第2話廃墟!殺人ロボット!終末世界!
すとんっと足が硬い地面に着いた瞬間、森羅は叫んだ。
「ちょっと待てよおおおおおおおおお!……あれ?」
怒りの大絶叫が終わるころには神も白い空間も消えている。
代わりにあったのは10メートル近い瓦礫の山だった。前方だけではない。四方は瓦礫と倒壊した何らかの建物が並び、まるで震災か空襲を受けた街のようだった。
「なにこれ?」
瓦礫の一角をぺたぺたと手で触るとコンクリートのような感触。
しかし、破片を持ち上げてみると思いのほか軽い。プラスチックのようだと彼は思ったが、建物丸ごとをプラスチックで作るだろうかと疑問が沸いた。
(あっ、でも異世界ならありうるか?ここ、異世界だよな?あー、いきなり窒息しなくて良かった……)
呼吸できる空気があり、気温も寒すぎず暑過ぎず、重力が百倍になっているわけではない。ひとまずは神様のいう運が味方したなと森羅は胸をなでおろす。
だが、次に胸中へやってきたのは怒りの感情だった。
(いや、説明が足りなすぎだろ!あの畜生めええええ!)
彼は感情のまま瓦礫の破片を目の前の山に投げつけた。
その瞬間、ドオオーーンと耳をつんざくような轟音が響き、彼は悲鳴を上げた。
「うわあああああ!な、なに!?何の音!?」
誰が答えるわけでもなく、轟音は何度も続いた。
そのいくつかは地面を小さく震わせ、彼に一つの可能性が浮かんだ。
(ここ、戦場だったりしないよな?)
水着一枚の男を戦場に送り込む。
あの神がいくら鬼畜でもそんな非情なことはしないだろう。
彼はそう願った。しかし、答えはすぐにやってきた。
瓦礫の向こうからガシャリと音がし、続けてガシャガシャと複数の何かが瓦礫を踏み越える光景を彼に思い浮かべさせる。
(なんか近づいてくるんですけど……)
にょきっと瓦礫の頂上に頭が出た。
コモドドラゴン……のような姿をした銀色の機械だった。
(なんか現れたんですけど……)
その機械は背中に2つの筒を背負っていた。
穴の開いた先端がウィーーーンっと動いて彼の方を向いた。いや、狙いを定めた。
(なんかやばそうなんですけどーーーー!!)
彼は生存本能から地面を蹴って思い切り走り出した。
真後ろではなく右側、倒れた建物の死角に飛び込んだ。
ドシュッと何かが発射される音を彼は聞いた。そして衝撃波と熱がさきほどまで彼の立っていた場所を粉々に吹き飛ばす。
「ぎゃあああああああっ!!」
背中に「死」を感じながら彼は全力で走った。
足が硬い何かを踏んだが痛みなど気にしている場合ではない。止まったら間違いなく死ぬと確信し、両足を交互に動かす。
(あいつ、なんちゅー世界に追放してんだよ!あほ!クソ!死ねー!)
頭の中で美貌の神を何十回も罵り、彼は廃墟と瓦礫で形成された街を全力疾走する。その視界にはちらちらと動くものが写った。
廃墟の壁にはりついたこれもトカゲ型の機械。地面をうねうねと進む黒いゼリー状の物体。空を見ればプテラノドンのような機械が飛んでいた。
そのどれもが彼をめがけて接近してくる。ミサイルらしきものが飛行機械から放たれ、彼が廃墟の角を曲がった瞬間に閃光と衝撃波、熱が背中を襲った。
(あ、これは詰んだ!絶対に詰んだわ!)
森羅は思わず笑ってしまった。
SFチックな武器を持つ動物型メカ。それに対抗する武器など一切持っていない。今の所持品は学校指定の水着一丁だけ。これほどに戦力差が開くと本当に笑うしかなかった。
それでも彼は走ることをやめなかった。背中がチリチリするし、足にも違和感があったが崩壊した街を右へ左へ疾走する。いずれかの建物に飛び込んで隠れようかと思ったが、やり過ごせるとは思えなかった。しかし、このまま走っていてもすぐに力尽きる。その絶望から目に涙があふれそうになった瞬間、彼の耳はドーーンという大砲のような音とは別にガガガッと何かを連射するような音を聞いた。
(機関銃?いや、自動小銃ってこういう音なんだっけ?)
