第3話 大魔王サタン

「な、何事よ……!!」


ガラガラガラ!!


勢いよく、ドアを開け、息を切らした青年が入ってくる。


「おい、どうしたんだぁ? そんなに慌てて……俺のスープでも飲んでゆっくりしてけよ」


「はぁはぁはぁ……!! スープなんかいらない!」


「……おぉぉぉい!!! 兄ちゃん、俺のスープが飲めねぇってのか!?」


「違う……!! 出たんだ……出たんだよ!!」


「おい、青年、何が出たんだ?」


今度は、ユウタが青年に問いかける。


「貴方は一体……いやそれよりもおっちゃん! みんな! でた……でたんだよ!! 早く逃げないと!!」


「お、落ち着け!! だから何が出たんだ!」


 おっちゃんはその青年を落ち着けさせようと

 話しかけるが、青年は、居ても立っても居られないという様子で

大粒の汗をかいている。

 それほど緊急事態ということなのか。


「出たんだ……ついにこの町に魔物が……

 それも……ただの魔物じゃない……!!

あれは……サタンだ!!」



 それを聞いて私は耳を疑った……

 サタン……? 嘘でしょ……!?

いえ、きっと聞き間違えよ……!!

だって、こんな平和な村に……


「ちょ、ちょっと貴方!?

 サタンってあの、大魔王サタンのことじゃないわよね!?」


「そ、そうです!! 大魔王サタンです……!」


「そんな……!」


私は、膝から崩れ落ちる。


まさか……本当に……!?


「おい、しっかりしろ女神! サタンってやつはそんなに強いやつなのかよ!」


「……つ、強いなんてもんじゃないわ。人間を滅ぼそうとする魔物界のピラミッドの頂点にして最強。その強さは強大すぎて、人間だけでなく、魔物達の間でも恐れられているわ……」


それに私は、大女神ミカヅチ様から、先日、Sランク相当の勇者たちをサタン討伐に向かわせたと聞いていた。

この世界では、基本的に、勇者も魔物も強さをランクで表される。

一番下をAランクとし、Gまでのランクで評価される。

しかし、Gランクのものの中でも優れた能力値やスキルを持つものは、特例としてSランクとして扱われるのだ。

つまりは、最強の勇者が向かっているはずなのだが……

Sランクの勇者達は一体、何をしているのよ!


「お、おい……どうしてそんな奴がここに……! ここは平和な村なんじゃなかったのかよ!!」


「……わ、私にもわからないわよ!!」


「ど、どうするんだ女神!」


 勇者ユウタも、この危機的状況を感じ取ったのか、

動揺が見られる。


(一体どうすれば……)


くっ……!! でも……私たちがやらなきゃ。

そうよ、ここで逃げたら女神の名が廃るわ……

目の前の青年も助けを求めてる!!

 

「……私は腐っても女神。行くわよ!! ユウタ!!!」


「あ……ああ!!」


 私たちはおっちゃんや青年、

 食堂の人達を避難させるとともに

 青年から聞いた情報から

 大魔王サタンがいる場所へと向かった。


♢ ♢ ♢


 ──辺りには、これまでとは違う、威圧感が漂っている。


「闇の力よ……我の力の糧となりその力を示せ

 デッド・パニッシュ悪魔の鉄槌


 禍々しい闇の中から、

 巨大なハンマーが出現する。


「放て」


 その一言で、巨大なハンマーは、八百屋、道具屋、

装飾品屋、どんな店であろうと

 店を次々に破壊していく。


(なんなのこの常軌を逸した力は……! でも、怯んでられないわ!)



「や、やめなさい!!」


「……なんだ貴様らは?」


「私たちはこの村の平和を守る、女神と勇者よ!!」


 大魔王サタンは小馬鹿にしたように少し笑う。


「ふん……こんなちんけな村にまで勇者がいたのか……」


「あんた大魔王でしょ! 大魔王なら、城でドンと構えているのが普通でしょ!大体あんたを倒しに3人のSランク勇者が昨日向かったはずよ!」


「あぁ……先程、全て返り討ちにしてきたところだ。あまりにも貧弱すぎる。その後、物足りなくなってな、弱小の村でも気晴らしに潰しにきたところだ」


「……な、なんですって!!」


──昨日倒しに向かったと聞いた勇者は間違いなくSランク勇者。

何度も、町や国を救っている。経験も実力も

優れた精鋭が向かったはずなのに……。

 そんな、あっさり倒されてしまったというの……!!

 大魔王サタン……。

 一体どれほどの力を持っているという

 のよ!!

 こんな奴を相手にどうやって……。


「女神……俺を信じろ」


 勇者ユウタが、

 頭を抱えている私の肩に手を当てて、

優しく声をかける。


「ユウ……タ?」


「俺は、先程スキル トマト・カッターを習得した。

 今の俺なら……やれる気がするんだ」


 勇者ユウタの顔は輝いていた。

 太陽よりも眩しいようなその目で、私を見つめていた。

 カッコいいわユウタ……!!

そうよ。忘れていたわ!

 勇者を助けるのが女神である私の役目……!

 私が信じないで誰が信じてあげるというのよ!!


「ユウタ……私は信じるわ……!!

 あいつをやっつけてしまいなさい!!」


「我に刃向かう気か……? 面白い。その勇気は褒めてやろう勇者よ。だが、手加減はせんぞ?」


 大魔王サタンはコキコキと首をならしている。


「いくのよ! ユウタ!! 貴方ならできるわ!」


 コクリと頷いたユウタは、戦う覚悟を決めたようだ。


「喰らえ!!!! トマト・カッター!!!!!!!!!!」


 ユウタの前に丸ごと一個のトマトが出現する。

 赤く、神々しい光をトマトは放っている。

 そしてそのトマトは、一枚一枚

 私たちの目の前でスパスパと切れていく。


 そして、スライスされたトマトは……



 ──地面にただポトリと落ちた。



「「そんなああああああああああああ」」




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