最近買った本はちょっと引いたよ……さすがにねえ……今回、妹攻略は……駄、目、だぞ!」

 妹は俺を指差しウインクした……。


「ち、違う! あれは違うううううう」


 あやは上目遣いで俺を見つめる菜……ああああ、ち、違う、あれは好きな作家さんが書いてたから、違うんだ、俺は作者と違って、そんな趣味は無いんだああああ! 


「……じゃ、じゃあお兄ちゃん、お風呂行こう!」


「いや、人の話を聞け、駄目だって」

 妹は俺の手を引っ張り風呂場に向かう……いや、数年前まで入ってたけど、さすがに駄目だって……。


「あ、お兄ちゃん、先に入ってて、後から行くから」


「……いや、マジで? 本気で?」


 妹は俺を脱衣場に叩き込むと自分の部屋に向かって行った。さっきの本を母さんに見せられたら俺は終わる……ここは妹の言うことを聞かなければと俺は言われるがまま服を脱いで風呂に入った。


 ってか……風呂入れてあったし……そして俺は脱ぐし……


 軽く身体を洗ってお湯に浸かり暫くすると脱衣場の扉が開いた。


 妹は…………水着を着て風呂場に入って来た。


「どう? お兄ちゃん! 似合う!」

 妹は色んなポーズをして俺に水着を褒めさせた……いや俺は褒めざるを得なかった。


 結局妹は水着を俺に見せつけ褒めて欲しかったらしい……。


 でも俺はわかっていた……こうやって妹は俺に気を使ってくれているって事を、あの事故から……1年半が過ぎた。


 またこうして一緒に風呂に入れた喜びを俺はじっくりと……噛み締めていた。





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