武器の知識などない彼だが、その音はいくつも重なっているのはわかった。
理由もわからず、森羅はその発生源へ向かう。その先には機関銃を取り付けたロボットがいて、自分を蜂の巣にするかもしれない。それでも彼はロボットと敵対している何かがいる可能性にかけて走った。
「ひっ!ひいっ!ふっ!ふおおおおっ!」
彼は自分でもよくわからない雄たけびを上げ、水着一丁で戦場を走る。
その視界の先に現れた2つの生物、いや、人間を見た瞬間、彼は叫んだ。
「助けてくれー!」
彼が両手を上げたのはその2人が自動小銃らしきものを持ち、こちらへ向けたからだ。
ほぼ裸の自分を見て何を思うかなど考えず、必死に声を出す。
「お、追われてるんだ!」
いっそ頭を撃って楽にしてくれ。
そんな言葉さえ出掛かったがぎりぎりこらえる。
接近するまで撃たなかった二人組はやけに背が低く、5メートルほどの距離になってようやく彼は相手が小さな子供だと気づいた。灰色の服を着て黒い小銃を持っている少年。少年兵という単語を彼は思い出す。
「バルーシェ!」
何らかの言葉を発した片方の子は彼を追いかけてきたトカゲに発砲する。
鼓膜が破けそうなけたたましい音だったが今の彼には頼もしい武装だった。
お礼を言おうとしたがもう一人の子供に二の腕をつかまれ、地面に押し倒された。
「ふげえっ!な、何すんだ!?」
彼は抗議するが相手は何事かを叫び、背中に回された両手に何かが巻きつけられた。手首のきつい感触から縄か何かで拘束されたと彼は悟った。
「ま、待ってくれ!俺は敵じゃないー!」
言葉が通じるか以前に彼の服装のせいでどんな釈明も無意味だった。
彼を縛った少年は自分の手首を口に近づけて何かを喋った。そこには銀色の腕輪が光っている。
(無線機か?)
そんな推測をした彼は少年の耳にも何かがかけられていると気づく。縄を引っ張られて立たされ、彼は再び走らされる。
「痛い痛い痛い!そんなに引っ張るな!」
後ろからは自動小銃の音がやまない。
そのまま数十メートル走ると背の低い兵士たちがわらわらと出てきて広報を射撃し始める。この時、彼は援軍たちを喜ぶべきか恐れるべきかわからなくなった。最初こそ命を助けてくれたと感謝したが、自分はどう見ても捕虜の扱い。この戦場で捕虜や不振人物がどう扱われるか。それを想像して暗い未来を幻視した。
(あれ?なにか忘れてるような……)
彼は危機的状況が続く中でなにか重大なことを忘れていると思った。
自分に関する何か。この状況を打開できるような切り札があったような気がすると。
(そ、そうだああああああッ!俺、催眠使いだったあああああッ)
彼はようやく自分が特殊な能力を持っており、そのせいで追放されたことを思い出した。相手の皮膚に接触しながら口頭で命令すればおよその無理難題を強いられる超能力をここで使わずいつ使うのか。そう思ったのも束の間、彼の前に大きな兵士がのっしのっしと歩いて現れた。
「ダリュシェ?ワルッカミオ?」
「……はい?」
彼は謎の言語を喋る大柄な兵士を見上げた。
明らかに190センチはあろうかという大柄な兵士。その太い声からも大人であることは容易にわかる。しかし、問題はその格好だった。
黒いスーツと装甲を融合させたような甲冑で全身を覆い、頭部にもフルフェイスのヘルメットのようなものをつけている。声はその肩につけられた小さなスピーカーから聞こえた。体のどこにも皮膚を露出しておらず、水着一丁の彼とあまりにも異なる服装だった。
森羅は思った。
(この人、明らかにリーダーっぽいけど……どうやって催眠かけるの?)
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